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去らなば、乞う
「…おい。毎回毎回、何度言ったらお前の頭に入るんだ、オレの忠告は!!」
経理部の主任である藤島小春の怒号がオフィスの空気をビリビリと震わす。…そして、室内の温度を約三度ほど、ひやりとさせた。
「これで何回目だ、こっちに回す書類を溜め込むなと教えたのは!!」
営業部のエース、加えて女子社員のプリンスと名高い新田透は退屈そうに小さくアクビをした。
「…三回目、ッスかねぇ??」
「回数確認してんじゃねぇんだよ、こっちはよ!!」
未だにおかんむりモードの藤島は、ぼさぼさの黒髪、目の下に何重もどす黒く蜷局を巻くクマが不名誉にも特徴的な三十一歳だ。
「まあまあ、主任落ち着いて。」
手をヒラヒラさせる甘いマスク。甘茶色のふんわりした髪。おまけにベビーフェイスで実年齢より若く見える。二十八歳は猫の如く軽やかに伸びをした。
「てめぇのせいで落ち着けねぇんだろ!!」
更に怒鳴る藤島に辟易したのか。新田が彼の肩に向かって腕を伸ばす。
「はいはい、何はともあれちょっとは落ち着きましょうよ、藤島サン。」
次の瞬間、藤島が勢いよく年下の男の腕を叩き落とした。
「触ンな…ッ!!」
破裂音にも似た派手な音がオフィスに響き渡る。先程までパソコンの画面にくぎ付け状態のフリをしていた他の社員達も何だ何だと二人に注目し始めた。
下手するとそれは…否、ありのままに言えば、上の立場の者がした“パワハラ”にしか見えなかっただろう。
流石の藤島も観衆の増加で事態を把握した。やべっ、とさっと蒼褪める藤島を見て、年下の男はやれやれと肩を小さく竦める。
「ええ~っ、いったぁ~い♪藤島サン、手加減くらいして下さいよぉ~!!」
片腕をさすさすと撫でながら、器用の男は身体を左右に捻ってみせる。冗談めかす新田の態度を見て、何だ音ほど深手ではないようだと観衆達は段々と視界を外していく…。
「わ…悪ィ。」
後頭部に手をやって、ぼそりと呟く藤島はその草臥れたスーツと相まって、かなり憔悴しているように見えた。新田は片頬をくっと引き上げて、油断している年上の男の肩に腕を回す。覆い被さるようにして、藤島を半ば強引に近寄せる。
「ぅわ…っ、新田!!」
驚いて目を見開く藤島に、年下の男はニヤニヤしながら言った。
「…ここじゃなんですし、外でお話しませんか、藤島サン??」
「…あ、ああ。」
藤島は何かに怯えるように、こくんこくんと小さく頷いた。
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