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マヌルネコ
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ユキと同じ年の頃は、まだオメガだと分かっていなくて、両親はすくすくと育つ千歳に、溢れんばかりの愛情を注いでいた。
両手で受け取れないくらいの重すぎる愛情は、ひっくり返せば千歳の身体も心もずたずたに引き裂く凶器に変わった。
命がけで千歳を産み落とした母は、この世で一番大好きな父の愛を失いたくなかったのだろう。
千歳の身体が痣だらけになっても、父を本気で止めようとはしなかった。
唯一、信頼していた母をも失った千歳は、ユキの言ったことを否定出来なかった。
「ちー。泣いてるの?」
「えっ……? あれ、何でだろう……」
蓋をして固く閉ざしたはずの過去が、ガラス瓶を落としてしまったときみたいに、溢れてくる。
拭いきれない涙を、ユキの小さな手が拾ってくれた。
「どこかいたいいたい? 悲しいの?」
「悲しいの、かな。うん……お仕事、あんまり上手くいってなくて」
「そうなんだぁ。ユキがお手伝い出来ることあるかなぁ?」
純粋な気遣いが、今の千歳にとっては何よりも嬉しかった。
ユキの優しさに、もっと泣いてしまいそうになる。
千歳は痣一つない綺麗なユキを、一度だけそっと抱き締めた。
「ちー?」
「ユキくんは優しいね。ありがとう。ユキくんのおかげでちょっと元気になったよ」
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