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君への思い 2
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渚はそんな呪術士の中でも最高峰にいるユースティア家の一人息子だった。
特別な地位にいるユースティア家は他の呪術士とは違い、とても穏やかな家系で、呪術士狩りから身を隠すように普通に生活をしていた。
そんな複雑な事情がある俺と渚の出会いは、裏の世界で起こっている争いの最中(さなか)の、ちょっとした出来事に過ぎなかったのかもしれない。
***
大翔家が取り仕切る協会は、今は俺の母親が統治しているが、当時は父親が管理していたらしい。
そんな父親の跡を継がせるためにと、母親からはとても厳しく育てられた。
俺にとってはその日常が当たり前だったから、途中までは苦痛に感じるなんてなかった。
だけど、苦痛には感じなくても、子供ながらに寂しさはあった。
母親は俺を息子として見るわけではなく、あくまで大翔家の跡取りとしての俺にしか興味がなかった。
したいことなんてさせてもらえるような環境ではなく、命じられたことをこなさなければ必要とすらされないような家庭だった。
基本的に昔から物覚えの悪い俺は、母親の厳しさも相まって、毎日のように冷たい言葉を投げつけられた。
そんな中でも、自分なりに少しでも認められたくて、大翔家の人間として役に立ちたくて、頑張ってきたけれど。
そんな心は日々の疲弊していく気持ちに押しつぶされ。
いつしか、寂しい、ちゃんと“俺”を見てほしいと思うようになっていた。
周りの子供は可愛がられて育てられているのに、自分はまるでモノのように扱われて、それが普通ではないことを知った時、俺は耐えきれずに家から飛び出し雨の降る街を当てもなく彷徨っていた。
行く場所なんてどこにもなかったのに、とにかく胸の内にある言いしれない孤独から逃げてしまいたかった。
いま思い返せば、たくさんの人が行き交う駅前で、ずぶ濡れになるのも構わずに一人ベンチに座っていた俺は、ただの異常者にしか見えなかったかもしれない。
誰も立ち止まることなんてなく、チラチラと視線を投げかけては通り過ぎるだけで。
みんな自分のことで手一杯で、雨の中一人座り込む変人を相手にする余裕なんてありはしない。
俺なんていてもいなくても世界は回る。
明日は来る。
人々は今までと変わらず生きていく。
たとえ今ここで俺が死んだとしても、何一つ現実は変わらない。
そうわかった瞬間に生きていることになんの意味があるのか。
生きていても意味も価値も見出せないなら、いっそ死んでしまいたい。
そう世界の冷たさに絶望していた俺に、ただ一人声をかけてくれたのが、渚だった。
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