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蒼と叶弥は居間に移動してソファに腰かけた。
「俺にも炎と氷の関係性は詳しくは分からない」
「蒼でも知らないの……?」
まさかの蒼の言葉に、叶弥は目を見開いた。
蒼なら何でも把握していると思ったからだ。
「俺が初めて2人を見つけた時、まだあの2人は子供だった。人ではない何か、ということしか知らない。別に正体に関しては気に留めていないからな。検討はついているが」
「そうなんだ……」
「2人は抱き合ったままで、周りの全てが敵のような顔をしていたのを覚えている。痩せこけていてあまりに不憫になって、連れ帰ってからずっとあの2人は俺を主人と呼んで仕えている」
蒼はドアの方を眺めたままそう話した。
恐らく、ドアの向こうのキッチンに居る2人のことを考えているのだろう。
「じゃあその時からお互い好きだったのかな」
「そうかもしれない。お互いべったりだったし、氷は今でもそうだが炎を取られるのをとにかく嫌っていたからな」
「なるほど……」
謎は多いままなのに、何故か合点がいった。
あの2人は常に共に行動しているし、長く離れている所を見たことがない。
必要な時を除けば常に2人で行動していて、離れることがあるのは家事の都合で屋敷内に限っての話だ。
仲睦まじいだとか、そんなレベルの話じゃない。
言われなくても恋人同士であると誰でも気付ける程に密接だ。
「何故お前は気付かなかったのか、本当に分からん」
「蒼のことしか考えてなかったんだよ……」
消え入りそうな声で恥ずかしそうに叶弥は答えた。
蒼はそうか、と満足げに笑い叶弥の頭を撫でる。
「あれを依存と揶揄する者も居るが、俺はそんな小さなものではないと思う」
「依存……は何か違う気がする」
「お互いにとってお互いが必要であるだけのことだ。その上で、そこに恋愛感情が伴っただけだろう」
叶弥は蒼のその言葉が、とてもしっくり来た。
依存という言葉で片付けるには深すぎる関係の2人。
蒼のその言葉の方が叶弥には理解が出来た。
「氷の嫉妬深さと独占欲には困ったものだがな」
「そんな風に見えないのになあ」
叶弥の目に映る氷はとてもクールで大人だった。
優しくて笑顔も見せるが、基本的に感情を表に出さず、ただ淡々としている。
そんな印象しかなかった。
その氷が嫉妬をするなんてことが信じられない。
「炎に関することにだけは感情を剥き出しにする所があるな、氷は」
「私は主人と叶弥様のことでも感情的になりますよ」
ガチャと音をさせ、ドアを開きながら蒼の言葉に反論しながら氷が入ってくる。
「忠誠心の塊だからなお前は」
「分かってらっしゃるなら良いです。実は食材が足りないことに気付きまして、まだ時間もありますから買い物へ行こうと思うのですが」
「そうか。叶弥、何か要るものは?」
「多分ない……かな?僕の飲み物とか氷がいつも補充してくれてるし」
そんな会話を終えると氷は行って参りますと頭を下げて部屋を出ていった。
「買い物かぁ……デートみたいだね」
「あの2人にとっては同じ様なものなのだろうな。1日中家事をしている必要もないのだから、時間を作って散歩なり何処かへ出掛けてもいいと言っているんだがな……」
はあ、と呆れた様に溜め息を吐いて氷の出ていったドアを見つめていた。
その目は親の様な目をしている。
「うーん。じゃあさ、僕が休みの日に2人に休暇あげたら?僕、施設で手伝いしてたし掃除とか洗濯なら出来るよ」
「そうだな。2日~3日家事を休んだって困るものでもな。休暇を与えるとしよう」
「絶対、氷は眉間に皺を寄せると思うなあ」
真面目で家事をきっちりこなす性格の氷は、休むということに慣れておらず、少しの休憩時間でも何かと周りを気にすることが多い。
炎はきっちりこなすタイプではあるものの、性格はのんびりしているので恐らく休日を与えても平気だろう。
「氷には休むということも1つの仕事だと覚えさせるいい機会だな」
「炎が上手くコントロールしてくれそうだね」
「……話が変わるが叶弥」
「何?」
急に真剣な顔付きになり、叶弥の方へ視線を向けた。
その目に冷たい炎が宿っているような気がして、叶弥の背筋にゾクッとしたものが走り、背筋が自然に伸びた。
「お前に俺のことを聞いてきた友達とやらはどういう奴だ」
「え、あ、あぁ、陽楽って言うんだけどね。幼馴染みって言うか……小さい頃から施設で一緒に育った子なんだよ」
「なるほどな……」
視線をまた前に向け瞼を閉じると、そう呟いて顎に手を当てながら何かを思案し始めた。
「そ、蒼……?」
「叶弥はここに来て1年と少しが経つな」
「あ、うん。去年の4月の中頃に蒼が引き取ってくれたから、もう1年ちょっとだね」
「……何故、その陽楽という友人は今頃になってこちらについて尋ねて来たのだろうな」
低い声で問いかけた蒼。
その低い問いかけが叶弥の耳に入ると、叶弥の身体が固まった。
考えないようにと頭の隅に追いやった疑問。
何故、1年も過ぎた今更引き取った家の事を聞いてきたのか。
仮に、家に馴染むまで聞きづらい期間を避けたのだとしても、半年も過ぎた頃には叶弥は氷の弁当について嬉しそうに話すことも多くなっていたのだから、聞くことは出来たはずだ。
けれど、陽楽は特段聞いてくることはなかったし、そういった事を気にしている様子もなかった。
陽楽は、叶弥が笑顔ならいい人に引き取られたってことなんだろうと言っていたくらいだ。
「急に気になったとか……?」
「それも十分にあり得るだろうな。他者の考えていることなど分からん。だが、多少は気を付けておいてくれ」
「う、うん?陽楽は変な人じゃないから大丈夫だと思うけど……」
「俺が吸血鬼だということを知られてしまうと、真偽は関係なく変な噂が流れてここに居づらくなる。お前も保護と称してまた施設などに引き取られる可能性もあるからな」
「あ……」
蒼が吸血鬼だと言う話が外に漏れた場合。
それを信じる者が居れば、化け物退治だと言って迫害する者、あそこは近付いてはいけないと忌避する者が現れるだろう。
信じない者が居たとして、吸血鬼などと呼ばれる人間は危ないとして、何らかの措置などを取られる恐れがある。
どちらに転んでも、叶弥が蒼と引き離される、または平穏に暮らすことが出来ない可能性の方が遥かに高いのだ。
「何にせよ、下手なことを知られて良いことは何もないからな。念のため気を付けておけ」
「そうだね。気を付けるよ。……でも、もし」
叶弥はぎゅっと拳を握って声を絞り出した。
「何だ」
「万が一、そうなったら。蒼は僕を連れて逃げてくれる?もし誰かに連れていかれたとしても迎えに来てくれる?」
「そんなことか……愚問だな。その時はどこまでもお前を連れて遠くへ行くさ。言っただろう、離さないと」
蒼の答えに叶弥は嬉しそうに頷いた。
ただその言葉があれば、叶弥は安心できた。
例え何があっても離れることはないと、そう断言してくれるのならば叶弥には何も不安などなかった。
「そっか。なら良いんだ、安心した」
「それよりも叶弥。紅には気を付けろ」
「あの……蒼の昔からの知り合いの人……?」
蒼は小さく頷いた。
「アイツは昔から何を考えているかよく分からない上に、やたらと俺に執着していた。最近は落ち着いたと思ったんだが……」
深く溜め息を吐いて、額に手を当てる。
蒼にとって、紅が目の前に洗われると言うことは頭痛の種でしかないのだ。
ましてや、今は叶弥が居る。
気が気ではない。
「蒼のこと……好きなのかな……」
小さく呟いて、叶弥は俯いた。
自分よりも付き合いが長く、蒼のことをもっと知っている。
容姿も整っていて、蒼と並んでも見劣りしない。
勝てる自信の欠片もわかないくらい、勝っている要素が見当たらないのだ。
蒼が自分をここまで好いてくれていることが不思議なほどに。
何とか安心を保っていられるのは蒼が真っ直ぐに愛情を注いでくれているからであって、紅を目の前にすると形容しがたい敗北感を覚える。
「さあな。アイツが初めて会った同族が俺だったから、それが関係しているのだろう。仮に好かれていたところで俺には関係もない。叶弥が居るのだから、むしろ迷惑な話だ」
叶弥の不安を見抜いているのか否かは定かではない。
ただ蒼は、叶弥の欲しいと思う言葉を口にした。
蒼にとって紅はあくまで同族であり、それ以上にはなり得ない。
「ないとは思うが、ないとも言い切れないから言っておく。紅と2人きりになる状況は絶対に避けろ」
「うん、分かった」
「いい子だ」
叶弥の頭を撫でながら、蒼は目を閉じた。
この先に待ち受けるであろう面倒事を考え、そして思考を止めた。
今はまだ、考えたくはなかった。
恐らく届くであろう、炎と氷からの悪い報告の予感。
それら全てのことを考えるのが面倒になった蒼は、それ以上のことを考えないようにして、ただ今は目の前に居る叶弥との穏やかな時間を優先した。
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