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「ご要望通り。フルーツタルトお一つご用意させて頂きました」
「え、ほんと?ありがと!
ごめんね。無理言っちゃって」
実を言うとこのケーキ、急に思い立ってプレゼント選びをした日に注文したものだ。
本当はクリスマスケーキの予約の期日は過ぎていたのだが、ケーキが欲しい旨を亜美ちゃんに話したところ、店売り用のケーキの中から一つ取り置いてくれると言ってくれたので、お言葉に甘えた結果、現在に至るというわけだ。
ただ一つ補足しておくが、自分でフルーツタルトを指定した訳ではない。
何気なく、フルーツタルトがあったらいいなと亜美ちゃんと話していただけだ。
おそらく彼女が機転を利かせて、それを取り置いてくれたのだろう。実にいい子だ。
「いえいえ、とんでもないですよ。
…道中、気を付けてお帰りください!」
世間話をするみたいにニコニコしながら会話をしていた亜美ちゃんだったが、会計が済むと背筋を伸ばし改まった顔をする。
そのままぺこりとお辞儀をしたかと思うと、気遣いの言葉を俺にかけてくれた。
紡がれた言葉に対して頷くと、手を振って別れを告げ、ケーキの並ぶショーウィンドウの前から俺は立ち去った。
軽い足取りで真っ白な雪に足跡をつけていく。
いつもの鞄と可愛いロゴの入った紙袋を手に、赤鼻のトナカイを口ずさみながら我が家までの道を歩いていく。
光祐、どんな顔するかな〜?
付き合い始めて間もない頃…たしか二回目のデートの時だったと思うが、その時立ち寄ったカフェで好きなケーキを聞いたら、フルーツタルトだと教えてくれた。
つまり、あいつの好物でイブを祝えるのだ。
まさかマジで、フルーツタルトが手に入るとは思わなかった。
これに合わせて、昨日紫ワインを買いに隣町まで行った甲斐があった。
紫ワインは白ワインの一つで、酸化防止剤を極限にまで抑えるためにチョウマメを使用した結果生まれたワインだ。
フルーツ系のケーキには白ワインがとても合うので、今日のこのタルトの最高のパートナーになってくれるだろう。
17時近くの銀世界と薄暮の空。
そこはもの寂しげなオレンジ色に染まっていたが、俺の心は色んな感情によって色付けされ、艶やかな暖色に染まっていた。
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