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各国壁ドン事情 黒の国編5
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「どうやったら壁ドンがこんなことになるんですか!!」
「え、知らないけど、俺が投げる壁避けたかったんじゃない? 力試しみたいなものでしょ。でもその割に全然動かなかったんだよね、この子。何考えてんだろう」
「~~~~ッ!」
何考えてんだはこっちの台詞だ、と怒鳴ろうと口を開いた世話役だったが、何度か口を開いては閉じ、最後には重々しい溜息を吐き出すに終わった。この王に何を言っても無駄なのは、それはもう昔から知っていることなのだ。
怒りを何とか静めんとばかりに深呼吸を繰り返してから、ようやく気を落ち着けた世話役は、未だ目を丸くしている少女を振り返った。
「ごめんね、馬鹿なヨアン様のせいで、怖い思いをさせてしまったね。怪我はしていないかな?」
「は、はい」
「馬鹿馬鹿って、さっきから失礼だなぁ」
「ヨアン様は黙っていてください」
王を睨んでぴしゃりと言った世話役が、また大きく息を吐いてから、笑顔で少女の頭を撫でた。それから王に向き直った彼は、怒りも露わな形相でずかずかと主君に歩み寄った。
「さぁ帰りますよ、ヨアン様。お陰さまで書類が溜まっているんです」
「そんなこと言っても、俺どうせ読まずにサインしたりしてるだけじゃん。読んでるの世話役じゃん。もう世話役がサインすれば良くない?」
「一応国王陛下なんですから、サインくらいしてください! 第一、毎度毎度私が要点をまとめて解説はしています! 私の言うがままにサインしている訳じゃないでしょうに!」
それはそうなんだけど~、と言う王の腕を、世話役ががっしりと掴む。
「まずは書類を片付けてください。それが終わったら次はこの壁です。ちゃんと修繕してくださいね」
「何で?」
首を傾げた王の頭を、世話役がすぱこーんと引っ叩いた。
「何でも何もありますか! ご自分で壊したものはご自分で直すものです!」
「ええ……、俺、言われたことしただけなのに……」
ぶつくさ言っている王を引き摺りながら、世話役はふと少女の方を見た。
「あとで改めてお詫びするけれど、取り敢えずそこのお饅頭は、迷惑料として君が食べていいよ。ごめんね」
「え、俺の饅頭なんだけど」
王から抗議の声と目を向けられるも、世話役は完全にそれを黙殺した。最早相手にすまいという強い意志が感じられる。
そのまま引き摺られる王と引き摺る世話役の姿が見えなくなってから、少女はとてとてと饅頭の袋を取り上げた。そこから一つ取り出し、食べる。皮が薄く、程よい按配の甘さだ。多分お高いのだろう。
「……今日のこと、みんなに自慢しなくちゃ!」
壁の大穴と引き剥がされた壁だったものを見つめてから、少女はボールと袋を抱え込み、家に向かって猛然と走り出した。
なんとも豪胆な少女である。
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