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第70話(後編)
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「全員揃ってるな」
どうやらレイはまだ会社にいるらしく、ハナムラコーポレーションの堅気社員である岩田の姿も映り込んだ。彼はお疲れさまですと言って、小さく頭を下げた。
「残業無しって言ったのに、なんでまだ働いてんのさ!」
レイの現状を知り、マキは両頬を膨らませる。
「この連絡が終わったら帰る」
「てか、なんでイワッチもいるの?」
マキは岩田のことをイワッチと呼んでいるらしい。
「岩田さんは元マル暴だから、俺達の知らないことを知ってると思ってな」
「岩田さんって刑事さんだったの!?」
「そっちじゃない。本物の方だ」
マル暴は警視庁組織犯罪対策部や各都道府県の捜査第四課の通称である一方、警察が暴力団そのものを表す隠語でもある。大悟はひどく驚いたが、レイは勿論、Kもマキも事情を知っているらしく、動じなかった。
「切れ者の幹部だったんだよな」
Kが言うと、岩田は照れたように笑った。
「昔のことですよ。それに、皆さんには敵いませんから」
温和で知られる岩田だが、怒らせると怖いという話は嘘ではないようである。
「カナリア、藤原、改めて、今回の仕事内容について話す」
ここからだと言わんばかりに、レイが話を切り出した。大悟は藤原と共にその場で姿勢を正したのだが……
「まず、桜木和己という人間を捜し出せ」
名前を聞いて、大悟はすぐさま藤原と顔を見合わせた。
「それ、藤原のことじゃないの?」
「なんだ、わかってたのかよ」
レイは残念そうに言った。
「俺らを迎えにきた岸本ってオッサンがペラペラしゃべったからな」
Kが言った。
「そういうことなら、第二段階に入る。藤原には桜木和己の記憶がない。どうにかして、その記憶を取り戻せ」
大悟は再び藤原と顔を見合せた後、レイに問いかけた。
「そういうのは情報屋の領域とは違うんじゃないの?」
藤原の記憶喪失はおそらく解離性健忘だろう。トラウマやストレスが原因になっており、治療は医師の指導の元に行われるはずである。
「確かに通常の情報屋が扱う仕事とは異なっているが、藤原がカナリアの手伝いをしたいと言っている以上、避けて通れないことだからな」
大悟にはレイの言っていることが理解出来なかった。
「カナリアは正式にハナムラの人間になった。その手伝いをするということは、我々の領域に踏み込むことになる。身元調査は必要不可欠なことだろ」
「でも、藤原はルミルミさんの──」
「治巳さんと藤原の間に血縁はない」
レイの言い回しは、厳しい上に冷たいものだった。藤原は唇を噛みしめた後、俯いた。
「藤原和己がどういう人間なのかをはっきりさせない限り、カナリアにつかせることは出来ない。これはボスの意向でもあるんだ。カナリア、藤原、おまえらはもう高校生じゃない。仲良しゴッコは終わりにしろ」
仲良しゴッコという言葉を受け、藤原が顔を上げた。
「俺が記憶を取り戻さな、大悟の手伝いはさせられんちゅうことやな」
「そうだ。藤原、おまえは治巳さんやミカさんとカナダで暮らすべきだと思う。ハナムラの手伝いをするということは、犯罪に加担するのと同じ、共謀罪に当たるんだぞ」
Kやマキのように直接手を下さなくとも、犯罪に加担する以上、共謀罪はついてまわる。大悟も事前にレイから説明を受け、了承している。
「勿論わかってる。俺なりにちゃんと考えたんやで。カナダへ戻ることも、日本へ残ることも、これから先のことも」
藤原は真剣だった。大悟の前では常に笑っていた彼の、本当の姿を見たような気がした。
「中途半端な気持ちで言うたんとちゃう。俺は大悟、いや、ハナムラのカナリアのサポートをする。表の世界やなく、裏の世界で生きることを決めたんや」
スマートフォンの画面に映るレイをまっすぐ見つめ、藤原は言い放った。
「足を踏み入れたら、二度と戻れなくなるぞ。それでもいいのか?」
「そんなん今更や。それに過去のことかて、今知らんふりしたところで、いつかは向き合わなあかんことやろ。今の俺はひとりとちゃうしな」
そこで藤原は順番に皆を見た。
「大悟もマッキーもケイちゃんもいてくれるからな!」
胸に熱いものがこみ上げてきて、大悟は向かいに座る藤原の手を両手で握りしめた。言葉とは裏腹に、彼の手は震えていた。
「藤原、ありがとう」
大悟の側にはKがいるが、仕事上は始末屋のリーダーであり、組織のナンバー2という立ち位置だ。裏の世界に長く身を置いているから、新人の大悟とは立場も経験もまるで違う。サポートという立場であっても、気心知れた藤原が側にいるのは有り難かった。
「こっちこそありがとうやで、大悟。カナダで出会えてホンマよかったわ」
手を握ったことで落ち着いたのか、震えが止まった。大悟は改めて藤原と顔を見合せ、笑った。
「はいはい、これで終わり、終了ね」
ここでKが割って入り、自分達の上に手を重ねる。
「ちょっと、僕だけ仲間外れは嫌だよぉ」
それを見て、マキも手を重ねる。四人は互いに顔を見合せ、笑った。
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