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小さな桜の樹の下であなたが紡ぐ物語②
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「よく頑張ったな…凄いよ、おまえ」
それは固まって動けなくなった俺を一瞬に溶かした魔法の言葉―――
俺はりんたろーさんに思いっきり抱きついた。
「うっ……うっ……」
さすがに大きな声で泣くとまではいかなかったけど…その分、しゃっくりのような声にならない嗚咽が止まらない。
「本当によく頑張ったよ…偉いよ…」
優しい声が、あったかさが、においが…もうりんたろーさんすぎて嬉しくて嬉しくて…涙が溢れてくる。
山岡さんの鼻をすする音が聞こえる。
「マネージャーやってきていろんなコンビみてきましたけど…こんな素敵な瞬間に立ち会えたのは初めてかも…」と、脇元さん。
りんたろーさんの腕が強く俺を抱きしめる。
ずっと待ってたよ、りんたろーさんからの言葉。
「出版おめでとう、俺も嬉しいよ…いや、違うな。
俺が一番嬉しいかも」
いつもいつもりんたろーさんはそれ以上の言葉をくれる。
ありがとう、りんたろーさん、
大好き、めちゃくちゃ好き―――
皆でケーキを食べて、改めて山岡さんから『明日は8時集合です!!』とのありがたい忠告を頂戴した後、帰り際、トイレに寄っていくと言ったりんたろーさん。
俺もいくってあとをついて行ったら、入った瞬間、熱いキスをくれた。
「改めておめでとう、そしておつかれさま」
「ありがとうございますっ」
「明日さ……俺んち来ない?」
「え……」
「ささやかだけど、二人で打ち上げとか…あ、でもゲームしたいか…」
「行くに決まってるでしょーっ!!!」
「ホント?」
「あたりまえじゃん!!ホントは…ホントは…」
ホントは寂しかったって言いたかったけど…
「ホントは何…?」
「何でもないっ!!とりあえず明日は行きますっ!!いいですよね!?」
「気になるぅーっ!!明日、事情徴収なっ!!」
「明日、りんたろーさんが俺より出したら言います」
「ぜってぇー、無理なヤツじゃんっ!!…ゴト師呼ぶか」
「あーっ…いつかやりそうと思ってたら…!!!」
「なんだよー、いつかやりそうって!!!」
そして大の大人二人がトイレで爆笑、何気ない会話なのに最後はいつも笑ってる俺達、この瞬間がホントに幸せだ。
「わっきーも山岡ちゃんもありがとう。かねち、寝坊すんなよ」
「りんたろーさん、明日も頂きまーす」
「…やっぱ呼ぼう」
「アハハハッ!おつかれさまですっ!!」
「じゃぁな」
大通りに出て左折するまでのほんの10秒もない間、俺はりんたろーさんの乗ったタクシーを見届けた。
「じゃぁ、俺も帰ります」
「おつかれさまでした」
「あの……りんたろーさんって別に二人が呼んだわけじゃないよね…?」
「そんなわけないじゃないですか!!」
山岡さんが珍しく少し語気を強めて言った。
「“最後の最後で足ひっぱるわけにはいかない”って…ラストスパートは見守っていようって、りんたろーさんなりに思うことがあったみたいですよ」
脇元さんも頷いてる。
「そっか、よかったー、ほら、当初の予定より発売日延びたし、表紙カバー描いてもらったり…気づいたら俺のワガママに全部付き合わせてもらっちゃったからさすがに怒らせたかなって思って…」
「りんたろーさんが本気で怒ったのは兼近さんが病院サボったときだけでしょ。りんたろーさん一人仕事のときだっていつも最後は僕に兼近さんの状況確認してるし、VOCEで新しいメニュー取得すると“兼近に食わせてやりてぇな”ってよく言ってますよ。それだけ常に心配してる人を怒るわけないじゃないですか」
普段はあまり感情的にならない脇元さんが珍しく饒舌に早口で話す。
「うん……」
「明日、収録終わったら思いっきりりんたろーさんに甘えてください!どうせりんたろーさんちにお泊りなんですよね?」
「うん……ってなんで!?!?」
「もう、大体わかりますから!!もう運転手さんを待たせすぎですよ!!」
脇元さんもニコニコ笑ってる。
っていうか…山岡さんは明らかに気づいてない…??
「じゃぁ、おつかれさまでした…」
「おつかれさまでしたーっ!!!」
二人共、終始笑顔…なんだか恥ずくなってきたけど…笑顔ならいっか…
明日は雨は降るのかなぁー。
タクシーの中からネオンで眩しい新宿の夜空を見上げる。
星一つないのはネオンのせいか、それとも分厚い雲のせいか―――
別に降ってもいいし、降らなきゃそれでもいい。
今日生きてることに感謝、明日のことなんて明日にならなきゃわからないし、明日が来るかどうかもわからない、今までの俺はそう思ってきたし、多分これからも変わらない。
でも今日だけは…
今日だけは明日が来て欲しいと願う。
(神を信じない俺が誰に願うんだ?)
今日だけは…
今日だけは神様、お願いします。
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