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マヌルネコ
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「ユキは俺のことで、何か言っていたか?」
「いいえ。何も。疲れていたみたいで、すぐに寝ました」
「……そうか」
レグルシュのついた溜め息が、マグカップの中の水面を揺らした。
「ユキには完全に嫌われたかもしれないな」
「明日、仲直りしましょう。ユキくんもきっと分かってくれるはずです」
一歩間違えればユキに暴力を振るうところだったという事実に、レグルシュは落ち込んでいるように見えた。
千歳は席を外し、明日渡すはずだったシュガーラスクの包みを持ってきた。
「ユキくん、甘いものが好きでしょう。仲直りのきっかけになれば」
「自分のために買ったものじゃないのか」
「いえ……レグルシュさんとユキくんへのお礼のつもりです。……すみません。こんなもので。来月お金が入ったら、きちんとお礼はさせていただくつもりです」
「余計な気は回さなくていい」
いつものようなぶっきらぼうな物言いだが、優しさが滲み出ている。
「親には頼れないのか? 今まで働いていたんだから貯金だっていくらかあるだろう」
「……両親の行方は分かりません。祖父母も高齢ですし。給料は、その……えっと」
上手い嘘がつける自信がない。
何よりも、窮地を救ってくれたレグルシュに、嘘をつくのが申し訳ないと感じた。
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