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煌めく世界
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その歌が急にピタリと止まったことで、俺は現実に引き戻された。
「な……なな……っ」
歌っていた当の本人は、口をパクパクさせながら言葉を繋ごうとするが「な」という単語以外出てきていない。
俺は無表情のまま渚が叫ぶより前に口を開いた。
「悪い。渚の歌があんまりキレイだったから聞き入ってしま――」
「ふにゃぁああぁぁっ!?!?」
その顔が一気に真っ赤に染まって、学園全体に響き渡るんじゃないかという程、大きな声で叫ばれたことで俺の言葉は掻き消されてしまう。
まぁ、そうなるよな。
「ごごごご、ごめっ、ごめんっ! 聴き苦しいものを聴かせてしまってっ! あ、えっ、えーと、あぁ! そうだったよなっ! 荒玖が迎えに来るって話になってたっけなっ! あはは、忘れてたぁ!」
渚は羞恥を誤魔化すように、必死にあれやこれやと喋りまくる。
恥ずかしさのあまり耳まで真っ赤になっていて可愛いなぁ。
なんて呑気に思っている場合ではなかった。
「渚、落ち着け。そんなに恥ずかしがらなくても、すごくキレイな歌声だったぞ」
「人が話逸らしてんのに掘り返すなよっ!!!」
素直な感想だったのだが、掘り返してはいけなかったらしい。
両手で顔を隠しながら「うーうー」と唸って机に突っ伏してしまう。
「そんなに恥ずかしいなら歌わなきゃいいのに」
「なんか歌いたくなっちゃったんだよ……っ」
「お前、歌うの好きだからな」
「うるさい……」
ぼそっと呟いてふてくされる渚に近づき、その頭を優しく撫でてやる。
「ほら、拗ねてないで行くんだろ?」
「あ、そうだった! 嫌なことは忘れてさっさと甘いの食べに行こう!」
さっきまでの態度はどこへいったのか、渚はさっと立ち上がって開いたままになっていた窓に近づくと、一つ一つ戸締りをしていく。
そんな渚を横目に、俺は窓から見える景色に視線を向けた。
海が太陽の光をキラキラと反射しているのが学園の窓越しに見えて、その煌めきに目を細める。
空海学園自体が海に近いため、見ようと思えば普通に見れるものなのだが。
いつ見ても、この島の海は幻想的でキレイだった。
「荒玖、行こうか」
渚が俺の隣まで来て手を握る。
「……っ」
一瞬その手の感触にドキリとして、何とか平静を装おうと視線を逸らしてから、その手を握り返した。
「相変わらず手、冷たいな」
「あは、俺、冷え性だからな」
梅雨前とはいえ渚の手はひんやりと冷たかった。
その冷たさが、上がった体温を冷やしてくれて心地いい。
しかし、好きな相手に何の意識もなく手を握られるのも、それはそれで喜べばいいのか悲しめばいいのかわからなかった。
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