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紅が陽楽を引き取ると言う話から1週間が過ぎた。
その間、陽楽はいつも通りで、叶弥に蒼のことを聞いてくることもなかった。
叶弥はその事に安堵していた。
無論、叶弥は裏で紅が陽楽を引き取ると言う話が進んでいるとは知らないわけだが。
「なあ、叶弥ぁー」
いつも通り、ホームルーム後に陽楽に声をかけられた。
「んー?何?」
「俺さぁー里親見付かったかも?」
「えっ!本当に?!良かったね!」
無邪気に叶弥は喜んでいた。
陽楽ならきっと新しい家族にも馴染めるだろうし、幸せにやっていけるだろうと思う。
純粋に叶弥は陽楽が新しい家族に出会えたことが嬉しくて仕方がない。
「施設からもおっけー出たぁー」
「わあ、じゃあほぼ決定だね!」
「そぉー明日から3連休じゃん?だから今日帰ったらぁー荷造りして明日引っ越す」
陽楽がニカッと笑ってピースをする姿。
叶弥は陽楽も嬉しいのだと思い、つられて笑顔になった。
「今日は早く帰らなきゃね」
「そぉーだなぁー」
「そろそろ僕も帰るよ。また連休明けね!」
ばいばい、と手を振って叶弥は教室を出た。
今日はあまり急いでいないのには理由がある。
炎と氷が迎えに来ているからだ。
明日から連休になることもあって、どこも混むことが予想される。
炎と氷も蒼と同じく人も人混みも嫌いなので、連休中に人がごった返す所には行きたくはない。
故に、今日は早めに買い出しに出てまとめ買いするということになり、それならばと叶弥もついていくことにした。
普段から世話になっていて、手伝いが出来ていないことが気になっていたので叶弥はついて行きたかったのだ。
蒼がたまには気晴らしに買い物でも行ってくるといいと口添えしてくれたこともあり、炎と氷からも許可が降りた。
「あっ!炎!氷!……?」
2人の姿を見かけて走り出した叶弥だが、2人の後ろにもう1人居た。
とても長い蒼い髪を下ろしている姿。
あれは蒼だ。いつも髪を結っている蒼が髪を下ろしている。
「えっ……蒼……?」
「2人に連れ出されてしまった」
やれやれ、と。
少し眉間に皺を寄せている蒼を尻目に、炎と氷はにこやかだ。
「じゃあ皆でお出掛けだ!」
えへへ、と嬉しそうに叶弥が笑うと先程までの不機嫌などなかったかのように笑みを溢した。
叶弥が嬉しいならそれでいいと諦めたらしい。
氷はちらりと校舎の上の方へ視線を向ける。
遠目ではあるが、校舎の2階にある教室の窓から陽楽がこちらを見ていることに気付いた。
叶弥には見せることのないであろう冷めた目をしている陽楽。
「氷?どうしたの?」
「いえ、大きな学校だなと思っていただけです。さあ、参りましょう」
不思議そうな叶弥に、氷はさらりと笑顔を返した。
蒼も炎も氷も顔立ちが整っているので、周りからの視線も集まっている。
あまり長居するのは得策ではないと考え、氷はすぐにでも立ち去ることを選んだ。
「あっれ、叶弥。その人誰よ?」
声のする方へ視線を向けると、脩人が立っていて物珍しそうに蒼達を見ていた。
「あっ脩人!この人達がいつも話してる引き取り手の人だよ」
「あぁ……過保護気味の。どうも、俺は叶弥のクラスメイトの脩人です」
服装から、いつもあの弁当を作っているのは赤髪か青髪かのどちらかだろう、と察した。
そして、纏う雰囲気と顔付き、視線で何となくだがこの蒼い髪の男と叶弥がただならぬ関係なのだろうと、脩人は無意識に感じてしまった。
過保護な保護者、と言うにはあまりにも視線が険しすぎる。
むしろ保護者の立場なら友人が居ることへの安堵であったり、敵意にしても悪い友人ではないかどうかを見定める様な視線が普通だからだ。
しかし、この視線は敵意であったり、叶弥に近付く者への嫌悪が含まれているように感じた。
「初めましてー俺は叶弥様のお世話させてもらってる炎って言います。叶弥様のご友人なんですね、よろしくお願いします」
炎はにこやかに、友好的な笑顔を向けて軽くお辞儀をした。
「初めまして、脩人様。私は炎と同様に叶弥様のお世話をさせて頂いております、氷と申します。お見知りおきを」
微笑を浮かべ、軽いお辞儀をした氷。
「……蒼?」
「ああ、すまない。俺は叶弥の保護者の蒼士(そうし)だ。叶弥の友人だったか。これからも仲良くしてやってほしい」
叶弥の声に蒼は営業スマイルの様な笑顔を向けて、脩人に言う。
蒼士という名前に叶弥はえ?と蒼を見たが、蒼は涼しい顔をしたまま脩人を見ていた。
「よろしくお願いします。叶弥、その、大事にされてるみたいで良かったよ。それじゃ、俺はこれからバイトなんで失礼します。叶弥、また連休明けな!」
ヒラヒラと手を振って脩人は背中を向けて歩いていった。
ああ、あれは確かに陽楽が嫉妬を剥き出しにするのも分かると、脩人は溜め息を吐いた。
あれはきっと、2人はそういうことなのだろうと。
脩人は恋愛においての性別を何も気にしていないので、2人がそういう関係であっても、陽楽が叶弥を好きであってもそうなのか、としか思わない。
ただ、これは荒れるなと、その展開に憂鬱になっていた。
「俺はー……うん、叶弥はきっとあの人との方が幸せになるんだろうな……陽楽ごめん、応援出来ねえや」
そう独り言を溢しながら小走りでバイト先へ向かった。
「お前から学校はおろか友人の話すら聞かないから新鮮だったな」
歩きながら蒼がぽつりと言う。
思うところはあるが、少なくとも脩人は叶弥を狙ったり手出しする様な人間ではないと判断した。
「クラスの皆が仲良いんだけど、特に脩人は1年の頃から同じクラスだったから仲良いんだよ」
「そうか。お前に親しい友人が居て安心した」
ふっ、と蒼は笑うと叶弥の頭に手を置いた。
いつも急いで帰ってくるので、友人が居ないのではないか、いじめなどを受けているのではないか、そんな心配をしていたからこそ、蒼は安心したのだ。
それは炎と氷も同じで、蒼の言葉にうんうんと頷いていた。
「それより、蒼が出てくるなんて珍しいね?それにさっき蒼士って……」
「炎と氷に折角なのだからお前を迎えに行こうと無理やり引きずり出された。蒼士というのは人間社会で過ごす時の名だ」
「なるほど……?」
そう言えば、以前に施設とのやり取りの時も蒼士と言う名を見聞きした気がした。
「主人はそもそも人嫌いですし、叶弥様は人酔いしやすいのであのカフェで待っていてください」
「ささーっと買ってきますねー」
それだけ言い残すと2人は買い物へ行ってしまった。
蒼は溜め息を1つ吐くと、叶弥の手を引いて氷に示されたカフェへと足を向けた。
午後3時過ぎの平日、人も疎らなカフェは蒼にとっては有り難い場所だった。
「何名様ですか?」
「2人」
「お好きなテーブルへどうぞー」
蒼は店の奥の壁際の席を選んだ。
叶弥をソファ席に座らせ、自分は椅子に座りメニューを差し出した。
「蒼は決まってるの?」
「俺は大体アメリカンしか飲まないんだ」
「大人だ……僕はどうしよう」
ドリンクメニューを眺める。
紅茶にしようかココアにしようか。
蒼がコーヒーを頼んでいるし、それに見合うようにコーヒーを頼みたいと思うけれど、飲めそうなものがわからない。
「カフェオレならお前でも飲めると思うが」
「じゃ、じゃあそれにする。すみませーん!」
店員を呼んで注文する。
その店員は蒼のことをちらちらと見ていて、叶弥の胸に小さなチクッとした痛みが走り、モヤモヤとした真っ黒な雲のようなものが心を覆った気がした。
それが何なのか叶弥には分からず、困惑してしまう。
蒼はそんな叶弥をただ、口角を少しだけ上げて見ていた。
少しだけ憂いを帯びた伏せられた瞳。
その瞳の憂いの意味を理解している蒼は頬杖をついて、ただそれを見つめる。
「……?」
その視線に気付いたのか、叶弥はパッと顔を上げる。
蒼の愉悦を含んだ瞳と視線が交じって、叶弥はびくっとした。
「そ、蒼……?」
「ん?ああ、どうした叶弥」
口許を緩めたまま、蒼は叶弥に応えた。
何を考えているのだろうと考えている内に、先程のモヤモヤや痛みのことなど頭から離れてしまった。
それよりも、蒼のこの視線の意味とこの笑みの理由が気になってしまっている。
「え、何……?僕の顔に何か付いてる……?」
「いや?ただ、そうだな。可愛らしい顔をしていたから眺めていただけだ」
「そっ……んな……こと外で……っ!」
叶弥は顔を真っ赤にしてパクパクとして言葉にならない言葉で蒼に抗議した。
その時、ちょうど頼んだドリンクが運ばれてくる。
「ああ……そうか、人間の世界では未だに同性同士は認められていないのか」
「まあ、そうだね。蒼達はそういうの平気なんだ?」
「人間くらいだろうな。言語を話す種族の中で、性別という
小さなことに拘る種族は」
コーヒーを啜りながら蒼は言った。
「じゃあ、多いんだ?」
「そうだな。十彩色の中にも居る」
「十彩色?」
「ああ。色の名を持つ10人のことだ。俺や紅もそうだな」
「なるほど……?」
あの、紅い髪の姿を思い出した。
紅もその10人の1人だと。
きっと特別な存在なのだろう、と。
あの見た目を思えば納得が出来てしまう反面で、モヤモヤとしたものをまた感じた。
「ねえ、十彩色って何?」
「吸血鬼の中でも選ばれた10人……だったか」
「特に美しいとされる10人の吸血鬼の名称、ですよ」
声が上から降ってきた。
視線をやると買い物を終えたらしい炎と氷が立っている。
「お前達も休んだらどうだ」
蒼は立ち上がり、叶弥の横に移動して言った。
「そうですねー少し疲れちゃいました」
「では、お言葉に甘えて」
顔を見合わせた後、頷いて2人も座る。
メニュー表を2人で覗き込む姿はあまりにも仲睦まじく、叶弥には少しだけ羨ましく見えた。
「すいませーん。俺はアイスカプチーノで!」
「私はアイスティーでお願いします。砂糖とミルクは要りません」
先程とはまた違う店員だが、蒼と2人をにこにこと見ていた。
そのまま、叶弥に目をやってはっとした顔をするとまた更ににこにこを増して去っていく。
「目立つだろうなあこの席……」
「叶弥様もご自覚がないだけで綺麗なお顔をされていらっしゃいますからね。主人は言わずもがなですが」
「お前達2人もという自覚はないのだな」
2人の会話に呆れ顔の蒼と、話についていけない叶弥。
何の話なのか全く理解できない。
頭に?マークを浮かべながら、3人の顔を何度も交互に見ている。
「容姿で目を引くという話だ」
「先程も申しましたが、十彩色とは特に美しい10人が選ばれた方々の総称です。主人はもちろん、そこに名を連ねております。ですので人目を引くというわけです」
「あー……ああ……」
氷の説明にああ、と納得がいった。
確かに、蒼は顔立ちがとにかく整っているし、炎と氷も顔立ちが綺麗だ。
炎のこの席は目立つ、の理由がよく分かる。
もっとも、その中に叶弥も含まれているのだが本人は気付いていない。
炎と氷はそれぞれ届いたドリンクを口に運びながら、分かっていないであろう叶弥を見て溜め息を吐いた。
周りの席からは小声ではあるが会話が耳に届く。
その内容は蒼や炎と氷の容姿に対する内容だが、叶弥についても聞こえてくる。
叶弥に対しては「可愛い男の子」という声が多く、中には声をかけてしまおうか、などと言った声さえ聞こえる。
だが、本人は無自覚でそんな話をされていることさえ知らないのだ。
「あ、そう言えばね。陽楽の引き取りが決まったって」
思い出したかのように。
叶弥はそう言った。
瞬間、3人の表情は強ばり叶弥へ視線を向けた。
「何かねえ、いい人そうらしくて。良かったなあ」
にこにこと話す叶弥は、3人の様子に気付いてはいない。
そして、この先のことさえまだ知らない。
陽楽の引き取り手が紅であることも。
叶弥はまだその時は知りさえしなかった。
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