アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
各国壁ドン事情 萌木の国編4
-
呆気に取られる臣下と子供たちを余所に、王は二つの壁を見据えて、ぱん、と手を叩いた。
それを合図に、壁が互いに向かい、猛然と走り出した。ドシンドシンと地響きを立てて互いの距離を詰めた二つの壁は、結構な勢いのまま、盛大に正面衝突した。
ドォン! ガッシャーン!
前者は壁同士がぶつかった音で、後者はぶつかり合った壁二つが砕け散った音である。
砕けた壁はその場でガラガラと崩れて瓦礫と化し、元気に動いていた足は完全に沈黙した。死んだのだろうか、と思わず思ってしまった臣下だったが、そもそも別に生き物ではない。飽くまでも、萌木の王の魔法によって具現化された実体のある幻のようなものだ。それを証拠に、動かなくなった瓦礫と残った足が、砂粒になってさらさらと崩れていく。王が魔法を解いたのだろう。具現魔法は具現化したものを維持する限り魔力を消耗するので、用が済んだら解除するのは当然のことだ。つまり、用が済んだと言うことなのだろうが……。
(何の用だったんだこれ……)
思わず胸中でそう呟いた臣下をよそに、萌木の王は満足そうに微笑んだ。懐かしい日々が、つい目の前に舞い戻ってきたようだったのだ。
「これが壁ドンか。いや、面白いね。時代が変われど、子供たちの遊びはそんなに変化しないってことかなぁ」
そう言いながら振り返った王は、臣下のなんとも言い難い表情を見て、不思議そうに目を瞬かせた。
「…………恐れながら申し上げます、陛下」
彼の搾り出すような声には、様々な感情が入り乱れている。
「……本来の壁ドン、は、……全くの、別物にございます……」
「え?」
王は完全に虚を突かれた、という顔をした。得た情報や自身の体験、子供たちの独楽遊びから導き出した正答を、正答ではないと臣下は言うのだ。
「……自分たちで具現化した壁をぶつけ合って、先に壊れた方が負けっていう遊びだろう? あ、もしかして、足ではなく車輪とかにするべきだったのかな? 確かに、そっちの方がかっこいいかもしれないねぇ」
「……いえ、そうではなく、…………壁をぶつける、という発想自体が、間違いでございます……」
言葉を選ぼうとして選びきれず、結局直球でそう言った臣下に、萌木の王は目を見開いた。それから子供たちへと視線を移すと、誰もがぽかりと口を開け、現状を理解していないように見えた。
「そうか……。童心に返るのも悪くないかもしれないと思ったのだけど、違うのか……。……いやでも、やはりどんなときも、自分をもっと疑うべきだね……。教訓になったよ……」
大きな音を聞きつけた周囲の住人たちが何事かと駆けつけて来るのを見ながら、王は困った顔をして笑った。
ちなみに、王の壁の破壊力と豪快さを目の当たりにして虜になった子供たちを筆頭に、ミレニクター王国では暫く、壁(が互いに)ドン(する)が大いに流行ったという。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
25 / 102