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各国壁ドン事情 紫の国編4
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「じゃあ、走ってきて」
「……はい?」
「何してるの。こっち、走ってきて」
何故、と世話係の頭に疑問符が浮かんだが、これまた王命である。故に、逆らうつもりも理由も全くない。ただ、今までの流れからどうしてその命が出てきたのか、壁ドンはどこに行ったのか、という疑問は禁じ得なかった。
(まあ、でも、してくれると仰ったんだから、してくれるんだろうし……)
王の執務室で走る、というのはなんだか落ち着かないが、主君の要請である。
さてどれくらいの速さで走るべきか、と迷った彼女だったが、どうせなら勢いをつけた方が良いだろうと判断した。なんとも思い切りの良い世話係だ。
走りやすいようにとスカートの裾を少し持ち上げた彼女が、大して長くもない距離を結構な勢いで走り出す。狭くはないが広大な訳でもない執務室を、王目指して一目散に駆けてきた彼女は、しかし唐突に物凄い音を立てて後ろにひっくり返った。
ごちーん!
かなり痛そうな音と共にひっくり返った彼女は、何が起こったのか一瞬理解できなかった。だが、ずきずきと痛むおでこに、自分の身に何が起こったのかを察する。
唐突に現れた透明な壁――王の結界魔法による膜に、強かに額を打ちつけて転倒したのだ。
ちかちかと明滅する彼女の視界の中に、ふと影が落ちてきた。揺れる頭で必死にそれが何かを認識しようとした彼女は、徐々に像を結んだその姿に、はっと息を呑む。
王だ。王が、上から覗き込んでいるのだ。
王はいつもの冷めた顔ではなく、明らかに不思議そうで、心配そうで、困惑した顔をして、倒れた世話係を見つめている。
「…………もしかして、壁ドンって、こういうのじゃないの?」
ぽつりと落ちたその言葉に、世話係は先程よりも大きく息を呑んだ。
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