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憧れが恋に変わる確率、を考える。
ふよふよと風に髪を靡かせる、自分よりずっと低い位置にある頭。ふんふんと鼻歌を歌う、俺たちの魂は、何を思ってラブソングを作るんだろう。
「庄司くんが作るラブソングって、凄い大恋愛でもしてるような気分になるさ」
「ほー。あ、なぁ、晩飯焼き鳥でいい?」
「うわー、俺の言葉に興味なさそーー!」
「ネギマ食いたいなー、ビールと」
「アンタよく年齢確認されないね?」
「されへんような店行くんやって。」
壮絶な恋愛でもしたことがあるのかな。庄司くんの作る曲にはデカイ落とし穴がある。そこにドボン、嵌ったら最後で。二度と抜け出せない。甘いラブソング、苦いラブソング、経験に基づいていますか、そんなこともないですか、まだまだ謎でいっぱいで、一度も確信に触れたことはない。
庄司くんについて俺が知っている事は。歌が上手い、料理もできる、一人暮らし歴がながい、人情がある、あと可愛い。それぐらい。
「全然知らないな」
「え?なんやって?」
「もー!アンタほんとにパチンコ行き過ぎなんじゃない?耳遠いさー!」
そしてよく、俺の言葉に聞き返す。あんまり人の話聞いてない。なのに何故か人の核心は分かってる。変な人。
「お前の声がちっさいねん!」
すぐ他人のせいにする、大きい口を開けて笑う、可愛いから許す。それの繰り返しの毎日。
本当はもっと触りたい、恋人みたいなことがしたい。恋人ごっこ、と庄司くんが割り切るのは、恋人になりたくない理由があるのか、それとも俺が男だからか、本当に信用がないのか、どれだろう。
居酒屋に到着して、本当に年齢確認はされなかった。あともう少し、あともう少しで庄司くんはまた一つ歳をとって、俺より先に大人になる。たったの三歳、と侮っていた年齢差が、まさかの四歳差になってしまう、ハタチの誕生日には、何を贈ろう。庄司くん、何がほしい?きっとまた笑いながら、本当に欲しがってるものは隠すんだろうけど。「金」とかいいそうだな、と思って一人でニヤニヤとしていたら、ばしっと背中を叩かれた。痛い。
「なーにするんさー!酷い!」
「お前何飲むのん?」
「え、生でいいよ」
「んー」
のれんで区切られた半個室に入った途端、庄司くんがメニューを眺める。胸元の空いたシャツの隙間から、鎖骨の薄い皮をぶち抜いたピアスが光っている。痛そう、って言うたびに、そんなやで。と言われる。そんなやで。なわけがない、のに。
「お前なんでそんな暗い顔してんのん?」
かちっ、とタバコに火をつける、庄司くんが半笑いで聞いてくる。俺暗い顔してません、気のせいだよ。それかアンタが目ざといんだ。言い返すのもアレなので「何たべよっか迷ってた」と言ったら、「もも、かわ、つくね、ハート、あとネギマやな。」と自分の食べたい物をあげていく庄司くん。俺、ハート苦手なんだけどなぁ、と、言いにくい雰囲気だから何も言わずに「いいねー」と相槌を打つ。
俺は、と庄司くんの手の中からメニューをぶんどって、こってこてのレイアウトを眺めて、枝豆と鶏皮チップスかなーとか考えていると、清楚目な店員さんがやってきた。
「お飲み物からお聞きしても宜しいですか?」
「宜しいですよー、生二つで。あと注文してもーてもいいですか?」
「はい、どうぞ。」
「枝豆と鶏皮チップス、焼き鳥のもも4本、かわ4本、つくね2本、あとネギマ4本。ハート1本。全部塩で。とりあえず以上で頼みますー」
「はい、かしこまりました。えっとらお連れ様は?」
「えっ、ああ、いいです、また後で。」
「はい。失礼しますー」
にこり、と営業スマイルの店員さんが席から離れていった。俺は今、とてもびっくりしてる。
「なんで俺が鶏皮チップスと枝豆食べたいと思ってたこと知ってるんさ!?」
「ん?お前いっつも居酒屋で頼むやん」
「すげーエスパー!しかもハートも嫌いなの知ってたんだ?!言ったことないよね?!」
「俺ら打ち上げでよー焼き鳥食いにいくやん、ほんでお前はハートとか肝とかそういうんは絶対箸つけへんやろ」
なんでもないような顔をして、ほんっと良く見てる。もくもく、庄司くんの左手の、人差し指と中指の間に挟まれているタバコの煙が、宙を舞っている。あー、すごいなぁ。敵わないなぁ。どうしてそんなによく人の事を見れるの?趣味なの?性質なの?わからないけどやっぱり、尊敬してしまう。
俺も三年後、今のアンタと同じ歳になったら、同じことが出来ているんだろうか。
無理、だろうなぁ。
「ま!爽司はほんまに男か?っていうか人間か?ってぐらい食わんと豆腐とサラダばっか食ってるけどな!あいつ前世絶対シマウマやわー」
「シマウマ?!なんでシマウマ!?」
「は?シマウマは草食動物やろ」
「ほかにも草食動物はいるさー」
「あ、でもあいつ草食動物ちゃうかも。…爽司怒らせんなよー、いうてもあんま怒らへんけど、普段怒らへん奴がキレたときは覚悟したほうがいい」
「え。俺、爽司くんがキレてるとこ見たことないさ?呆れてたりするとこはあるけど。」
「あいつ優司のことになるとヤバイで。前に優司がカツアゲされそうになったん知ってる?」
「なーにそれ知らないー!優司?なんで優司!?」
「アホやからやろ。アホやいうてもアレは流石爽司の弟なだけあって簡単にカモられたりせぇへんけど、それたまたま爽司と俺が見とってさぁ」
「えーー!いつの話さーー!」
「一年前ぐらいちゃうのん?お前が涼ちゃんに心を奪われて泣いてる時らへん。でな、あの爽司が真顔でやで?首ぽっきぽき鳴らしやるねん。」
「お、おぉ…」
「それ、裏庭での出来事なんやけど。あいつ辺りを見渡してなー、花壇あったやん?裏庭の花壇」
「あったあった!花壇っていうより、木材置き場だったけど。」
「せやねん!いっちゃんゴツい木材握って、あいつ優司に絡んでた奴らの背後から…」
「まさか…」
「……………」
「……………」
「まじで……?」
「おお、ガツン!やで…えぐいやろ…」
「…怖っ、それ真顔さ?真顔でやってるんさ?怖すぎ」
「真顔やねん、ほんで何でない顔して頭どついて、意識朦朧としてる倒れこんだそいつの頭を…」
「踏んだり…?」
「いや…掴みあげてな…」
「…」
「『死にたいの?』って一言…」
「こっっっわ!!!!!俺明日から爽司くんに敬語使お…!!」
「こっわいやろ?!俺もビビって何もできひんかったもんな!ほんでそいつな!その優司くんにやかってたやつな!俺のクラスメイトやってん!」
「ぶはっ!!なにそれ!」
「むっちゃおもろない?!俺もー笑ってもーてさー!」
爽司くんの話で盛り上がっていると、さっきの店員さんが生ビールを二つ持ってきた。俺たちがあんまりにも盛り上がっていたからか、少し小さめの声で「失礼します、お飲み物お持ちしましたー」という、彼女からビールを受け取って「ありがと!」と笑いかける。そくささと仕事に戻る彼女は、またすぐに俺たちのテーブルに戻ってきて、鶏皮チップスと枝豆を持ってきてくれた。
「よし、ほなお疲れさーん」
「お疲れさまー!」
がしゃん、泡が手にこぼれて来るぐらい勢い良く乾杯して、ごくごくと飲むと、ビールの苦味が口の中を支配する、あー美味しー、と思っていると、ジョッキから口を離した庄司くんの口の周りが泡まみれになっていた。のが、面白くてぶはっと吹き出す。
「きったな!!なんやおまえー!」
「あは、あははは!あは!庄司くーん!口の周り、泡だらけ!」
手の甲で自分の口を拭きながら笑うと、「まじか」といいながら庄司くんがお手拭きをさがしている。あ、お手拭き俺の席側に二つ並べて置いてあるままだ。俺は一つ、お手拭きを手にとって、腕をのばした。
「んんんっ!?」
ごしごしと庄司くんの口を拭く。
「ちょ、自分でできるわ!」
すぐに手をはたかれた。笑いながら。あー楽しいなー!って思いながら、運ばれてくる焼き鳥と、枝豆と、鶏皮チップスと、ビールを咀嚼していく。追加でだし巻き卵とか頼んで、またくだらない話をしながら笑い合う。なんかほんとに、友達みたい!って!
…だめじゃん!
庄司くんが「しっこ」といいながら席を立つ。その直後に頭を抱える俺。これは先輩後輩というよりも、友達。恋人というよりも、友達。一緒に住んでるのに。手も繋いだのに。好きだって言ったのに、なんっも進歩してない!
「はぁ〜〜〜〜」
思わず大きいため息がでた。庄司くん、俺ほんとに、ほんとに、アンタが気になるよ、すきだよ、うーん、伝わらないんじゃなくて、跳ね返されてる感が凄い。だって庄司くん、ほんとに俺のことこれっぽっちもソウイウタイショウとして見てないから。
「はぁ、ぁぁ」
またため息がでた。庄司くんの飲んでいた生ビールのジョッキが空になっている。俺もあと一口というところなので、ビールを飲み干して、店員さんを呼んだ。
「生二つください〜」
にこり、店員さんがさっきとちょっとちがう笑みを見せて、「かしこまりました。」という。そして何かをメモに書いている様子。中々厨房に戻らない店員さんを不思議におもっていると、びり、とメモをちぎって、俺に渡してきた。
「あの、よかったら、なんですけど。」
あ。あーーーーーーーー。あーあ、うそぉ。
顔をすこし、赤くしている店員さんが俺に渡してきたのは、自分のラインのIDと、名前の書かれたメモだった。
このタイミング、で、ですか。
俺はもともと、何故かよくこういう場面に遭遇する。そしてタイミングというのは悪けりゃ悪いほど、最悪な方向に向かうもので。
「お?」
ほらね。庄司くんがお手洗いから帰ってきてしまった。サーっと血の気が引いていく。一応、一応、だけど、俺と庄司くんは付き合っていて。俺はこのメモを受け取れずに苦笑いしているという時に、ズボンに濡れた手を擦り付けながら恋人が登場するんだからもう困った。
「えっ、と、俺そういうのは、「あー、お嬢さん、こいつ見た目によらずウブやから後で連絡するよーいうわ!ありがとなー!」
ひょいっ、と庄司くんがメモを店員さんの手からメモを受け取って、自分の席に座る。店員さんは照れ笑いをしている。俺?そりゃむっとするに決まってるじゃん。
店員さん、「だし巻き卵もビールもすぐお持ちしますね」と言って、俺たちの席から離れていった。俺?だなら不機嫌ですけど。断ろうとしたのに!どうしてわざわざそういうことするさ!恋人なのに、一応、俺とアンタは付き合ってんのに!ああーー!もう!だから!…友達、としか思われてない、んだなぁ。
「そんな不機嫌な顔すんなって。」
「するよね。だって俺、女の子に…」
「興味ないんやろ。でも断ったら傷つけるやん。」
「だからって連絡しろっていうの!?」
「しーっ、声でかいでかい。大丈夫大丈夫、メモ、貰うだけ。」
かちり。庄司くんがまたタバコに火をつけて、すう、と吸い込んだ。
俺はなんだか益々腑に落ちなくて、むすっとした顔をやめられない。だって仕方ないじゃん!アンタ勝手すぎる!
店員さんは、言っていた通りにほんとにすぐに注文したものをもってきてくれた。店員さんの方を向かないで、自分のタバコに火をつける俺と、店員さんに愛想良く「ありがとー」なんていってる庄司くん。
すう、庄司くんが嫌いっていってる俺のタバコの箱を見つめていると、いつのまにか店員さんと話を終えたのか「なぁ」と庄司くんが話しかけてきた。
「…何さ。」
「俺がお前をやるわけないやろ、拗ねんなよ」
困ったような顔して、笑う庄司くん。へにゃり、って、そんな顔あんまり見たことない。だからぎゅ、一回心臓を握られた気分になって。俺はまた、顔をそらす。するとふぅ、とため息なのかタバコの煙を吐き出したのかわからない、息の音。
「お前、今は俺の恋人やし。恋人を女に譲るやつおると思ってんのか?」
ぎゅ、ぎゅーっ、苦しくなるほど、心臓を鷲掴みにされた気分。庄司くんってほんとに、ずるい。こういうことサラリと言っちゃうとこも、誰も傷つけないように円滑に事を進めるとこも。わかってる。女に、は譲らなくたって、俺が他の男をみつけたら、すぐに手を離しちゃうくせに。そんなこと、言ってくれなくなっちゃうくせに。俺が嫌がってるのわかってて、だけど彼女を傷つけないように、そんなふうに立ち回る、アンタはやっぱり優しさで人を殺せる人間だ。期待させて、ずぱっと断ち切るぐらいなら。期待させないでやんわり遠ざけられたほうがマシなのに、アンタはそれを知らない。だってきっと庄司くんは、酷く傷つけられたことしか、ないんだろうから。
「まだ不服かー?」
つんつん、と、テーブルの下で、俺の足首を軽く靴先でつついてくる庄司くん。唇がすこし、とがってる。あーもう、あーーもう!!そんなふうに言われたら許しちゃうんだよ、そんな俺を分かってるんでしょ!可愛いなって、すきだなって!また一層、夢中にさせて、どうしたいんだよ俺のこと!
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