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危機
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どれくらい時間が経っただろう
窓の外から野球部のかけ声やサッカーボールを蹴る音が聞こえてくる
陸「はぁ...はぁ............」
相変わらず体の熱は取れないまま
それどころか状態は更に悪化していた
陸「...は、ぁ」
気だるい脚に力を入れて、寝返りをうつようにゴロンと体の向きを変えた
それとほぼ同時に、カラカラと扉の開く音がした
ピクリ、と身体が固まる
「失礼しまー......なんだ、先生居ないのか」
陸「...」
息を殺し、気づかれないように、祈るような思いで目を閉じた
誰かが室内をゆっくりと徘徊する音に耳を澄ます
早く出ていけ
怪我の手当くらい自分でしろ
ここには来るな
そんな事ばかりを思った
ペタペタとスリッパの足音が近づいてくる
足音がピタリと止まったかと思うと突然、蛍光灯の白い明かりが閉じた瞼の上から瞳へ飛び込んだ
「うわ、すげ」
陸「っ」
眩しさに細めた目の狭い視界の中に、見慣れない男の姿を捉える
襟元に付けた生徒証のバッジをみると、どうやら3年生のようだ
「お前、Ω?発情期?すっげえいい匂い」
陸「ど、どうでもいいだろ、あっち行けよ...」
男は開いたカーテンを後ろ手に閉め、興奮した様子でベッドに脚をかける
ふわりと漂ってくる匂い
αだ
この学校でαに出会うのは、虎岩恭二郎に次いで二人目だ
俺は最悪のタイミングで最悪の相手に出くわしてしまったようだ
「何、その顔。ビビってる?逃げないの?」
逃げないんじゃない
逃げられないんだ
発情期にαを目の前にして、足に根が生えたように体が動かない
「お前、昼に廊下いたろ。フェロモンダダ漏れで歩いてるからさあ、後で探してやっちまおうと思ってたんだ」
陸「ッわ、来るな、」
ベッドが軋んで音を立てる
毛布を剥ぎ取られ、火照った肌が空気に触れて身震いする
男は舐めるように俺の体を見ると、荒い息遣いで俺の首元に顔を寄せた
陸「ひ、おい、やめろっ」
男の生暖かい舌が首筋を伝う
押し返そうと伸ばした手は容易く掴まれ押さえつけられてしまった
ゾワゾワと嫌悪感が背筋を走る
陸「ぅ、...っい、嫌だ、やめろって...っ」
男は興奮しきってしまっていて、もはや聞く耳を持たない
体格的に、普段なら蹴り飛ばせる相手
俺がΩで、相手がα
たったそれだけの違い
それだけで、俺は相手に適わない
陸「ぅ゛、クソ...ックソが...」
男のぬるい手が服の中に入り込む
横腹をスルスルと撫でられるのを、歯を食いしばって耐えた
「な、挿れてもいいよな、なあ」
陸「は...だ、駄目だ!挿れんなッ、絶対!」
本能に浮かされた男の目には、もう理性はない
男は強引に俺の下着をずらそうとする
その時
「失礼します」
低い声と共に、カラカラと引き戸が開く音
俺に迫っていた男の動きがピタリと止まる
静かに室内へ入ってくる足音に、俺は内心ほっとしていた
今声を上げれば、助けてくれるかもしれない
俺はそんな淡い期待を抱いて口を開きかけた
が、それは一瞬のうちに奴の手のひらによって塞がれた
陸「ぅ、ン゛」
ギロりと男が俺を睨む
声を出したら殺す
そう言われているような
ガンッ
「!」
それで黙る奴があるか
俺は唯一自由な足でベッドの金属部分を蹴った
男は焦ったように、そして怒りも増してもう片方の手で俺の首をギリギリと締め付けた
陸「ッ...ッ、ン゛ッ」
突然、目に飛び込む蛍光灯の光り
二度目のカーテンが開かれた
「何、してんすか」
カーテンが開いた先、蛍光灯の光を遮るほどの大きな黒い影
逆光でよく見えない
息苦しさに滲んだ涙で歪んでいる
陸「ヒュ、はぁッ」
急に、首を締め付けていた手が離れ、肺に酸素が流れ込む
俺が咳き込んでいると、ガシャンと大きな音が聞こえた
朦朧と霞む視界の中、必死に状況把握を試みる
開いたカーテンの隙間の向こう側、俺を襲った男が投げ飛ばされ、机にぶつかり倒れたようだった
「くそっくそっ、柔道強いとか何とか知らねぇけど、調子乗ってんじゃねぇよ」
男は右腕を負傷したのか、片手で押さえながら悪態を吐き捨て去っていった
大男が俺に近づいてくる
俺には何となく、そいつが誰だかわかっていた
陸「...虎、岩」
俺は絶望した
せっかく危機が去ったかと思えば、またαかよ
俺はつくづく、ついてない
俺は虎岩の姿をしっかりと視界に捉えたままゆっくりと体を起こし、ベッドの隅へ後ずさる形で移動する
陸「...何、だよ......来んなよ...」
虎岩は静かに俺に近づくと、俺に向かって手を伸ばした
反射的に両腕を体の前に出すが、虎岩のゴツゴツとした腕はそんな俺の腕をするりとかわし、乱れた体操服に到達した
陸「触るな...!」
火照った肌に虎岩の指先がわずかに触れ、ゾクゾクと変な感覚がはしる
虎岩と俺とでは、まるで虎と犬ころほどの差である
まして奴は柔道全国大会三連覇の男
αとΩ以前の問題だった
覚悟を決めて目を瞑った俺の体に、虎岩がゴソゴソと触れる感触
しかしそれは、ほんの数秒で終わった
陸「...?」
恐る恐る目を開けると、虎岩は俺から離れて何故かベッドのシーツを整えていた
見ると、乱されていたはずの俺の体操服は綺麗に整えられている
陸「?......?...」
恭二郎「.........だから言ったのに」
ため息混じりに呟く
恭二郎「怪我してないですか」
低い声
俺の目を見ることなく、落ち着いた様子で
恭二郎「...俺、用事済んだんで。もう行くんで」
頭がぼうっとして動く気力が湧かない
相変わらずドクドクと鳴る鼓動の向こう側で、虎岩が保健室から出ていく音が聞こえた
俺は色々な感情でぐちゃぐちゃな胸の奥をうまく整理できないまま、虎岩が消えたあとの扉をぼんやり見つめていた
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