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第28話
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目の前の景色が赤に染まる。あのときと同じ、真紅の赤。そして、まもなく訪れた地獄の時間。それは永遠に続くのかと思われた。
(君が今考えていること、俺なら叶えてあげられるかもよ)
絶望の中にいた大悟に手を差し伸べてくれたのは、神様ではなく死神。その手を取り、やがて愛した。
(オーケー、ハニー。俺と一緒に地獄へ落ちようか)
そう、Kと一緒なら、どんなことがあっても乗り越えられる。Kさえいれば怖くなんかない、彼さえいれば。
「……ご、大悟っ!?」
目を開けたとき、最初に飛び込んできたのは、なぜか階下に住む友人の藤原だった。
「ふ、じ、わら……?」
「マッキーから連絡もらって、マジで焦ったわ。大丈夫やゆう話やったけど、丸一日目覚まさへんし」
藤原の表情が緩むのを見届けて、大悟は起き上がる。自宅ではないが、間取りが似通っていることからして、彼の部屋のようである。
「Kは?」
どんなときでも、目を覚ませばKが駆けつけてくれる。姿が見当たらないことに、大悟は不安を覚えた。
「あー、ちょっと、な」
藤原は答えに迷っているようだった。
「どこ、どこにいるの!?」
「まあまあ、丸一日眠っとったんやから、とりあえず落ち着こ」
直近の記憶が蘇る。亮平に化けてハナムラコーポレーションにやってきたJ。彼は社内に爆弾を仕掛け、レイ達を危険に晒し、亮平も傷つけた。血塗れの彼の姿を見て、大悟はショックを受けたけれど、だからこそ、最期を看取るのは自分の役目だと思った。
大悟の気持ちを考え、自分も一緒にと言ってくれたKだったが、突然踵を返す。
(ガキ共と仲良く地獄へ落ちな、エーデルシュタインのK!)
Jが放った最後の言葉を思い起こし、大悟は起き上がる。あの後、大きな衝撃と爆発音がしたが、それ以降のことは記憶にない。
どうしてKがいないの? まさか、まさか……!?
勢いよく扉を開け放った先にはレイがいた。壁に持たれかかり、大悟の頭から爪先までを見やる。
「その様子だと、体調に問題なさそうだな」
「Kはどこ、どこにいるの!?」
「おまえと違ってまだ意識は戻っていないが、来るか?」
この言い方では、Kは怪我をしていることになる。
「行く! Kに会わせて!?」
藤原に着替えを借りて、レイの車に乗り込む大悟。レイは行き先を口にしないが、おそらく病院だろう。
お願い、K、どうか無事でいて。
祈るような気持ちで窓の外を見つめていると、徐にレイが話し始める。
「Jはハナムラコーポレーションだけじゃなく、須藤亮平自身に爆弾を仕掛けたようだ。会社の爆弾は無事撤去が済んでいる。須藤亮平宅の中には死体がもう一つあった。現時点で身元は判明していないが、おそらく須藤常務の妻だと思われる」
亮平に近づこうとしたKが突然駆け出したのは、そういう事情があってことらしい。
「……亮平、は?」
聞くまでもないことだったが、彼がこうなった原因は大悟にある。だからこそ、きちんと聞いておかなければならない。
「欠片も見つからない。それ程の威力だったようだ」
すぐさま唇を噛みしめ、俯く大悟。言葉が出て来なくて、震える体を抑えるのに必死だった。
ハナムラグループに入社しなければ、大悟と再会しなければ、亮平はもっと生きられた。
ごめん、亮平、謝ってすむことじゃないけど、本当にごめん……!
堪え切れない想いが雫になって溢れ出る。こんなことで泣いてはいけないと思うのに、嗚咽を止められなかった。
「それがあの子の運命だった。そう思うしかない」
厳しい言葉とは裏腹に、レイは大悟の頭をポンポンと叩いた。もしKが側にいたら、彼の胸の中で声を上げて泣いていただろう。
ごめん、亮平、本当にごめん。
今はただ、心の中で何度も何度も謝ることしか出来ない大悟だった。
松田の診療所に行くものだと思っていたのに、レイは都内の救急医療センターの駐車場に車を停めた。
「一般人から爆発の通報があったため、こちらの病院に運ばれたんだ。ここは松田先生と繋がりのある病院で、たまたま診療に来ていたこともあって、すぐに診てもらえた。おまえは帰していいという判断だったが、シラサカに関しては、意識が戻るまで下手に動かすのはどうかという話になった」
大悟の疑問に答えるように、レイは淡々と話した。現実を突き付けられ、大悟の全身に不安がのしかかる。
「そんなに、悪いの?」
「頭を強く打っている可能性がある。咄嗟におまえを抱え込んだこともあってか、内臓に損傷はないから、そのうち回復するだろう」
大悟が無傷なのは、Kが身を持って庇ってくれたから。亮平に引き続き、自分のせいでKを傷つけてしまい、大悟はひどく落ち込んだ。
「大元はおまえじゃなく、シラサカ自身の問題だ。あいつの過去を思えば、この程度で済んでいることを幸運に思うしかない」
レイの言うことに間違いはないけれど、不安な気持ちが拭いきれない大悟だった。
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