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Angel kiss
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「以上、陰パリトークでしたーっ!!」
「アデューっ!!まったね~」
「はーい、OKです、おつかれさまでした」
「あー……終わった…おつかれさんでしたぁぁ…」
「この世の終わりみたいな言い方…一応明日もあるけど」
「明日はコレですよ♪仕事じゃないもーん」
「だからといって寝ないでくんのはやめてね」
「えっっ、ダメ?」
「おまえ、帰ったらゲームやるつもりだな」
「だってずっと止まってるのがあるんすよー」
「加減しろよ」
「ほーーい」
「コイツ、徹夜する気満々やんっ!!」
「アハハハッ!!」
「どちらまでですか?」
「西新宿6丁目の『P』ってマンションまでお願いします」
「かしこまりました」
50代ぐらいの腰の低い運転手さん、この声のトーン聞き覚えがあるな…
何気にネームプレートを見たけど全く見覚えのない名前だった。
そりゃそっか…もう何百回とタクシー乗ってるんだから。
そんなことはどうでもよくて。
ただただ自分の中のモヤモヤを運転手さんで晴らそうとしただけだった。
(りんたろーさん、何も言ってこなかったな…)
あの日から2ヶ月ぐらい経つのだろうか。
明日のパチバン収録が終われば久々の半連休になる、二人きりになれる時間ができるのに帰るときもそのことには触れてこなかった。
休みといっても俺達には急にルミネの代打出場を頼まれたりするから前もって予定を確定することはあまりしない。
でもさすがにここ2ヶ月近くのハードさにマネージャーさんも同情してくれたのか、“絶対仕事はいれない”と言ってくれた。
普段なら“俺達でよければ引き受けますっ!!”って言ってるけど、さすがに今回はお言葉に甘えさせてもらおうとりんたろーさんとも話してたのに…
(明日、言ってくれるかな…)
金曜日の夜といえば、街が一番賑わってるときなのに…
(あれ、ここも店閉じたのか…横のビルはいつまでたってもテナントが入らねぇな…)
タクシーから見える景色に以前のような華やかさはなく、通るたびに増えていくもぬけの殻にいまだに流行り病に勝てずにいる人間の弱さを痛感する。
(いくらなんでもりんたろーさんだって休みたいよな…)
俺なんか相手してる場合じゃねーか…
≪大樹……≫
ゾクッ……
背すじを流れた汗に感情をもってかれる。
タクシーの中は快適なのに顔と下半身に一瞬、熱が走り抜けた。
その後を再びあのぬるい風が心臓ではなく、足元に纏わりつくように湧いてきた。
(りんたろーさんの求めてるものが俺じゃなかったら…)
2ヶ月ぶりに触れる人肌が胸もない、尻もない、やわらかさもない男の体じゃぁね…
(いや……)
りんたろーさんが2ヶ月何も欲しないわけがない…
こういう場合、どう思うのが正解なんだ…?
男でも女でも他の人と一線越えたら浮気なのか?
男ならOK?
女なら浮気?
それとも逆…?
俺もりんたろーさんも同性愛者ではない。
偏見はないが、恋愛対象は女性なわけで、楽屋や収録現場でお互い誰々が可愛いとかそういう話は普通にするし、別にこれといってイヤな気もしない。
(でも・・・)
りんたろーさんの恋バナとか過去の彼女のこととなると話は別、生々しい風景に胸が痛くなり、切なくなり、でもまわりに気づかれないよう冷静に話を聞かなければいけないのが辛かった。
「…―さま、お客さま」
「あ、ハイ」
「到着しました」
「あ、すんません…」
何を高望みしてるんだ、俺は。
一緒にいられるだけで充分だったはずじゃん。
一緒に漫才して、一緒にバカやって、一緒に笑って……
りんたろーさんにはりんたろーさんの幸せがある、それを俺一人が拘束しちゃいけないんだ…
“かねちとできないことを女の人とするんだよ”
以前、りんたろーさんがそう言った。
あれはどういう意味だった…?
できたじゃん、俺と…できたからもう女の人とする必要はないよね…?
(そういう意味じゃないんだろうな…)
「おかえりー」
「ただいーっ!!ゲームやろ、ゲームやりたいっ!!」
「先、飯食えやー」
「ほーい。あ、PANA飯?」
「せやでー。なんかうどんが大量にあったから茹でました」
「せんきゅー♪」
やっぱり他にそういう人がいてもしょーがない…その中で俺のことも選んでくれたことが奇跡なんだわ。
りんたろーガールズ達よりは一緒にいる時間が長いんだからそれだけで充分…
「口痛いんか?七味かけすぎちゃう?」
「えっ!?あっ…あー…そうかも!いやぁ、足りねぇーぐらいだわ」
誤魔化すようにさらにうどんに七味をふりかける、真っ白なうどんが赤い粉に覆われてしまった。
「あーあーええうどんが…」
「さらにええうどんになるっ」
無意識に俺は自分の唇をなぞっていた、まるでりんたろーさんのキスを思い出そうとしてるかのように―――
辛いのが好きな俺もさすがに大量の赤い粉の攻撃には勝てず、むせてPANAの顰蹙を買った。
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