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最上階の静寂
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父に連れていかれた先は彼の自室がある最上階。
開かれた翼はカレンとは違い、蝙蝠の様な形で羽音もバサバサと空気を揺らす。
自室は相変わらず無駄に大きな扉が迎え、その前に使用人が1人頭を下げて待っていた。
「お帰りなさいませカレン様」
使用人はカレンが魔界にいた時から変わらず同じ人物であった。キッチリ着こなした正装から伸びる首に乗る頭は水牛のような立派な角が生えた牛の頭で、繊細な所作とは似つかわぬ威厳を感じる。見た目で判断するものではないものの横を歩くベリアルの方が幾分細身で小さく実力が伴うようには見えない。
使用人は扉を開け、ベリアルとカレンが通る通り道を作る。
「人払いをしておけ」
ベリアルは使用人にそう告げると部屋へと入っていく。カレンもそれに続き後ろ手に扉が閉まる。
2人きりの空間は静かで今まで喧騒がまるで嘘のように過ぎていった。カレンは父の動きを待つ。
ベリアルは少し立ち止まった後に肩からかけた黒い毛皮のコートを脱ぐと近くの椅子にフワリとかけた。
「カレン……お前がいない間本当に退屈で空虚で、実に長い時間に感じた」
静寂を切り裂いたのはベリアルだった。カレンに向けていた背を翻しゆっくりと近づいた。
「……俺がいない間ですか、もう1年になりますか?」
「そうだ、向こうでは1年と言うのだな」
魔界と地上では時間の数え方がやや異なる。それは太陽があるかないかが関係しているのだろう。考えて見れば1年も会っていないのだとカレンは月日の速さを痛感する。カレンにとってはあっという間の1年であった。それに魔界に住むものは人とは違い長い時間を謳歌する。寿命であるなら200年も300年も過ぎていくものの、1年で長いと思われるのはそれだけベリアルはカレンに会いたかったのだ。
「お父様、私の居場所はここでは無いのです。ここの空気は私には合いません、息が詰まっていつか死んでしまう」
「そうか……やはり初めからお前を地上に送らなければ良かったな……それも遅い、顔が見れるだけで嬉しい、暫くここでゆっくりしていきなさい」
カレンは父ベリアルによって地上へ送られた身だ。元々天使である母に育てられ生きてきたが、悪魔の子を宿したと知られた母は同種に命を奪われたのだ。その後1人になったカレンを迎えたのは実父のベリアルだ。カレンが産まれてからずっと探していたと彼は言っていた。その後魔界にてベリアルの軍で悪魔として過ごしていたものの天界の血が混ざっていること、父との繋がりがあること等から何度も周りから除け者にされてきたのだ。それでも父を信じ着いてきたが、結局父から身の危険を回避するためと地上に送られたのだ。
「今のお前ならココでも上手くやって行けると思ったが……でもそれが望みなら引き留めはしない。だがここにいるうちは私だけのものだ」
ベリアルは酷く悲しい顔を浮かべ、カレンに腕を伸ばす。カレンはそこから動かず、伸びてくる腕が自分の頬に触れても微動だにしない。
「そうですね、ここにいる限り私はあなたを拒むことも歯向かうこともありません。どうぞ、気の向くままに好きにしてください」
「その言葉、後悔はないか?今なら取り消してやっても構わないが」
頬に伸びた手はするりと首に方へと降り、ジャケットの襟の隙間から入り込んで行く。ベリアルの手はゆっくりと肌を撫で、感触を楽しんでいるように感じる。
「お前は高貴で美しい……手に入らないのがなんとも惜しい、でもいつでも私を呼びなさい呼べば必ず迎えてやる」
「お父様、私はそんなに綺麗ではありませんよ。ここのものとは違い歳を重ねる、変わっていく、あなたが望む私は明日にはいないかもしれません」
顔を合わせればベリアルはこうしてカレンを甘やかす。母が亡くなってからはそれが幾分エスカレートしたようにも思える。自分に母を重ねてくるのかと初めはカレンも思ったが、なんだかそうではないようで、自分の血を分けた息子を母の目を気にすることなく自分の元へ引き寄せれるのが嬉しいのであろう。それに天使である母が生きている間は天界に閉じ込められてしまうため、どうにも会うことが不可能だった。
しかもベリアルは母のことなど微塵も気にかけてなどおらず、たまたま天界から落ちた母に面白半分で手を出したのが始まりだ。
それ故ベリアルは母など興味もないのだ。
カレンは信じていないが、母を殺めたのは父であると言うものたちもいる程である。
「そんなことなど私にとってはどうでもいい……今まで成長してきたお前を見てきて言っているんだ。そんな戯言などどうでもいい、早くお前を触れて感じたい」
ベリアルはカレンに触れる手をそのままに目の前にあった僅かな2人の間を詰めていく。服と服が触れ合い呼吸音がお互い耳へと届く。
近づけば近づくほど分かる身長差、体格はもちろんカレンの方が肉付きはいいが背はベリアルの方が幾分ある。頭ひとつ違う背はやや圧迫感を感じる。
「性急ですね、まだ来たばかりですよ」
カレンはやや身体を傾け正面に向かい合う顔を避けるように下を向く。決して求められることが嫌な訳では無い、でもこちらに来てから何もしていない上に他人に触れ宙を舞い足蹴に愚行者を蹴飛ばしたあとである。少しでいいから腰を下ろして落ち着きたい。
「だが待ちくたびれてしまった、カレン」
ベリアルはカレンの腰に腕を回すと引き寄せ耳元で切なげに囁く。じわりと伝わる体温と雰囲気に流されそうになる。嫌だと言えば機嫌を損ねかねない、それだけはめんどくさい事になり得るためカレンは頭の中をぐるぐる回し考える。
「あの、お待ちください……お父様、良ければ身体を洗ってからでもいいのではないですか?ここまで来るのにかなり汚れてしまいましたし」
「……それもそうだな」
ベリアルは少し考えると納得し、カレンの腰を引き寄せたまま横にずれると歩き出す。カレンはこの後間違えたことを言ったと後悔することになった。
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