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叶弥に家に着いたらその話をもっと詳しく聞かせてくれと頼み、カフェから出た。
蒼は、叶弥の友人の話なのだし折角だから詳しく聞いてみたい、と。
その言葉に叶弥は疑うこともせずに嬉しそうに頷いた。
屋敷に着くと、氷と炎が冷蔵庫にしまいに行くと言うので叶弥も手伝いを申し出た。
蒼は先に居間に居ると告げ、居間へと向かった。
「これでよし……と!」
「他にしまい忘れはありませんか?」
「多分ないかなあ」
そんなやり取りを交わし、氷の淹れたアイスティーを持って居間へと向かった。
居間に入ると、蒼がソファに腰かけて頬杖をつきながら目を閉じて考えに耽っていた。
「蒼ー?終わったよー」
「ああ、ご苦労だった。お前達も座れ」
蒼のいつも腰掛けている2人用ソファに叶弥が、蒼の向かいにある2つの1人用ソファにそれぞれ氷と炎が腰掛けた。
「本日の紅茶はセイロンのディンブラをご用意致しました」
「ミルクとお砂糖はご自由にー」
からん、と氷が紅茶の中で溶けてガラスにぶつかり軽い音を立てる。
「叶弥。お前の友人に引き取り手が見つかったと話していたが……その友人も施設育ちなのか」
「ああ、うん。ほら、陽楽だよ。同じ施設の」
「前に話していた友人か。……そうか、引き取り手が決まったのか……良かったな」
蒼の言葉に叶弥はうん!と笑顔を返した。
それほど、陽楽の引き取り手が決まったことが嬉しいらしい。
だが、その相手が誰か分かっている蒼としては憂鬱だった。
もし自分達の情報のまま行くならば、相手は紅だからだ。
「明日には引っ越すんだって。今日は帰ったら荷造りするって言ってた」
「そうか。もう引っ越しまで決まっているんだな」
2人の会話を炎と氷は神妙な面持ちで聞いていた。
何も知らないからこそ嬉々として話す叶弥。
もし相手が紅と知った時に何を思うのか、何もなければいい、油断してしまったら。
そんなことをグルグルと考えてしまった。
蒼の方は紅だと知っていて知らぬフリをしなくてはいけない。
この先、様々な不安であったり問題にも襲われてしまう。
どれだけ気丈とは言え、心労を考えればやはり主人が心配なのは支えるものとして当然の心境だ。
「そうか……良かったな、叶弥」
微かに憂いを帯びた優しい瞳で、叶弥を見た。
その瞬間、叶弥の中で違和感が芽生えた。
いつもと何かが違うのに、違和感に気付けない。
変わらぬ蒼であるのに、何かが違う。
理由が見つけられない。
「蒼……?」
「どうした。友人のめでたい話だと言うのに、そんな不安そうな顔をしては可哀想だろう。そうは思わないか、炎、氷」
蒼がちらりと向かいに座る2人を見てそう問い掛けた。
「あはは、そうですね。せっかくの良いことなんですから喜びましょうよ」
「親しいご友人の様ですし、引き取り手が現れたと一言に申しても不安なことはあるでしょう。どの様な方が分かりかねますからね。ですが今はその不安は置いておきましょう」
ね?と2人に言われ、叶弥もそうだねとにこりと笑った。
2人はいつもの様子だったからだ。
きっと蒼は慣れない人混みで疲れたのだろうと、そう考えたのだ。
実際、あまり外に出ない蒼が、陽が照らす日中に人目の多い所に出たせいで疲れはある。
その疲れのせいで、些細とは言え隠しきれなかったのだ。
この先に起こるであろうことへの憂いを。
「恐らく、叶弥様が主人に引き取られた時は陽楽様……でしたか。そのご友人の方も同じ様に不安だったと思いますよ」
氷の言葉に、そうか、と。
自分が陽楽はどんな人に引き取られるのだろうかと思う様に、陽楽もそうだったのだろう。
同じ様にどんな人に引き取られるのかと考えたのかと思うと、感慨深いものがあった。
「きっと陽楽も僕みたいに幸せなところに引き取られるよね」
安心したような笑顔でふにゃりと笑う。
その笑顔を見て、炎と氷も笑顔を返した。
だが、蒼は未だに瞳から憂いは消えていない。
「……蒼?疲れてる?」
「そうだな。久しぶりに人目の多い所に出たから少し疲れはあるが、そこまで疲れているわけではない。気にするな」
紅茶を口に運びそう言った。
疲れも憂いも、蒼にとっては大したことではない。
ただ自分の横に居る叶弥の笑顔をどうすれば守り続けられるか、どの選択肢が叶弥の幸せか。
それだけが蒼にとっては重要だった。
「当面は先だが十彩色の集会の呼び掛けもあってな。それも疲れに起因している」
蒼の言葉に炎と氷は顔色をさっと変える。
「え……集会……ですか……?」
「それは……また……」
先程までの笑顔など嘘であるかの如く、顔を引きつらせる炎と心底嫌そうな氷。
その反応に叶弥は首を傾げるばかりだ。
「何?どうしたの?」
「先程、カフェで話した十彩色だが……色々と濃い面子ばかりでな……参加の際は従者が居る者は従者も付き添いが必須なんだ」
「やだなあ……行きたくないです主人!」
「今回も参加は見送りましょう」
強めに拒絶を見せる2人に叶弥は戸惑いを隠せない。
「既に5回も連続で断っているせいで、今回こそは来いと言われている。それも白(はく)と黒(こく)からな」
「あの2人からとかもう……ええ……」
「叶弥様を置いていくことになりますので、参加はお断り致しましょう」
「そんなに大変なの……?」
炎と氷の拒絶ぶりに叶弥まで恐怖を覚えてしまった。
「主人も主人なら従者も色々と個性が強くてな。疲れてしまうんだ」
「なるほど……?」
「俺としても叶弥を1人で置いておくのは反対だし、今回も見送ろう」
そうだ、それがいいと3人で意見が一致する。
「そうと決まればすぐにでも……」
言いかけた言葉はカンカンカン!という音で掻き消された。
ドアノッカーが勢いよく叩かれた音だ。
3人は顔を見合わせてから、蒼は叶弥を抱き抱える。
しっ、と口に指を当て、叶弥に静かにしているように伝えた。
そのまま蒼は静かに自室へ向かい、叶弥をクローゼットに隠して自分はクローゼットの影の中に身を隠した。
炎と氷は猫の姿になり、階段の影に身を潜める。
その間も鳴り止まないドアロッカーの音。
叶弥はホラー映画か何かと恐怖で固まってしまっていた。
しばらく鳴り続けた後にパタリと音が止んだ。
身を潜めていた炎と氷は足音も立てず、気配を消したままのっそりとドアまで歩を進めた。
耳をすましても音などは聞こえないし、気配もない。
油断は出来ないが、去ったのでは?と顔を見合わせた瞬間だった。
「そ~お~!居ないの~?ドアぶち破るよ~?」
のんびりとした大きな少女の声が聞こえた。
そしてまたドアノッカーが激しく叩かれる。
炎と氷は飛び出そうな声を飲み込んで再び階段の影へと身を潜めた。
「壊してはダメよ、白。蒼は怒らせたらいけないわ」
「だって~出ないよ~?」
「そうね、出ているのかもしれないわ。一度出直しましょう」
音が止み、そんな会話が聞こえた後に気配が消えた。
今度こそは、と炎と氷はドアの向こうに神経を澄ましてから、部屋へと向かった。
「恐らくは帰られたと思われます」
猫の姿のまま、氷がクローゼットに声をかけた。
「本当に帰ったと思うか?」
小声で返事があった。
「気配もなかったですし、音もなかったから帰ったと思いますよー?」
「ならば後ろの窓を見てみろ」
クローゼットの中から聞こえる声。
炎と氷がパッと振り替えるとレースカーテン越しに人影が2つあった。
レースカーテン越しに何とかこちらを窺おうとしているのが分かる。
「まったく……気配がまだ漏れていると思うのだがな」
するりと影だけがクローゼットから滑り出る。
実体化するわけでもなく、そのまま影は話し続けた。
「しかし……白と黒が自ら顔を出したか」
「困りましたね……」
「主人が面倒だからとお2人を総統とするからですよ」
「当然だろう。そんなものになってみろ、集会に必ず出席、積極的な開催もしなくてはならないなんて面倒極まりない」
すっと影から実体に戻り、カーテンを閉めた。
「それは居ることを自ら主張なさっていませんか」
「どうせ帰らないだろうからな。拒絶を示すしかないだろう。叶弥、もう良いぞ」
声をかけると、恐る恐る叶弥はクローゼットから顔を出して、ゆっくりと出てきた。
そして、すぐに蒼に駆け寄って抱きつく。
「すっごく怖いんだけど?!」
「こんな奴らが集まるような集会なんだ」
はあ、と溜め息を吐いて叶弥の肩を抱き、窓を睨み付けた。
「居るんでしょ~!開けて~!」
「ごめんなさい。話だけでも出来ないかしら」
「……黒。白をしっかり制御できるなら許してやる」
「ええ、任せて」
「炎、2人……4人を出迎えてこい。氷は何か飲み物でも」
即座に2人は各々の仕事へと動き始めた。
「叶弥は……ついてこい」
「うん」
蒼は叶弥を連れて降り、居間へと向かった。
既に白髪の少女と黒髪の少女が1人がけソファにそれぞれ座っていた。
蒼と叶弥は2人がけソファに腰掛ける。
向かって右側に座っているのは、白髪のポニーテールに象牙色の瞳の少女。
左側が黒髪のツインテールに黒い瞳の少女。
2人とも美少女と言う形容詞がぴったりくる。
後ろには従者らしきメイドが控えていた。
片方は白髪のショートカットで、もう片方は黒髪のショートカットだ。
炎もすぐに蒼の後ろに立ち、飲み物を運び終えた氷も叶弥の後ろへと回る。
「お久しぶりね、蒼。元気だったかしら」
「変わりなく、といったところだ」
「ねえ~その人間の男の子はなあに~?」
興味津々で白い髪少女が叶弥を見ている。
敵意がないということは、叶弥でも理解できた。
「私も気になっていたところよ。その人間はどなたかしら」
「俺の恋人だが?」
蒼の言葉に少女は顔を見合わせて、もう一度蒼を見た。
信じられないものを見た、聞いたという顔をしている。
「こ、恋人~……?」
「人間はおろか同族とさえ関わりを嫌う貴方が……人間を恋人に……?人間と恋を……?」
「そうだと言っているだろう」
蒼が不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。
「あ、自己紹介まだだよね~?あたしは白っていうんだ~よろしくね~!何クンかな~」
「私は黒よ。よろしく」
「よ、よろしくお願いします……えっと……叶弥です……」
何が何やら分からないまま、叶弥は頭を下げた。
「ふ~ん……そういうことお~」
「貴方が今回不参加を表明した理由は明白ね」
「分かったのならさっさと……」
「き~めた~!ここで開催しよ~!」
白がにこにこと声高らかに宣言する。
言うまでもないが、蒼の眉間の皺が更に深く刻まれた。
「そうね。開催場所に規定もないし、いつも私達の家では退屈でしょう。それに、叶弥さんも参加できるでしょう。それなら貴方も心置きなく参加出来るわね?」
「そんなこと認めるわけがないだろう。帰れ。叶弥をあんな連中の前に晒せるものか」
低く唸るように蒼は静かに拒絶する。
その瞳には静かな怒りの炎が揺らめいていた。
「そんな怒らないでよ~。蒼が参加しないって言うなら~そうするしかないも~ん」
「彼のことが気がかりで、というならそれしかないわ。さすがに長らく顔を出していないから他の者達も気にしているのよ」
白と黒が困った顔をしている。
どうやら、他の参加者から蒼の姿が見えないと声が上がっているらしい。
炎と氷もそれは分かっているが、叶弥を巻き込むことに首を縦に振ることは出来ない。
「叶弥クンには~私達も目を光らせるしさ~。ね~?」
「そうね。私達も叶弥さんのことは気にかけるし、うちの白雪と黒雨(こくう)にも護衛をさせるわ。それなら良いでしょう?」
蒼は目を閉じたまま黙っている。
叶弥はハラハラとしながら3人の顔を見て、困った顔になってしまった。
「今回はあの方が亡くなられて100年なの。さすがに貴方にも参加して貰わなくては困るわ」
「……分かった。ただし、俺は叶弥から離れない。それでいいな」
「お~け~」
「構わないわ。参加して貰えるならいいのよ。邪魔したわね」
ようやく話が纏まると、2人はすぐに帰った。
その際、黒が叶弥の目をしっかりと見つめて「蒼をよろしくね」と言って去っていった。
「まったく……面倒なものだな……」
「致し方ありませんよ。私どもも叶弥様の近辺には目を光らせますので」
「もてなしの準備も、叶弥様の護衛もお任せください!」
「ぼ、僕も色々気を付けるから……」
疲れ果てている蒼を氷と炎は必死に宥めた。
叶弥も蒼を必死に宥めることに協力する。
そんな中、またドアノッカーの音が響いた。
今度は誰かと蒼がげんなりした顔になる。
「何か言い忘れでもしたのか」
「さあ……俺ら見てきますね」
炎と氷が早足で玄関に向かった。
その間にも何度か控えめにノックされている。
今度は黒が叩いているのだろうか。
そう思いドアを開けた。
そこに立っていた相手に炎と氷は顔を強張らせ、そして溜め息を吐いたのだった。
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