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雨
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下校中、道端に転がる傘が目についた
どこにでもあるような透明な傘
通り道であったので、俺は何の気なしに近づき、多少の好奇心から自然と傘へ視線を落とした
恭二郎「高橋陸…」
なんと、持ち手の部分に氏名が書いてあるではないか
小学生でもなかろうに、拍子抜けした気分で俺はそれを拾い上げた
恭二郎「…」
何だ
この妙な違和感は
雨の中、無造作に放置された開きっぱなしの傘
高橋陸
部活動の途中で姿が見えなくなった
早退だろうか
何だ、胸がざわめいて落ち着かない
兎にも角にも、この傘は畳んで先輩へ届けよう
そう思い手を持ち替えた時、ほんの微かに甘い香りが鼻先をかすめた
指先から頭のてっぺんまでピリリと緊張する
この香りは
恭二郎「…先輩、まさか」
そこからは早かった
考えるより先に足が動いていた
この雨であらゆる匂いが消えてしまう中、傘の持ち手部分に残った微かな香り
覚えがあった
これは、発情期のそれだ
恭二郎「クソっ、どこだ」
この雨で嗅覚は頼りにならない
連絡先を、知らなかった
あれ程側に居たのに俺は先輩の事を何も知らないのだな
親しくなれたと、少し勘違いをしていた
言いようもない焦燥感に、何故か怒りのような感情が混じり合い腹の真ん中に渦巻いている
歩行が困難になり車を呼んだ?
それならそれで良い
もう一つ考え得る最悪の状況がある
俺は柄にもなく舌打ちをして宛もなくただ忙しく足を動かした
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