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Vol.Ⅱ【4】
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『仕上がりは、
明後日の日曜日の午後になりますけど、
大丈夫ですか?』
『はい、お願いします。』
『承知しました。
あ…そうだ。
俺、明後日の夜にジムに行くつもりなんですけど、
渡邊さんは?』
『たぶん、行きますけど…。
時間も僕も夜になっちゃうかな。』
『それなら、
仕上がった品物を持っていきますよ。』
『えっ、
そんな、悪いですよ。』
『大丈夫。
これもご縁ですから。』
『そう、ですか…。
すみません、ありがとうございます…。』
ペコリと軽く頭を下げ、
そのまま目を合わさずに出ていこうとするから、
名前を呼んで引き止めてしまっていた。
『アユムさんっ、あ、いや、
アユムくん、かなっ。』
『…。』
ビクリと肩を震わせ、
背を向けたまま立ち止まったアユムくんへと、
カウンターから抜けて駆け寄った。
『これっ、会員カードです。』
『ぁ、どうも…。』
『下の名前で呼ぶの、
さすがに馴れ馴れしかったですね。
ジム仲間になれたと思ったら嬉しくて、つい。』
『滅多に名前を呼ばれたことがないから、
ちょっと驚いてしまって…。』
『俺の悪いところなんですよね、
人見知り皆無なところ。
ほんと謝ります、すみません。』
頭を掻く俺を見て、
クスッと笑う口元を右手で軽く押さえたアユムくんが、
視線を落としたまま言った。
『シノブさんなら、
呼ばれても違和感がない気がします…。』
『あははっ、俺の名前、
呼んでくれた!』
『好きじゃないんです、自分の名前。
でも、
シノブさんに呼ばれると嫌な気はしないです…不思議だな。』
『よかったー!
せっかく知り合えたのに嫌われたかと思ったー!』
『そんな、大丈夫ですよ。
じゃ、また明後日…。』
『はいっ、また!
毎度ありがとうございますっ。』
店を出て、
ガラス窓の向こうを横切るアユムくんが、
大きく息を吐き出したのを見逃さなかった。
同じジムに通う仲間に、
とりあえずはなれたんだろうけど、
大事なお客様には違いないから。
これ以上は彼の素性に首を突っ込まない方がいいんじゃないかと、
脳裏の片隅で予感しながら、
しばらくその場に立ち尽くしていた。
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