アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
プロローグ
-
中学2年の初夏のある日、取り込んだ洗濯物を畳んでいると注目歌手を特集するコーナーがテレビで流れていた。そこには名前も知らない3人組のバンドが映り、丁度演奏を始めるところだった。
ドラムスティックのカンカンカンと乾いた音がリビングに鳴り響くと、続いてギターとベースが音を掻き鳴らす。アップテンポに奏でられる曲調が僕好みで、思わず作業を止め聞き入ってしまう。
そしてギターを持ったボーカルが息を吸い、第一声を発した瞬間……。僕の心がギュッと掴まれ、テレビに釘付けになった。
聴きやすく、ふわりと優しい歌声。なのに泣いているような、怒っているような詞だった。
リズムのいいメロディーに温かい歌声、それに切ない歌詞、それぞれが一つに合わさって全身に流れ込んでくる。ボーカルの想いが棘となり、刺さって抜けないような……。そんな感覚で心に訴えかけてくる。
気付いた時には演奏は終わっていて、僕の顔は沢山の涙でぐしゃぐしゃだった。
ぼやけた視界の中、テレビ越しに見るボーカルはぎこちなく笑っていて、その姿は儚く美しい。
『――オレは気持ちを言葉にすることが苦手で…………。でも歌でなら出来るんじゃないかって……それでその想いを書いてみることにしました。』
演奏後に言った彼の言葉は、僕の心に刺さった棘を傷ごと浄化していくようだ。
これは彼の想いが詰まった詩……
そう感じた僕は今まで抱えていた想いを吐き出したい感情に駆られた。色んな感情が心の奥底から沸き上がってくる。それを近くにあった小さなノートに書き殴った。
これは僕が“うた”に魅せられ、止まっていた時間が動き出した瞬間。
それは物語の1ページ目が開く音―――。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 6