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匂い
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陸「...」
無い無い無い、無い
抑制剤が無い
抑制剤は小さなポーチの中に入れて常に持ち歩いているが、今朝家で服用した際にうっかりそのまま置いてきてしまったようだ
陸「やべ...」
全身から血の気が引くのがわかる
抑制剤は、毎日朝、昼、夜の三回、必ず服用しなければならない
更に昨晩から、ヒートの前兆が見られ嫌な予感がしていた
服用を怠ればフェロモンでαを引き寄せてしまう
Ωであることがバレてしまう
樹「おい、陸」
陸「えっ?」
樹「次移動だって、何回言わせんだよ」
陸「あ、悪い」
純平「しっかりしろよー...て、顔真っ白だぞ」
樹「どうした、具合悪いのか?」
陸「いや、別に、何ともない」
やや心配そうに俺の顔を覗き込む2人にただの寝不足だと説明し、体操服に着替えるべくシャツのボタンに手をかけた
真っ白なシャツをスルリと腕から抜き取る
純平「...ん?なんかいい匂いする」
陸「え」
ドキリと心臓が鳴る
慌ててシャツを丸め、カバンに押し込んだ
そのまま手早く体操服を掴み、髪の毛が乱れるのも構わず頭から被るように着衣した
純平「ん〜何の匂いだ?」
スンスンと辺りを嗅ぎ回す純平に焦り、無意味を承知で制汗スプレーを首元に振りかけた
陸「そ、そんなにおい、しねえけど」
純平「え!するって。すっげぇちょっとだけど、甘い匂い」
樹「あれじゃね」
樹が冷静な顔つきで指さす先では、男子生徒が桃味のガムを口に放り込んでいる所だった
純平「あ〜あれだわ!甘い匂いすると思ったんだよ。なあ、一個くれ!」
男子生徒の元へ駆けてゆく純平を見てほっと胸を撫で下ろし、乱れた髪の毛を指先で整える
樹「......で?本当は何?」
陸「...え?」
樹「何で隠そうとするんだよ」
陸「何、言ってんだよ...別に何も...」
樹「馬鹿言え、お前から甘い匂いとか、おかしいだろ」
樹は両腕を組み、いつもの見透かしたような目で俺の目を見つめる
こいつは、全て分かっている
もう嘘は通じない
そんな気がした
陸「...」
樹「ほら、白状しろ。彼女ができたって」
陸「そうだよな...親友なのに、ずっと黙ってて、ごめ............え?」
俺は間の抜けた脱力感に空いた口を塞ぐこともしなかった
樹は相変わらず真っ直ぐ俺を見ている
樹「...?何だ、違うのか?」
陸「ち、違う、というか、違う...」
樹「じゃあ何だよ」
樹は腑に落ちない様子で組んでいた両腕を解き、体育館シューズをカバンから引っ張り出した
俺の口はポカンと開いたまま、トクトクと心臓の音だけが余韻を残していた
純平「陸、置いてっちまうぞ!」
陸「お、おう」
慌てて体育館シューズを手に持ち2人の後を追って教室を出る
バレていたわけではなかった
やはり、βにはわからないんだ
安堵と脱力感に足取り軽く駆け出した
そんな俺の背中を、じっと見つめる影がいた
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