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雨
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陸「虎…岩」
溢れ出るように奴の名を口にする
その声と同時か、いや、それよりも速く、虎岩は大股で個室内へ進入すると男の肩を力強く掴み、俺から引き剥がした
瞬間、虎岩の顔は、まさしく鬼の形相だった
「痛ってえな、おい!またお前かよ」
男はかなり怒った様子で、体格差も顧みず虎岩に掴みかかる
が、案の定虎岩の体はびくともせず、お返しと言わんばかりに男の胸ぐらを掴み個室の外へ引きずり出した
ポツン、と突然一人きりになり、俺は床にへたり込んだまま呆然とする
開きっぱなしの戸の向こうから、砂利を踏みしめる音、衣服の擦れる音が、雨音に混じり微かに聞こえている
二人が激しく揉み合っているようだ
しばらくすると音は聞こえなくなり、あまりの静けさに逆に不安を抱き始めた頃、出入口からひょっこりと虎岩の顔が覗いた
陸「うお」
恭二郎「先輩」
虎岩は真っ直ぐ俺の元へ歩み寄り、目の前にしゃがみ込むとその大きな両手のひらで俺の頬を包み込むようにしてじっと目を見つめた
虎岩の頬には痛々しい擦り傷
口の端が切れて血が出ていた
恭二郎「…なんてアホ面してんですか」
俺は口を閉じるのも忘れあんぐり顔で虎岩を見上げていた
そんな俺の顔を見て虎岩はほっとしたような、しかし相変わらず怒りに満ち満ちた顔をしていた
俺は安心してしまって、全身の脱力感に浸る
陸「お前、何で…」
恭二郎「傘、落ちてました。怪我ないスか」
虎岩は俺の体を気遣いつつ、そのやけに太くゴツゴツとした親指の腹で俺の頬を撫でる
その呼吸はやや荒く目はギラギラと光っていた
妙に距離が近い
虎岩の顔が徐々に近づいてきている気すらする
俺はまるで釘を刺されたように虎岩の瞳から目を逸らせないでいた
奴の香りが容赦なく脳を刺激している
他のαとは比にならないほどに濃く、脳が蕩けてしまうような甘く魅惑的な香り
呼吸の度体内へ流れ込む奴のフェロモンに心臓がドクドクと脈打ち苦しかった
陸「ん…」
反射的に目を閉じた直後、唇に温かい物が触れる
薄らと目を開くと、至近距離で虎岩と目が合った
俺は混乱した
虎岩の唇が俺の唇に触れていたからだ
陸「ん…ン、」
貪るようなキスだった
壁に後頭部をぶつけて痛かった
けれどその痛みよりも遥かに大きく、温かい何かが胸の中心のあたりに流れ込んで、たちまち満たしてゆくような変な気分だった
恭二郎「先輩、すんません、俺…」
陸「?」
虎岩はおもむろに立ち上がり軽々と俺を抱えあげると、迷わず個室を出て足速に歩き出した
陸「お、おい…何処に」
突然の事にただ尋ねる事しかできない俺を淡々と運ぶ虎岩
肩に担ぐ格好には抵抗があったが相変わらずだるい体を動かす余力もなく、俺は思考を放棄し、ただ目の前の大男に身を委ねることにした
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