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αの男
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「ねえねえ、見た?柔道部の新入生」
「虎岩君でしょ」
「背高くてびっくりした!」
「めちゃくちゃ強いらしいよ」
「けど、ちょっと怖くない?近寄り難いっていうか...」
「そこがいいんじゃん!日本男児って感じで」
「クールで格好良いよね」
教室の真ん中で女子生徒が盛り上がっている
話題は例の新入生
早くもこんなところまで噂が広まっているようだ
教室の隅、窓際の席でその様子をうらめしそうに見ているのが俺たちだ
純平「あーあ、2年の女子まで虎岩クンにお熱かよ」
樹「マイちゃん?だっけ、振られたな」
純平「うるせ!声がでかい!」
昼飯のサンドイッチをかじりながら純平をからかう樹
普段はしっかり者で頼れる奴だが、時々意地が悪い
対して阿呆な純平は毎度言い返せずにギャンギャン喚いているというのがいつものパターン
樹「ま、相手はαだしな。βの俺らとは持ってる物が違う」
純平「う〜...俺もαに生まれたかった」
購買で二番人気の特製焼きそばパンを悔しそうにムシャムシャ頬張る純平
樹「おい、そんな事言うなよ、普通が一番だって。なあ、陸?」
陸「...…ああ、そうだな」
普通が一番
その通りだ
俺だって、普通になりたいよ
陸「普通が一番だ」
・
・
俺は、βだ
周りにはそう言っている
部活の仲間も、クラスメイトも皆、俺の事をβだと思っている
小学生以来の親友である樹にさえ、真実を明かすことはできなかった
樹が偏見を持って俺を見るとか、そんな事を心配しているわけではない
樹は良い奴だ
それは、俺が一番わかっている
ただ
真実を告げれば、これまでの関係がたちまち崩れてしまいそうで
「お前もβだったか!同じだな」
これでいい
Ωは俺の中だけの事実
普通に学校に通い、普通にバスケをして、普通に友人と昼飯を食うための
小さな嘘だ
樹「お、陸、自販機行くんか?俺の分も買ってきてくれよ」
純平「いちごミルク!」
陸「へいへい」
いいんだ、これで
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