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俺が先輩を見つけたのは、新入生歓迎ライブだった。場所は視聴覚室で、色んなバンドが証明に照らされて、キラキラしてた。中学の軽音部なんて比にならない迫力、歓声、狭い教室の中でぎゅうぎゅうになってる人々を見ながら、後ろのほうで壁にもたれて次々と現れるバンドを眺めていた。上手い下手はある。が、うちの高校ちょっとレベルが低すぎやしないか。確かに中学生よりはすげぇけど、想像してたよりずっとショボイ。今まで出てきたバンドはみーんなコピーバンドで、オリジナルは一組もいないし。
並愛には、軽音部というものが存在しないらしい。形上は軽音同好会、活動場所は放送室だなんて、あー俺、進路失敗したかも。松と柳が並愛受験するって知って、なりゆきで俺も並愛にしちゃったけど。デビューめざすなら、外バン組むしかねーかな、なんて、そんなことを思いながらオレンジジュースをすすっていた。
俺は子供の頃からずっとドラムを叩いてきた。自慢できることは、正確な四つ打ちが出来るってだけの身に染み付いたリズム感だけ。だからこそ、この学校にあるバンドの、ドラマーの技術にがっかりした。だいたいのレベルはわかった、もういいや、と思って視聴覚室を出ようとした時、さっきまでとは比べものにならないほどの歓声が背中に突き刺さる。思わず振り向くと、そこにいたのが先輩達だった。
赤いキノコみたいな人がストラトのギターを握っている。気だるそうで細くって、今にも折れそうな人はごっついベースを下げめにかけていて、ドラムはさっきも見たことある人だ。あ、もしかして、ドラム不足なのかな。ただ一つわかるのは、さっきまでステージに立っていた他のバンドとは、圧倒的にオーラが違うことだった。きっと、上手い人の寄せ集めなんだろうな。まあ、いっか。このバンド聴いたら視聴覚室を出よう、そんなふうに思った俺に今では超感謝している。
世界が、変わった。
ボーカルとして最後にステージに現れた人は、俺よりちっさい男だった。後ろの方にいたから、顔はよくわからない。だらだらに伸ばした黒髪が、余計にその人の顔を隠していた。ただ、その人が現れた途端、空気が変わった。程よい緊張感と、心臓の高鳴り。肌がビリビリする。目が、離せない。
「新入生のみんなおめでとう、ようこそ並愛へ!せっかくここに来たんや、アンタらのハート、奪ったるからな!」
小さい体のどこに、そんなに声量を秘めているのか。すごいハスキーボイス、枯れてるのに甘く聞こえるその声が場の雰囲気を盛り上げた途端、ズゥン、と骨に来るような、脊髄を走るようなベースの音から一曲目が始まった。オリジナル、オリジナルだ。あの細い人、めちゃくちゃうまい。ゾクゾクする。腰が震える、すげぇ、すげぇ。追うようにリズムに乗せられたギターの音、癖の強い弾き方をするのに、なんでこんなにあのベースに馴染んでるんだろう。すげぇ。口をポカンと開けて、このバンドを見つめていたら、ドラムが力不足なのが目立つ。あぁ、イライラする。俺なら、もっと引き出せるのに。俺なら、この人たちの心臓になれるのに。人混みをかき分けて、ボーカルの彼が歌い出す前に最前に出る。バチッ、と、ボーカルの人と目が合った。すっげぇ目つき悪い、近くで見るとわかったけど、耳も拡張してるし、見た目怖いすぎさ。チビなのに。チビのくせに。
彼の歌声は、頭がくらくらした。どっからそんな声が出るんだろう、すげぇ好みのロックを歌ってるはずなのに、鼻の奥がツンとした、あ、泣きそうだ、かっこいい。かっこいい、かっこいい。肌がビリビリする、脊髄がウズウズする、音の震度が足から、耳から、肌から、全身に駆け巡るような。まるで、イナズマだ。
なめていた。学校全体のレベルは低い、けど、この人たちは別だ。この人たちは、全然世界が違う。焦がされそうな熱と、震え上がる音と、やっぱり合ってないドラムと、あぁもう、俺が、俺なら、もっとすげぇとこにアンタらを連れていけるのに…!
夢中で聴き惚れていたら、いつの間にか演奏は終わっていた。誰が作曲してるんだろ、ぼーっとする頭の中のにはもやがかかっていた。その時の感覚は今でも鮮明に覚えてる。
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