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BPM147
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「や、んンッ……! コータ、コータ……あ、っああ」
「ヒロ……、ヒロ、いいっ」
ジュプ、ジュプ、ドプッ。
「ああぁ――……コータ、こぉ、たぁあああっイく……っ、イっちゃうッ」
「……いいよ、ヒロ、ヒロ……好きだ」
「あ、ァアア――――……っ、コータ、出して、中にッ……いっぱい、あっ、ああぁ……っ」
「んぅうう、ヒロ……きつ……っ、あ、イくよ……、ヒロ、ヒロッ」
ドピュッ、ドピュッ、びゅるるっ。
という漫画を読んでいました。
へーえ、薄い本ってすげえのね。
彼女が無造作に置いていった同人誌を、何度も欠伸しながらパラパラめくる。彼女とは付き合ってそろそろ六年が経つ。きっとこのままずるずると結婚でもするんじゃないかという程度にお互い遠慮がないけど、エロ本置きっ放しってのはどうかと思う。リビングで寛ぎまくって相手が居ても屁とか気にしないのとは次元が違う。
俺のベッドの下に置いてあった同人誌を引っ張り出して分類する。中身を見なくても表紙で組み合わせが分かるあたり上手く出来ている。合計38冊。内、22冊がコータとヒロ、16冊がシンとヒロだった。おおよそ6対4。
俺と孝太って組み合わせは1冊もない。当たり前か、彼女はそもそもヒロクラスタだ。
「ぎゃああああああああなにしてんのなにしてんのあんたなにしてんのマジ勘弁して!」
仕事帰りの彼女が目を白黒させながら寝室のドアを開けるなり雄叫びを上げた。パリッとした白のパンツスーツが最高にかっこいい、デキる女。キリッとした凛々しい美人。でも腐女子。貴腐人だっけ?
「何って……エロ本読んでんだけど」
「ちょっ、いや、ほんとに……関係者禁って書いてあんじゃんよく見ろぉおおお!」
……そこ、俺のせいか?
「ベッドの下なんかに置いてるお前が悪い。そこは俺の秘蔵の隠し場所だ」
「……あー見た見た、進って人妻好き?」
「ちょっと違う。未亡人喪服萌え」
「うわぁ変態!」
「お前に言われたくねー」
彼氏ズリネタにホモ本持ってるお前に言われたくないマジで。
彼女は長い前髪をかきあげながら、俺がカテゴライズした薄い本を再び分け直していた。どうやらカップリングで分けてた訳ではなかったらしい。
「つーか何で居んの」
なんだその亭主元気で留守がいい発言。ここは紛れもなく俺んちです。会社から近いって理由で勝手に押しかけてきて半同棲始めた挙句に家主を追い出そうとしている彼女は本気で迷惑そうに言った。我々カップルの力関係が伺えよう。
案の定夏休み最後の8月30日状態で追い込みかかってスタジオ缶詰だった俺は本当に久々に帰宅した。ここ一週間の睡眠時間が4時間切ってて俺の天才的頭脳は溶けそうで、頭働かなすぎてヤバイから寝るために家帰ってきたのだ。そう、寝るつもりだった。なのに何故かホモ本を読み漁っていた。寝るのもしんどいぐらい何にもやる気なくて、気付いたらベッドの下から薄い本を引っ張り出していたんだ睡眠不足というミラクルマジックに罹っていたとしか思えない。
因みに一週間の睡眠時間4時間ってのは平均ではなくトータルだ。そりゃ作業も進まないわけだ。ループ回数も間違える、クオンタイズのグリッドも間違える、ミュートするつもりが誤ってバッサリとデータ削除もやらかすやらかす。
「俺より浩弥のが好きか?」
だからこの質問も、何かの間違いなんだ。彼女はあからさまに「何言ってんだこいつ」という目で俺を見た。
「ヒロはあたしの嫁です」
「じゃ、俺は?」
「旦那になって」
「えっ、プロポーズ?」
「プロポーズは進からしなさい」
「あー、事務所に訊いとくわ……」
「今すぐって意味じゃなくてそのうち」
「ん? そうなの?」
「あたしまだ結婚したくない」
うーん、結婚。したいとかしたくないとか以前にピンと来ない。
昔は結構憧れた。会社勤めして、可愛い奥さん貰って、子供が二人、マイホームとマイカー持って、じいさんばあさんになった両親のところに遊びに行って、みたいなことは将来像として描いていた。内定蹴った時に諦めた、夢。
現況で睡眠時間がほとんど取れないのは、アルバムの制作スケジュールが明確になっていること以上に、そこへ捻じ込まれたプロデュースの仕事が原因だった。俺だけでなく、孝太も浩弥もソロの仕事が入り始めていた。それはどうしたってバンドがなくなっても食っていけるようにっていう根回しを連想させる。解散というレール。前ほどバンドに依存した不安定さはない。
「解散しちゃっても俺のこと捨てないでね、奥さん」
「心配しなくても進ひとりぐらい養えるわ」
「逞しい……」
「そろそろかなーってね。あたし知ってる限りヒロは3年以上同じバンドやってた試しないし。あ、ごめんね、あたし進たちが解散してもヒロの追っかけやめないから」
「……やっぱり俺より浩弥の方が好きなんじゃねーか」
「なに? 進でも嫉妬することあんの? めっずらし」
同人誌を纏め終わった彼女は、それを再び俺のベッドの下へ仕舞い込んだ。喪服未亡人の隣がホモの定位置になったらしい。夕飯をどうするか尋ねられ、飯食ってる時間あったら眠りたいと答える。
眼鏡を外してサイドボードに乗せる。四日前からコンタクトレンズが面倒臭くなって眼鏡に戻していた。
「あのさ。アレ」
ベッド下の同人誌に足先を向ける。それに気付いて彼女が忌々しそうに舌打ちした。
「俺と孝太っつー組み合わせは売ってねーの?」
「コーヒロが王道、シンヒロもまあまああるけどシンとコータなんてイバラもイバラ」
「あ、そ」
「でも高校同級なんだっけ? ある意味美味しいよね」
「美味いんだ?」
「で? どっち?」
「なにが」
「シンコー? コーシン?」
「???」
「どっちが突っ込む方で、どっちが女役かって話よォ」
ムフッと彼女は鼻の下を伸ばして下品な笑い声を立てた。
ライブ終演後に毎回あんなことやらこんなことやらしているのを思い出して俺は眉を顰める。なんというか、生々しい。あんな、漫画みたいにキラッキラしてないし、ドロッドロもしていない。ピューッと便器に向かって飛んでく精液なんて色気もクソもない、小便と一緒、ただの処理。
「そんなことよりえっちしよか」
処理じゃない方のやつ。
彼女がやっぱり「何言ってんだこいつ」みたいな軽蔑しきった目で見てきた。よだれ垂れそうなぐらい眠いし疲れてるのに無性に彼女を抱きたかった。
手早く彼女の白い鎧を脱がせ、肌に手を這わせる。
彼女は俺の腕の中で浩弥の名前を呼ばなかった。
そんな当たり前のことに安堵しながら孝太を想う。
彼女を愛する一方で、俺は多分、孝太のことが好きだったんだ。
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