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各国壁ドン事情 黒の国編1
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黒の国では民の多くが夜に活動しているが、だからといって全てがそうという訳ではない。昼に商売をしている者もいるし、子供はどちらかというと昼に活動している方が多い。大体十二を過ぎる頃になると、段々と夜型に移行していくのだ。
そんな訳で昼にしては人の少ない町の外れで、少女がひとり、壁に向かってボールを蹴って遊んでいた。ふんふんと鼻歌まで歌いながら一人遊びを満喫していた彼女は、ふと壁の向こうから姿を見せた人物に、ぱちりと瞬きをした。
近所の菓子屋で売っている饅頭をもぐもぐと食べながら、のんびりとこっちに向かって来ているのは、黒ずくめの男だ。その片手には、食べているのと同じ饅頭がぎっしり詰まった袋を抱えている。のんびりとした、というよりもどこかぼーっとしたような無表情の彼を、少女は知っていた。
「ヨアンさまだぁ! こんにちは!」
「ん? あー、こんにちは」
たたたっと駆け寄ってきた子供に目を向け、ヨアン――黒の王は、気のない挨拶を返した。
「ヨアンさま、お昼なのにどうしたの? 何でここにいるの? お仕事は?」
「この饅頭が食べたくて来た。仕事はサボった」
一切悪びれる様子もなくそう言った王に、少女は、いけないんだぁと声を上げて王を指差した。
仮にも王に対する行動ではないが、そもそも黒の国では、国王が王であるという認識が薄い。自らの集団の頂点に立つものだという理解はあるし、実力者だからと尊敬もされているが、貴い存在だとはあまり思われていないのだ。黒の国には、王族というものが存在しないからだろう。言葉を選ばないのであれば、いわば山賊の頭領のようなものである。
そんな中でも、当代の王は特に王らしくない。基本的に政は宰相のような立ち位置の部下に任せっきり、という、赤の王とはまた違った独特な思考回路を持つ、マイペースな男だった。
そんな訳で、子供に指を差されたくらいでこの王が怒ることなんてない、と少女も知っているのだ。
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