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各国壁ドン事情 黄の国編4
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涼しい顔の王獣とは対照的に、壁とまともに衝突した王は、あまりの痛みに両手で顔を押さえ、うめき声を洩らしながら蹲っている。が、暫くそうした後、おもむろに立ち上がって振り向いた王は、鼻を押さえたまま甘く垂れた両目を吊り上げた。
「おッ、まえなぁ! 俺のこの顔が潰れたら、全世界の女性が悲しむだろうが!」
びしっと指を突きつけてそう吠え立てた王に、王獣はいつも通り無言だ。だが、その瞳は雄弁に彼の内心を物語っている。そう、侮蔑である。
銀の国の万年氷のように冷え切った王獣の目は、そんじょそこらの人間ならば見ただけで震えあがってしまうほどの代物だ。だが、常日頃からその目を向けられている黄の王が怯むことはない。
「ほら見ろ! お前が乱暴に出てくっから、女の子たちがびっくりして距離置いちまってるじゃねーか! 邪魔すんなバーカ!」
ぎゃんぎゃんと言い募る王の言葉通り、先程まで王の間近にまで伸びていた列は崩れ、人々は王と王獣から一定の距離を空けたところで様子を窺っている。
だが彼女らは別に、びっくりして距離を置いている訳ではない。聡明なリィンスタット王国の国民は、このあとに起こるであろう出来事のとばっちりを食らわない位置に避難しただけなのだ。そう、つまり――、
低く唸った王獣が、前脚でドンと地面を叩く。瞬間、空から降ってきた小規模の雷が黄の王に襲い掛かり、ぎゃあと悲鳴を上げた王は、そのまま地面に突っ伏した。
「ぉ、まえっ! 本気で怒、ぅぶっ!」
少し焦げ付きながらも顔を上げて喚こうとした王の頭を、黙れと言わんばかりに王獣が踏みつける。それにより、王の綺麗な顔は再び砂に埋もれるはめになった。そうなってもまだ、王獣の前脚から逃れようと腕をばたつかせていた王だったが、もう一度、最初のものよりも幾分強烈な雷を喰らうと、ぱたりと動かなくなり、完全に沈黙してしまった。
完全に伸びてしまったらしい王を見下ろし、一度鼻を鳴らした王獣は、その襟首を咥えた。王獣が立ち去ることを察した周囲――特にまだ順番待ちの列に並んでいた面々からは王を惜しむ声が次々と上がったが、王獣は一瞥することもなく、来た時と同じ素早い動きで空へ駆け上がり、その口に王をぶら下げたまま、王宮へ一直線に駆け去ってしまった。
残された民たちは暫くの間、消えていった一人と一頭を見上げていたが、こうなった以上、王は暫く王宮から出して貰えない筈なので、壁ドンは諦めて各々の持ち場や家に帰っていく。
誰ひとりとして王の身を案じないあたりが、いやはやいつものリィンスタット王国らしい光景で。
店先の誰かが言った、今日も平和だなぁ、という呟きが、ほわりと空気に溶けていった。
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