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Fallen angel
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「静かだと思ったら…もう寝てましたね」
「なんか急にスイッチ切れたんかってくらい秒だったわー」
「りんたろーさん、膝大丈夫ですか?」
「ん?あぁ、コイツの頭ん中、軽いから大丈夫」
「フフッ、怒られますよ」
クスクスと山岡ちゃんが笑う。
ホント、脳みそつまってんのかってぐらい、小さくて軽い頭が俺の膝の上で静かに呼吸をしている。
バケハから出てる朝とは違ってキレイにそろってるピンクの襟足が愛しい。
(やわらかいな…)
指先で襟足に触れるといつもの細くてやわらかい感触。
抱えてるリュックが落ちそうだが、引き離すと起こしてしまいそうなのでそーっと落ちないように支え上げる。
タクシーの窓からは雲ひとつない青空と無機質なコンクリートの建物が容赦なく通り過ぎていった。
なんとなく…
兼近が俺の言葉を待っていたように見えたのは気のせいだったんだろうか…確かめることがこんなにこわいなんて。
コイツの自由を奪ってしまいそうなのがこわい。
(なんで二人っきりの時間が欲しいのか…)
仕事もほとんど一緒、局の楽屋でもYouTube撮ったりなんだかんだで二人の時間はあたりまえのようにある。
(二人っきりになりたい理由の行きつく先は…)
好きなんだから、愛してるんだからあたりまえだろ、抱きてぇーって思うのは…
(違うよ…違う…)
そんな生易しいもんじゃない、コイツだからなんだ…兼近だから…
(もう、いっそのこと…)
俺のところに堕ちてきた羽根の折れた天使だ、自由なんてない、このまま俺のものに―――
外のコントラストはいつの間にか空と海のブルーに染まっていた。
遠くには見慣れた球体が浮かんでいた。
(ん―――??これは…もしや表参道のほうが先に着くのでは…??
まぁー…いっかぁ…)
見慣れた球体の少し離れたところには湾岸スタジオの屋上が見えた、兼近のお気に入りの場所。
(そういえば一年ぐらい前だったか…お互いデートしてる感じで動画撮ったりしたなぁ…)
ふとスマホのフォルダを探してみる。
(たしか残ってるはず…)
何度もスクロールして辿りつき、再生をタップしてみる。
そこには今日と同じように雲ひとつない青空の下で両手をひろげて太陽の光を一身に受けキラキラ輝いてる兼近がいた。
《ウェーイ、青空と俺っ!!》
少しグリーンがかかった海の青と空の青、どちらも自然のものなのに人工物のピンクボーイの前では引き立て役にしかならないぐらい動画の中の兼近は眩しくてきれいだった。
《かねちー、こっち向いて》
《何ー?》
紛れもなく天使だった。
俺の呼びかけに無邪気な笑顔で振り返った兼近の背中には羽根が見えた。
そうだ…コイツは何度羽根をへし折られようとも再び羽根がはえて自由に羽ばたくことができるんだーーー
「うぅ……ん」
だから輝けるんだ、外の世界を知らずに捕らわれていた【常識】から抜け出し、自由を知り、本当の自分を呼び戻すことができた。
タクシーが揺れ、寝言を発したときにずれたバケハをそっと取ると、ピンクのやわらかい髪から香ってくるワックスの優しい香りと…
俺の五感を刺激する兼近のにおいに誘われて髪にそっと口づけをした。
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