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クラリオの日常7
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「うん、ここまでは完璧だ。じゃあ、一、二の、三、でいくぞ? ……一、二の、さ、」
言い終える前に、掌の雷が弾けた。雷に音を閉じ込めるのに失敗したのか、圧縮した微細な電気信号の維持時間に限界があったのか、その辺りは判別できないが、少なくとも王はまたもや失敗したことだけは理解した。そして王が魔法の失敗を認識すると同時に、弾けた雷から制御しきれない大音量が響き渡る。
“王獣リァンは小姑でぇぇぇぇぇす!!!”
黄の王にとって何よりも不運だったのは、精霊たちが音量の調整までもを失敗してしまったことだろう。何故かこれ以上ないほど過度に増幅されてしまった王の声が、王宮中を駆け巡る。弾けた電気信号は壁を抜け床を抜け、容赦なく王の低レベルな悪口を伝えて回った。
本来この魔法は、限られた対象にだけ言葉を伝えるための魔法だ。だが、結果はこの様である。これでは全く使い物にならない。いや、演説なんかには使えるのかもしれないが、単純な音量増幅装置なら既に金の国が錬金魔術で開発済みだ。
(いやいやいやいや、それどころじゃねぇ)
王宮中に響き渡ったということは、つまりそういうことだ。見た目に反して頭が回る黄の王は、魔法失敗から僅か数拍で、己が置かれた状況を把握し、すぐさま行動に移した。
「ごめん奥さんたち! 俺逃げるね!」
そう叫び、続いて風霊と火霊の名を呼べば、王の脚に雷の衣が纏わりついた。脚力を上げ、走る速度を加速するために王が好んで使う魔法だ。
妻の返事を待たずに床を蹴った王が、書庫を出て廊下を駆け抜ける。だが、廊下に出てすぐに、背後から幾本もの雷が王に向かって迸った。死角から迫りくるそれらを器用に避けてみせた王だったが、回避に意識を割いた分、速度が落ちる。そしてそこを狙ったかのように、光の速度で距離を詰めた大きな前脚が、王の長い外套を踏んづけた。
「うおっ!?」
素っ頓狂な声を上げた王の身体が後ろに引かれ、前に踏み出そうとしていた脚が宙を浮く。そしてそのまま、王は見事に背中から引っ繰り返った。
「っ~~~!!」
なんとか受け身を取ったので後頭部を打つことは免れたが、体重を受け止めた背中が軋む。息が詰まって悲鳴すら上げられず、音にならない呻き声を洩らした王の腹を、獣の前脚がどすんと踏みつけた。
「ぐぇ」
潰れた声を上げた王を、王獣が見下ろす。王には王獣の言葉は判らないが、誰が小姑だこのクソガキ、という言葉が聞こえてくるようだった。
「いや、待て、リァン。あれは新魔法のテストであって、別に他意があったわけじゃ、」
言い訳を始めた王に、しかし王獣は耳を貸さない。腹を踏む前脚に更に体重を掛け、王獣リァンは珍しく咆哮した。それに呼応して溢れ出た雷が惜しみなく王に降り注ぎ、憐れな王は悲鳴を上げて失神するのであった。
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