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他人(ヒト)から見た自分の評価なんて、嫌というほど知り尽くしている。
「…土下座しろよ。」
五月二十九日。金曜日。某アミューズメントパークの最寄りにあるホテルの一室。掃除が行き届いた空間に、テーブルや椅子、テレビにミニ冷蔵庫といったものが置かれている。テレビの上に置かれたデジタル時計が『PM 08:44』を示していた。部屋中央、天井から下がる眩い照明の下。ふかふか過ぎてちょっと腰かけただけで無駄に身体が跳ねるベッドの上で、青年は仁王立ちしていた。
精悍な顔の青年だった。威圧感のある目元、高い鼻梁、薄い色味の悪い唇。黒い短髪は、まるでハリネズミのようにツンツンしている。背中に龍が描かれた派手なスカジャンに黒いジーンズ姿。青年…伊ノ瀬院忍は、目の前で腹部をおさえて蹲る、哀れな男を見下ろしていた。…男は、某アミューズメントパークの店の制服を身に纏っている。
男は弱々しい動きで顔を上げ…それでも、キッと唇を一文字に引き結んで、忍を睨んでくる。男の顔はすっかり変形してしまっている。右目は腫れあがって半分しか開かれていないし、両頬とも赤くなっている。鼻血はボタボタと落ちて上等なかけ布団を汚している上に、上唇が切れている。元は柔和な顔つきに、亜麻色の瞳、長く伸ばした黒髪を肩の高さで緩く結わえ一房にしていたが…最早、まともに見られる顔ではない。
忍の背後にいるのっぽの翼とちびの陽の二人が、冷やかしの言葉を獲物にかけた。
「…聞こえなかったのかよ。」
面倒だ、と後頭部をがりがり掻き毟ってから、忍は足先で男の顎を無理矢理仰のかせる。男の苦し気な呻き声が切れた唇の間から漏れた。
「土下座しろ、っつってんだろ。」
「…なよ。」
男は顔を捻って忍の足から逃れると、忌々しげにか細く呟く。あぁん??、と忍は小首を傾げてみせた。
「…よく聞こえねぇな。負け犬の遠吠えか??」
男はカッとなったらしく、身を前に乗り出して低く唸る。
「…君ら大学生だろ??αだからって、調子に乗っていると痛い目見るぞ。」
「バカか、アンタ。」
次の瞬間、忍の片脚が宙を舞い、男をベッドの隅にぶっ飛ばした。壁に強か身体を打ち付けた男は、げほごほっと苦しげにむせだす。
「…オレはアンタに、『土下座しろ』って“命令”したんだよ。ほざくなとは言ってない。」
「…最ッ低だな、君…。」
まだ荒い息をしている男を、忍の足がまた張り飛ばす。…今度は片頬を張るように殴ってやる。っが、と変な声だか息だかを出して、男はベッドの上に倒れこんだ。
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