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風邪
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陸「よ」
恭二郎「…」
インターホンが鳴った後、数秒置いてガチャリと鍵の開く音
扉がゆっくりと半分ほど開き、隙間から虎岩がひょっこり顔を出した
額には熱さまシート
目は半開きで、火照った顔にはいつもの威厳がまるで無い
虎岩は俺の顔を見るととても驚いた顔をして、何故ここへ、とでも言いたげに目をパチパチさせた
陸「体調悪いのに呼び出して悪いな。これ、やる」
俺は半ば押し付けるようにビニール袋を差し出した
ここへ来る途中のコンビニで購入したものだった
恭二郎「…ありがとうございます…わざわざ、持って来てくれたんすか」
虎岩は相変わらず驚いた顔で、しかし少し嬉しそうな声色で言った
故郷を離れ一人、アパートの一室で孤独に病と闘うなんて
たかが風邪であろうともどうしても可哀想に思えた
俺の勝手は承知だったが、少なからず喜んでくれたようで安堵する
恭二郎「中でお茶でも出したい所なんですけど…」
陸「あ、気にすんなよ!俺が勝手に来ただけだから。なんつうか、こないだのお礼?みたいな…」
そう、俺は虎岩の事が気になってここまで来たわけではない
二度も俺の危機を救った男に借りを作ったままでは男が廃るというものだ
俺は義理堅い男なのだ
恭二郎「ありがとうございます」
虎岩の口元が、少し笑ったように見えた
陸「(笑った顔初めて見た)」
よく見ると口元にホクロがある
火照った顔、眉をひそめ辛そうな表情も相まって、なんだかそれはやけに官能的に見えて
数秒間、俺は虎岩の顔に釘付けになっていた
恭二郎「…?何か付いてますか」
陸「えっあ、いや!何でもない」
虎岩の声に我に返り、俺は慌てて目を逸らした
陸「じ、じゃあ、元気でな、ちゃんと寝てろよ!」
気が動転し、元気でな、なんて訳の分からない言葉を吐き捨て俺はそそくさとアパートを後にした
途中チラリと後ろを見ると、虎岩は扉の隙間から顔を出したままこちらを見ていた
こちらの姿が見えなくなるまでずっと
病人なんだからさっさと引っ込んで寝ろよな、そう思いながら俺はすっかり暗くなった郊外の道を自宅へと進んだ
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