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各国壁ドン事情 銀の国編5
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「おうへーかさま、かべどん、しらないですか?」
「知らぬ。故に説明せよと言っておる」
静かに言う王に、少年は丸くくりくりした目を、更に丸くした。
「かべどん、ゆーめいなのに、しらないんですねっ! おうへーかさまも、しらないこと、あるんですねっ!」
少年の言葉に、母親の顔からはさっと血の気が引き、周囲の人々に再び緊張が走る。なんて無礼なことをと慌てて頭を下げようとした母親は、しかし王に片手で制されてしまった。そして王は、無邪気に驚いている子供に向かって少しだけ目を細めた。
「王とて、知らぬことは多い。万能ではないのだからな」
だから壁ドンも知らぬ、と続けた王に、少年はほあーっと呆けた声を出した。だが、すぐにきりっとした顔になり、身振り手振りを交えて壁ドンの説明をし始める。幼いなりに、与えられた使命をまっとうしようと思ったのだろう。
「かべどんは! こうやって! こうして! かべに、どーんってするんです!」
少年なりに、必死に説明したのは判る。だが、あまりにもふわっとしたその説明では、誰にも伝わらないだろう。事実、王はその表情こそ変化がないが、ちらりと臣下を見やった目には、全く判らぬ、という意が存分に籠められていた。
「説明しようという気概は良い。努力も認めよう。だが、お主はもっと言葉を学んだ方が良いな」
言われた少年は、偉大なる王からのエールだと受け取り、ぴしっと背筋を正した。
「はい! ことば、おべんきょうします!」
「良い子だ」
再び褒められた少年が頬を緩ませている間に、先程イシュティニアと呼ばれた大柄な騎士が、静かに王の横に出た。
「陛下。僭越ながら、私がご説明申し上げてもよろしいでしょうか」
「良いだろう」
「ありがとうございます」
一礼し、騎士は簡潔に壁ドンの解説をした。無言でそれを聞いていた王は、それが終わるとその視線を母親へと移した。
「お主」
「は、はいっ!」
やや引っ繰り返った声で返事をした母親に、王が言葉を続ける。
「その子を抱き上げよ」
言われた母親が、すぐさま子供を抱き上げる。
「では、そのままそちらへ向かうが良い」
そう言って王が指差したのは、近くの建物の壁だった。何がなんだか判らないまま向かう母親の後ろを、王がゆっくりとついてくる。
背後からついてくる王に母親は戦々恐々としていたが、一方の少年は状況がよく判っていないのか、のほほんと母親に抱えられていた。そんな親子と王を見つめる周囲は、何が起きるのか飲み込めていないようで、固唾を呑んでいる。
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