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君への信頼 2
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一番速く走ってきていた一匹のアルドウルフが、目の前で急停止して唸り声をあげる。
「グルル……っ」
俺はそいつの瞳から一瞬たりとも目をそらさずに、ゆっくりと渚を庇うように移動した。
剣先を微かに左に傾けたことで威嚇ととられたのか、アルドウルフが地面を蹴って飛びかかってきた。
スピードは目で追える速さだ。
これなら確実に仕留められる……!
「……ッ、このッ……!!」
俺は今まで散々叩き込まれた動きを忘れずに、剣を正確に縦に振り切って一撃を入れた。
アルドウルフは斬りつけられた勢いで宙に投げ飛ばされると、地面に叩きつけられ、そのまま粒子になって消えていく。
「は、ぁ……っ」
「荒玖っ! もう一匹いるっ!」
渚の言葉にはっと我に返り近くの樹木を見上げると、上からアルドウルフが牙を剥いて飛びかかってきた。
俺はその攻撃をなんとか剣で抑え込む。
「……ぅ、ぐ……! 渚ッ!」
「わかってるっ」
渚はギリギリと力押ししてくるアルドウルフの後方に回り、手にしていた短剣を投げつけた。
勢いをつけた剣先が灰色の体を切り裂いてアルドウルフは濁った悲鳴をあげて、そのまま粒子化していく。
砂のようにサラサラと消えていく様子を横目に、渚は地面に突き刺さった短剣をさっと拾い上げて辺りを視線だけで見渡した。
「…………囲まれた」
あとから追いついてきたアルドウルフの群れが喉を鳴らしながら俺達の周りに群がり、逃げ道が完全に塞がれる。
渚と背中合わせになりながら、少し乱れた息を整えた。
やばい。
いま消滅させた数はたったの二匹。
まだ魔物はうじゃうじゃといるのに、こっちは二人しかいない。
ある程度の戦闘技術はあれど、囲まれて一気に来られたら苦戦を強いられる可能性も高い。
(どう、する?)
頬を冷や汗が伝う。
渚だけを逃がすことができる状況には到底見えない。
せめて……俺が囮になれれば……。
「荒玖」
耳に届いた聞き慣れた声は、こんな時なのに妙に落ち着いていた。
その凛と澄んだ声色に、俺の中にあった焦りがゆっくりと引いていく。
「大丈夫。俺を信じて。こういう時、魔法に一番詳しい俺に任せれば何とかなるって、荒玖が一番知ってるだろ」
「渚……」
口角を上げて笑みを浮かべる渚に、俺も剣の柄をぎゅっと握りなおす。
そして次に来る指示の言葉を待った。
渚の右足が地面を蹴るのと、アルドウルフが動き出すのはほぼ同時だった。
「荒玖ッ!! そのまま左に飛んで目の前のやつに攻撃を! そのあとは広範囲の元素魔法で少しでも数を減らしてくれ!」
渚の指示を聞いて俺は左に向かって地面を蹴ると、目の前にいるアルドウルフに剣先を振り切った。
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