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運命なんか、信じない
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ユキは巣ごと蜂蜜を、スプーンで掬い取ると、そのまま自分の口へと入れた。
美味しいものでいっぱいになった頬を、両手で押さえながら、ユキは「あまぁーい」と幸せそうな声を出した。
「好きなものばかり食うな。手も口も汚して……少しは綺麗に食えないのか」
レグルシュは悪態をつきながら、甲斐甲斐しくユキの世話を焼く。
ナプキンで小さな指を一本一本丁寧に拭かれ、蜂蜜で濡れた唇も、レグルシュの手によって綺麗にされている。
微笑ましい光景に、千歳はふふっと笑った。
「何がおかしい?」
「あ、いえ。何だか二人とも素敵だな、って思って。すみません」
お腹が満たされて、食事が賑やかで、千歳は穏やかな幸福に包まれていた。
ユキとレグルシュの微笑ましいやりとりを見ていると、辛い記憶が少し薄れたような気がする。
幸せそうに食べるユキに唆され、千歳もバゲットにたっぷりと蜂蜜をかけた。
花の香りを纏わせた蜂蜜は、濃厚でいて後味がすっきりとしている。
巣はさくっとした歯触りで、噛んでいくと段々ガムのような感触になる。
噛むたびに詰まった蜜が溢れ出て、千歳は幸せな甘い味に夢中になった。
事務職の千歳より何倍も多忙な拓海とは、社会人になって以来、ゆっくりと食卓を囲むことはなかった。
二人で住んでいるのに、千歳はほとんど一人きりだ。
温かな手料理を味わいながら、千歳は二人の側にもっといたいと、思うようになった。
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