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第九話
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結局夕方までバイトをして、帰り道に同じサークル仲間に出会った流れで、カラオケに行くことになった。
なんだか、昼間から、頭の中がモヤモヤでいっぱいで、今すぐ歌って発散したかった。
大学の隣の駅にある繁華街のカラオケは、学生割引で飲食物の持ち込み可でよく行っていた。高校の時と違うのは、お酒が飲めるところ。二十歳になってから、すぐに酒を覚えた。今更ながら先日母親が言った通りの大学生活になっていることに気づく。
四年になって後悔する、かもしれない。
「いつも思うけど、桃谷さ、すげぇコントローラー使いこなしてるよな、設定細けぇ」
「え、そうか?」
「曲ごとにキー上げ下げして、スピードも変えるし、桃谷が歌うと全く別の曲になる」
「だって、歌いにくくない?」
「あ、桃谷『XXXX』のアレンジ歌うの? 今日も録っていい? 動画作りたい」
「別に、いいけど、瀬川、これ好きだよな」
そう言いながら、マイクを握った。
動画、と言われてまた、純のことを思い出している。何をしていても、どこにいても、いつも絶対に頭のどこかで純のことを考えている。
知っているコードや定番の和音進行が聴こえると、過去に純が鳴らしたピアノの音を思い出す。
(病気かな、多分、依存症。純がいないと生きていけない病気とか)
酔ってることを自覚する。
洋楽でも、邦楽でも、アニソンでも、歌はなんでも好きだった。昔、音楽を嫌いになりそうなこともあったけど、今もこうやって楽しく歌っていられるのは、純がいたからだ。
――欲しい、欲しくない。
そんな、切ない恋心の歌詞。女性ボーカル曲だが、キーもスピードも違う、結斗が作った曲のようなものだ。
歌い終わって、画面に採点が表示される。音が外れてなくても、リズムも含めて自分の曲にして歌っているので点数がふるわないのは予想通りだった。
「結斗の歌、まじ泣ける」
「かっけーな、ホントお前の歌好きだわ」
「ありがと、ほら次、瀬川の順番」
マイクを隣の友達に回す。友達の拍手も、賞賛の声も、全部どうだって良かった。
歌うことは好きでも、周りの評価には興味がない。楽しんでくれたらそれでいいし、自分が楽しければそれでよかった。
カラオケがお開きになり、その場で友人と別れ、一人で電車に乗っているとスマホに純からメッセージが届いた。猫だの犬だのスタンプで事足りる連絡も、純は律儀にいつも全部文字で送ってくる。
――今どこ?
――電車乗ってる。帰るとこ。
――そう、今日はうち来るの?
純の返信を見て、少し考える。あまり強くもないのに、結構酒を飲んでしまい、だいぶ酔っていた。自分の家にこのまま帰ったら、母親に怒られることは明白だった。だったら純の家に行こうと思った。
――今日泊めてくれない?
――お酒飲んでるでしょう。
(何でわかるんだよ)
――うん。今日は帰りたくない。
――(驚く猫のスタンプ)
「どういうこと?」
思わず電車のなかで、声を出してしまい周りの注目を集めてしまった。
今まで一度だってスタンプを送ってきたことがなかったのに、純がスタンプで返事をしてきた。どういう意味で取ればいいのか分からなくて、返事の手が止まる。
何も返さずにいたら、文章が続いた。
――気をつけて、酔ってるなら坂で転けないように足元ちゃんと見て歩くこと。
(だから、なんで、子供扱いなんだよ)
それには、怒った猫のスタンプを返しておいた。
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