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Future
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「あ。そういえばさぁ、俺引っ越すで」
あと二時間ちょっとで年明け、そんな時に俺と古賀は相変わらず俺の部屋でゴロゴロしてたら、古賀が「年越しうどんがたべたい」とか言いだした。めんどくさいから古賀に材料買いに行かせたら、惣菜の天ぷらまで買ってきた。まあええか、とそれを使って年越しうどんとかいうもんを作って食いながら、ふと思い出したことを告げる。
「……え?」
古賀のうどん食ってる箸が、ピタリと止まった。俺の口の中にはうどんが入ってる。古賀の目が詳しく言って!と訴えてくるけど、俺の口の中にはうどんが入ってる。古賀が「どういうこと!?」って言うてくるけど、俺の口の中にはうどんが入ってる。ちょい待てや、と 左手のひらを前に出してうどんを噛んでると、なんでかその手のひらを握られた。アホか。もぐもぐもぐもぐ、食もんは百回噛んで飲み込む、ってのを施設におる間ずっと教え込まれとったから、そのくせが抜けへん。やっと飲み込んで沢庵に箸を伸ばして、あ、説明せなあかんのか!と手を引っ込めた。
「あれや、東京や」
「引っ越し先を聞いてるわけじゃなくて、なんで!?そんなに俺がやだ!?」
「なんでやねん、ちゃうちゃう、お前さー夢ある?」
あかん、熱いもん食ってたら鼻水出てくる。古賀に握られてる左手をはらって、テーブルの下においてあるティッシュを取る。ズビーーッ!と盛大に鼻噛んで、ゴミ箱にぽーい。古賀はそんな俺の行動を見てももう動じへんようになってきてる。ちょっと前まで「ご飯中に鼻かむなんて汚いさー!」とか言うてたのに、慣れるもんやな人間って。
ほんで話は戻るけどや。
「夢、って…あるけど、」
「ふーん。何?」
俺の夢を押し付けるつもりは無いんやけどな、今のGactって最高やと思うねん。Gactを作ったんは俺、初代は俺と爽司と恋ともう一人のドラム、そいつはGactのメンバーっていうよりはスケットマンで、Gactにちゃんとした、正式なドラマーはおらんかった。そんなとき、この天才が俺らの仲間入りをした。俺らの音楽性にピッタリのドラム、迫力あるし力強いし、ほんで絶対に狂わへんリズム感。難しい技も平気な顔でやってのけるし、結構むちゃな注文しても上手いことアレンジして持ってくる。やっと心臓が、動き出した。そう思ったら鳥肌が止まらんくて、むっちゃにやけた。
俺の夢は、いまのこの4人でデビューすること。音楽だけでメシくっていくこと。やけど、古賀の夢がそれとかけ離れとったら強要する気はない。爽司にはもう「東京でGactとしてデビューしたいと思ってる」ってことを告げた。爽司は相変わらず無表情のまま「俺もだよ。」「連れていってくれるよね?」「Gactのベースは、俺じゃなきゃできないでしょ。」とまあ、合格100点花マル付きの返事をしてくれた。
あとは古賀と恋、だけ。
恋に関してはあいつはアレ、アホやから多分やりたいこともなんもないんやろう。せやけど努力する精神は人一倍ある。やからこんな短期間で
うちのメインギターを安心して任せられる。恋には選ばせるような言い方はせんとこ、いらんこと考えそうやし。「お前は黙ってついてこいよ」ぐらい言うたらな決断しやんやろ。
で、お前はどうなん、古賀。
俺はみんなより歳上で、更には留年までしてて、恋と爽司とは二つ、古賀とは三つも離れてる。古賀がおぎゃー言うてた時に俺は幼稚園でおぎゃーいいながら怪獣ごっこしてた。それぐらいの差。
こいつはまだ16歳、俺は来年の夏前には20歳、こんなデカイ差がある。まだまだ子供で青春真っ最中の古賀に、デカイ決断を急かすことはできひん。けど、お前のドラムがええんやけどなぁ、お前のちょっと引くレベルに上手いドラムと、爽司のちょっと引くレベルにエロいベースと、恋のちょっと引くレベルに成長の早いギターと、俺の歌があれば、
(絶対、日本中のハート奪える。)
沢庵を口の中に放り込む。バリッパリッ!と沢庵を噛む音がうるさくて、パソコンで見てる年末の放送番組の音が全く聞こえへん。
古賀は、箸を止めたまま。
「えー、うーん、…あの、えっとさぁ」と歯切れが悪い。
「なんなん、言えへんような夢?AV男優とか?」
「ちっげーよ!はず、かしいっていうか、無理なお願いかもなんだけど、つーか本当、笑うかもしんないんだけど」
「はよいうて、二枚目の沢庵食うで」
「それは勝手にして下さい。…えっと、Gactとして、食っていきたい…デス」
キタ。最高や、神様ってこの世におるんやな!俺、カスみたいな人生やったから初めて神様ありがとうって思ったわ!なあ、なんで下向くん?お前最高!
「無理ちゃうよ。俺、そのつもりで東京行くからな!へっへっへっ、お前最高やなぁ、よっしゃ、決まりや、お前が卒業するまであっちでなんやかんややっとくわ!」
「え!?本気!?み、宮内くんとか恋くんとかは!?」
「爽司は即答で行く言うてた。恋はしらんけど多分くるやろ」
「や、……っべぇ…!俺の夢、まじで叶うかも。はは、うん、決めた!庄司くん引っ越しいつさ?」
「あ?そんなん聞いてどーすんのん、3月予定してるけど」
「じゃあ、…俺と一緒に暮らして下さい。」
…………え?なんて?
二枚目の沢庵、食おうと口まで運んだのにぽろっと落とした。それはそのままうどんの中にダイブ。最悪や、絶対この沢庵不味い。いやいやちゃうちゃう、そうやなくて、なんて…?
俺と一緒に?暮らして?はぁ?えっと?お前いくつやったっけ?16やんな?まだ高校生期間残ってるやんけ!?
「アホか!高校は卒業せぇよ!」
「んー?んー…言うタイミングを逃してたんだけどさ、俺留年するんだって。」
「はあ!?」
今度はびっくりする俺とよそに、うどんをすする古賀。二、三回噛んでごっくんと飲み込む。おいまて、お前もっと噛んで食え!とかツッコミたいけどそれよりツッコミたいのは、留年!?…留年?!
「お前…そんなアホやったん…」
「すでに留年してるアンタにそんな呆れ顔されたくないさ。留年しても学校通うべきかすげー迷ってたんだけど、庄司くんが東京にいくなら俺もいく。あと三年も待てない。あと遠距離恋愛は無理」
「恋愛とかしてへんやんけ…おい…お前正気か?たしかに俺が言えたことちゃうけど、高校の青春ってのは今しか味わわれへんことやで?」
「…俺の青春は、高校生であることじゃなくて、アンタたちと音楽を創ることさ。だーいじょうぶ!………待たせたくないんだよ。」
にこり、と古賀が笑う。その緑色の目に一切の迷いがなかったから、あーもうこれ、何言うても無駄やな、と察した。
「えーー…お前と暮らすんかい、めんどくさっ」
「ひっでーー!家賃も半分こできていいっしょ!」
「食費は二倍やろ。っていうかお前また背ぇ伸びたやろ、今なんぼあんのん」
「どうだろ?恋くんとあんまり変わらないかな、175ぐらい?」
「化け物か!壁か!半年前より10も背伸びてんの!?意味わからん怖いそんな奴と一緒に住みたくない俺の寝場所なくなりそう」
「俺の腕の中で眠ればいいさー」
「変質者かお前は」
「なんで!?恋人を腕の中に呼ぶのは普通でしょ!?」
いやだから、俺たちって普通の恋人ちゃうやんか。ってツッコミいれんのもう何回目?って感じやからここはスルーしとこ。そうかー、この関係も一ヶ月もしたら終わると思っとったけど、なんやますますめんどいことなったなぁ。あの日からもう一ヶ月、経ったのに。相変わらずこれに飽きる気配のない古賀。ほんでこれに慣れつつある、俺。
時計の針が0時を指した。パソコン画面にうつる番組では、あけましておめでとうございますー!とか言うてる。あ、年明けたんか、とパソコンに視線をむけると、古賀が「庄司くん」と、俺を呼んだ。
「今年もよろしくね。」
「おー。…せやな。お前用の布団買っとけよ、俺の歯ブラシ間違って使うなよ、生活費は三分の二負担してな!」
「最後全く意味わかんないから、最後以外は了解さ!」
「最後を一番了解せえや!」
そうか。今年からは古賀が家おんのか。そうか。帰ってきて、一人ってこともめっきり減るんか。誰かが家におって、「おかえり」って言うてくれる日がくるなんて、あんまり想像もしてへんかった。
「…お前オカンとかにちゃんと言うとけよ」
「うん!多分笑いながら了承してくれるさ、ウチは家族が多いからね!」
「なんやそれ、関係あるかー?」
「めちゃくちゃあるよ!夕飯とか戦争だもん!」
べらべらと家族のことを話す古賀、それを聞きながら笑う俺。ええな、羨ましい限りやん、大家族。
…………どうしようかな。俺は。
俺はまだまだ古賀に言うてへんことが山ほどある。家族のこと、耳のこと、ほんまは男に抱かれたことがあること。
マルボロの匂いが嫌いな理由、唐突に髪を切った理由、
全部話すには、まだ早いのに。いつか全部話さなあかんようになる、きっとそうなる。
お前も俺も別にお互いに恋をしてるわけちゃうけど、お前も俺も色々と足りてへん。きっとそのせいや、そのせいでこの先もこんな中途半端な関係でおるんやろうな。
これでええわけないのに、これでもええかと思ってる自分が怖いから、自分にも釘をさすように言い忘れてたことを古賀の話を遮るように口にだす。
「あと、あれや、女か男かしらんけど恋人できても部屋連れ込むなよ」
ぱちくり、いちどの瞬き。
ほんで盛大なため息が聞こえてきた。
「…はあ〜〜〜〜。ほんっとわかってないなぁ、アンタ。」
「何がやねん。っていうかあれやで、うどん伸びんで」
「アンタが居るのにそんなことするわけないじゃん。恋人と二人暮らし!と思って俺、はしゃいでんだけど」
「だから俺ら別に、」
「俺は絶対アンタを好きになる。絶対、好きになる。なんかそんな気がするんさ、だから、恋人じゃないなんて言わないで。寂しい思いさせないって約束するから」
「…………まって…ちょっと見てこの鳥肌…今ゾッとした…やばい…」
「なんでアンタそんなに空気読めないの!?」
ぽつぽつ鳥肌の立った腕を古賀に見せつける。ゾッとした。ほんまに、色んな意味で、な!
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