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各国壁ドン事情 萌木の国編1
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壁ドン、なる言葉に、萌木の王はふむと顎に手を当てて考えた。
音の響きからして、壁が、ドン、と衝撃を与えるなり与えられるなりするのだろう。
「そんなにも民の間で流行っているのかい?」
傍らにいる臣下にそう問えば、臣下はこくりと頷いた。
「ええ、そのようでございます」
王は現在、視察の真っ最中である。今年の作物の様子を自分の目で確認するため、臣下を連れて王宮を出た萌木の王は、その途中でどこからか聞こえてきた“壁ドン”という単語を耳に留めたのだった。
「出所は黄の国だそうです。黄の国の書物が、今やリアンジュナイル中に広がりまして」
「なるほどね。萌木も例外ではなく、その書物が流行っていると」
「仰るとおりです」
私の娘、息子も好んでいるようなのですよ、と微笑む臣下に、物語を楽しむのは心が豊かになって良いね、と萌木の王も微笑みを返した。
確かこの臣下の子は、少年少女と言って差し支えのない年齢の筈だ。その年代の子も楽しめる話、となれば、そこまで小難しい話という訳でもないだろう。
「君のお子さんたちも、壁ドンが好きなのかい?」
「そうですね、特に娘は憧れているようです」
子供が憧れを抱くものであるらしい。またひとつ情報を得たが、未だ全容は見えてこない。
なんなんだろうなぁ、壁ドン。頭の片隅に留め置きながら、王は農家の説明を聞いた。穏やかな気候の萌木は、今日も気持ちの良い天気だ。適度な雨と日照によって、今年も作物の実りは色好いものであるようだった。まったくもって喜ばしいことである。
「穀物の育ちも順調です」
「ああ、それなら今年の豊穣祭も盛大に開けそうだね」
「何よりでございます」
「本当にね。これも、恵みを下さる神々と、何よりも働いてくれている君たち民のお陰だ。ありがとう」
「ジールワイス王陛下。勿体無きお言葉、ありがとうございます」
そうやって農家と会話をしていた王は、ふと視線を感じてそちらに目を向けた。ぱち、と目が合ったのは木の影に隠れるようにしている数人の子供だ。ひそひそと言葉を交わしていた彼らは、萌木の王が自分たちを見たのに驚いたらしく、中途半端に幹から身を乗り出した体勢で固まった。
「こら! お前たち! そんなところに隠れてこそこそ何をしているんだ! 陛下に失礼だろう!」
遅れて子供たちに気づいた農家の男が怒鳴るように声を上げると、子供たちは全員肩を跳ねさせて、蜘蛛の子が散るように駆け出していった。待ちなさい、と言われて止まる子はひとりもいない。
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