アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
一年後
-
『拝啓、愛するあなたへ。
この手紙を貴方が見る頃には私は死んでいるのでしょう。
もし生きていたら恥ずかしいので破り捨ててください。』
立ち上る炎。硝煙の濃い臭い。地には赤と肉の塊。そして噎せ返る様な鉄の匂い。
フリーランス(雇われ傭兵)をしている俺は、こんな場面を何度も見てきた。
そして、目標を殺してきた。
いつからだろうか。
数多の戦場を駆け抜けた自分はブラックホークと呼ばれていた。
理由は二つある。
ひとつは東洋の血を受け継ぐ俺の髪の色と瞳。
もう一つは闇夜でもほぼ正確に打ち抜く技量。成功率は九割九分。
スナイパーを生業としている俺が最強と言われたのは一年前の話だ。
『恥ずかしながら、紙に記載させていただきます。貴方の好きなラブレターです。』
スナイパーにはバディがいる場合がある。
ロングレンジになればスコープでは撃ち抜けないからだ。
なのでバディが双眼鏡で敵を捕捉し、角度を調整する支持を出す。
そして俺の相方はコンピュータと呼ばれた男だった。
「上12°、下316、カウント開始。
3、2、1、ファイア。」
「ファイア」
バスン、と鈍い音が響く。
「ナイスシュート。」
そんなコンピュータでも俺の前では笑顔を見せた。
『貴方を愛しています。生きている時はぶっきらぼうにしてしまい申し訳ありませんでした。言うとなると恥ずかしくて言葉に出来ません。』
相方と関係を持ったのは約一年と四ヶ月前。
戦場では女っけは、ほぼほぼない。
性欲とは貯まるものであるからして出さなければ意味がない。
しかし右手に頼るのも切ないものだ。
そこで傭兵の中では「両方」イケるやつもいる。
後ろが使えたりするやつも、いる。
相方は両方イケて、後ろが使えるという完璧な奴だった。
バディを組んだのは一年と八ヶ月前。
四ヶ月もよく我慢した、と言うかただ意識をしてなかっただけかもしれない。
『これは遺書ではありません。でも少しだけ、ほんの少しだけわがままを言わせてください。
貴方は、幸せに成らなければなりません。妻を迎え、子を作り、家族を守らねばなりません。』
戦場とベッドは常に一緒だった。
彼を愛していた。
しかし、愛しているからこそ怖くなった。
彼の、死が。
何人もの仲間の死を見てきた。
目の前で死んだ奴もいた。
もし愛するアイツが戦場で死んだら俺はどうするのだろう。
アイツを殺したやつを報復で殺し、その部隊や国ごと滅ぼすかもしれない。
『だから、私のことは忘れてください。』
傭兵にも休暇はある。
雇われなら依頼が来ない限り休暇だ。
相方と一緒に寝過ごした休暇はいい思い出である。
『私の死が貴方を縛るのであれば、それは私が願うことではありません。とても、とても嬉しいことではあります。』
一年前、相方が敵部隊に捕まる事態が起きた。
救出に向かおうとした、がしかしミッション中で仲間を捨てるわけにはいかなかった。
早急にミッションを遂行し、救出に向かった先で発見した相方は、情報を吐かせるために行われた拷問の後と拷問を受けて疲弊した相方が俺の目に映った。
『この生業をしているのです。死は当たり前なのです。人はいつか死ぬもの、そう言ったのは貴方ですよ。』
仲間に相方を任せて俺は国を1つ潰した。
情報を聞いた仲間は唖然としながらも帰ってきた俺を迎えてくれた。
しかし、この戦いが元でスナイパーにはかかせない利き腕が使えなくなって…いや無くしてしまった。
だから俺はこの常夏の島に移住し、貯金を食いつぶしながら生活している。
幸い日本のサラリーマンの生涯年収くらいは稼いだから老後も安泰だろう。
『私は花畑で貴方を待ってますから。さっさと来たら殺しますよ?』
手紙が届いたのは昨日のこと。
傭兵時代の仲間が、相方が何かあったときはこの手紙を渡せと言付かっていたみたいだ。
一年もたってしまったのは内乱が集結したのが最近で、国外に出れなかった事もあり、俺に渡せなかったらしい。
『追伸、お腹を出して寝る癖は直しなさい。何回お腹を壊したと思ってるんですか?』
読み終わった手紙をテーブルに置いた。
頭の中が、ぐるぐると渦巻く。
無責任な野郎め、てめぇのことなんざ忘れてやるよ。
いい女を嫁に迎えて、子供に沢山恵まれて、笑いながら死んでやるよ。
お腹を出す癖なんざ、子供じゃねぇんだ。
もう、治ってるはずだ。
「ちくしょう、雨が降ってきやがった。」
夕日が窓から差し込む夏の夜の雨は、暖かくも冷たい。
「忘れれるわけ、ないじゃねぇか。」
俺が死んであいつと会ったら、なぜ忘れなかったのかと怒られるだろう。
それもまた良いな、と酒を喰らった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 5