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朱い水 第2章㉖
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嘘だろ、こんな若いの。
少し年の離れた兄か親戚だと思った。
でもこんな可愛い人なら泉水さんも…
「どうかした?」
「いえ、お邪魔ですし今日は帰ります」
「え、いいの?」
「はい。明後日部活で会えますし」
「そう」
有志は折角の珍しい客にテンションが上がっていたからか、帰ると聞いて眉を落とし全身を使って残念だと表現した。
確かにこんな父親、ちょっとやばいかもな。
佐倉はもう一度有志を舐め回すように見ると、一礼しその場を去ろうとした。
「あ、君名前は?」
「佐倉です」
「佐倉君ね、うちの子に来たって伝えておくよ」
「はい。それでは」
うちの子、ね。
自分の子供と、セックスしたんだろ。
「?」
「失礼します」
佐倉の黒く陰湿な部分に気づいたのか、有志は少し身震いをした。
それにしても礼儀正しくて綺麗な顔した子だな。
最近の子ってみんなあんななのかな。
佐倉の気持ちも知らずノー天気に考えていると、ガシャンと音がした。
誰かが帰ってきた。
必然的に、智希なのだが。
「あれ、佐倉?」
智希はスーパーの袋を抱えながら柵に鍵をすると、二人の影に少し驚いて体が止まる。
有志の声が聞こえたけれど、もう一人が佐倉だと気づくまでに時間がかかり、わかった途端大きな声が出た。
「あ、あ、あ、よかった、智。あの、佐倉君が用事あるって」
「なに」
智希は一瞬有志を見た。
必死に智希に声をかけているのがわかり痛々しい。
見ていられなくてすぐ目を反らし佐倉に声をかけると、その一部始終を見ていた佐倉はフっと笑い鞄の中からプリントを出してきた。
「はい、明後日の練習試合の集合場所とか書いたプリント。先輩今日持って帰るの忘れてたでしょ」
「そんなん携帯で教えてくれればいいのに」
「地図とか書いてるし、ほらここ、対戦相手のこととか」
「あ、ほんとだ結構書いてくれてんだ」
そこに、有志の居場所はなかった。
学生服を着た若者が部活の話しをしている。
自分はしなびた部屋着でサンダル。
年も、一回り以上離れている。
何か、当たり前のことなのに孤独を感じる。
「はい、練習試合って言ってもインハイに向けての大事な試合って監督言ってましたよ」
「どうも」
しっかり者の後輩はプリントを渡そうとすると、買い物袋で持ちきれないのか少し戸惑う智希を気遣いそのプリントを智希の鞄に押し込んだ。
「じゃあまた明後日。練習試合頑張りましょうね」
「あぁ。ありがとう」
「失礼します」
「あ、まだ明るいけど気を付けてね」
「はい」
佐倉はチラリと有志を見ると、立ちすくんでいる姿に会釈した。
有志は思わず丁寧な言葉と態度に言葉をどもらせたが、父親らしい顔で優しく言葉をかける。
そのまま智希と有志は佐倉が見えなくなるまで立っていた。
何か、気まずい。
「おかえり」
「ん」
智希はそれだけ言うと、有志の目を見ず玄関に入ろうとする。
有志は心地悪さを感じながら智希の持っている買い物袋を取ろうとした。
「あ、ごめんな半分持つ」
「いいよ」
拒絶。
目も見ない。
声のトーンも、いつもより低い。
ショックで息を飲んだ。
しかし有志は智希の前に行き玄関のドアを開けてあげると、智希はうつむきながら何も言わず中に入っていった。
取り残された有志は肩を落としながら中に入りリビングへ向かう。
「佐倉くん?凄く丁寧でしっかりしてそうな子だな」
なるべく明るい声で。
しかし有志の声だけが響いている。
智希は無言で買ってきた食材を冷蔵庫に直しながら、何か考え事をしているのだろうか眉間にしわが寄っている。
「練習試合どこで?何時から?行くよ」
冷蔵庫の前でしゃがむ智希を見下ろしながら、必死に訴えているというのに。
今の智希には響いていないようで。
「いい」
「大丈夫だって、今仕事暇だから…なんだったら平日でも有給取って」
「いいって。練習試合だし」
「でも佐倉君、監督が大事な試合だって言ってたって」
「っ……」
「えっ」
ガタン。
大きな音を立てて何かがばらまかれた。
智希が直していた野菜たちだ。
冷蔵庫の周りに食材が散らばったと思ったら、有志は簡単に足払いをされ床に押し倒された。
「つっ…」
それは突然だったため有志は背中を強打した。
驚いて見上げると息を荒げた智希が覆い被さっていて、熱い息がかかるほど接近していた。
「ちょ、智っ!」
振りほどこうと思っても、完全な力の差でビクリともしない。
肩を押さえられさらに抵抗出来なくなると、何か喋らないと。そう思う有志だが冷や汗ばかり出てくる。
「と、智希。落ち着け。ごめん、俺が悪かったから」
「それは何に対して」
「っ………」
心臓が、鷲掴みにされたよう。
「入ってこないで」
「智希……」
震えている。
泣いているだろうか。
いや、泣いてはいない。
怒り、悲しみ。
何にたいして震えているのか。
智希本人にもわからない。
「ごめん、今日のご飯はなんか適当に作って」
「とっ」
ボソリと言葉を発すると、あんなに高揚していたというのに、智希は簡単に有志から離れ台所を出て行った。
二階の扉が閉まる音が聞こえる。
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