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菊蛍は志摩王子を敬愛している。
伴侶のおわす方なので、そんな機会は永遠に来ないといいが、彼とだけは寝たくないと思う。ただ尊敬できる人物でいてほしいのだ。遠くから眺めて崇めていられる、神様のような人であってほしい。
志摩王子は幼少のみぎりに海賊に拉致され、性的暴行を受けた。恐ろしい体験だったろうし、今もトラウマを抱えている可能性はある。
しかし、その顛末は風変わりだった。
あの王子は八歳という幼さで、海賊の陰茎を噛みちぎって回ったのだ。曰く「腹が立ったので」。
強姦というのは、とても恐ろしい。何をされるか分からない。押さえ込まれて、弱い器官を蹂躙される。そこに快楽があるか否かなど関係ない、ただの暴力行為だ。
あの子もきっと、怖かったと思う。
志摩王子のことは伝え聞いたことでしかない。だが、強姦魔に対して凄絶なほど抵抗する現場を目撃したのは初めてだった。
(俺も、志摩王子やあの子のように出来れば、違う人生があったのだろうか……)
恐怖に屈服せず、あらがっていれば。
何かが少しは変わったのだろうか。
***
目貫通りから外れて裏道をいくと、華やかな一角に出る。
「うわあ、すごい。吉原?」
「吉原ではないが、花街だ」
資料で読んだことがある、昔は女の人が身体を売り物にして、商売してたんだ。今は全面的に法律で禁止されてるけど……
朱の壁に黒い瓦の六角形の建物や、鮮やかな蓮の絵が描かれた店。赤い格子の向こうに、艶やかな着物を着た遊女のセクサロイドが微笑んでる。
そう、女の人が身体を売るのは禁止だから、セクサロイドが代わりにお仕事してる。接客は芸妓さんがするそうだけど。
それにしても、蛍はしこたま馴染むな。店員ですって言っても違和感ない。観光客も、そういう人だと思って蛍に見惚れる。足を止めてあんぐり口を開ける奴もいるほどだ。
そうだよな。少し慣れちゃったけど、蛍ってそういう人だ。立って歩いてることが、それだけで奇跡。
俺はお付きの小間使いみたいに見えるんだろうな。
連れてかれた店は他所よりこじんまりしてたけど、中は凄かった。建物の中に橋がかかってて、下が池。鮮やかな金の天井画から、無数の硝子細工が下がっている。竹カゴの中に鬼灯のランプが転がる置物なんてのもあった。
「地下座敷を」
蛍が女将に言うと、和装の女将は何も言わずに頷き、和紙の行灯を持って先導する。
橋を渡って地下への階段。木造の階段ってぎしぎし言って不安定だ。滑る感じもする。壁には男女が絡み合う極彩色の浮世絵が飾られていた。
部屋の前で頭を下げる女将の脇を抜けて、入った部屋は薄暗くてお化け屋敷みたいだった。白い壁に浮かび上がる天女の像。
「これ、なんだ?」
「鏝絵という。漆喰で作られたレリーフである」
他にも、色とりどりのぼんぼりが並んでて、それにも興味を惹かれたけど、蛍の腕に閉じ込められて動けなくなった。
「ずいぶん警戒心がない」
だって蛍じゃんか。
何言ってんのか分からなくて見上げると、蛍は苦笑する。
「……信頼が裏切られることもある。痛いことはしないが、これからお前に酷いことをするぞ」
「なんで?」
「お前は無鉄砲である。そこが良いところだが、制御が必要だ。弱いうちは特に。お前は言っても聞かん子だから、身体に覚えさせる」
首筋を吸われながら合わせの間に手が入って、インナーの上から乳首を指先でこりこりされた。それだけでもう、その気になってしまう。
インナーと袴を脱がされて、小袖は肩まで落とされた。頼りない格好だ。なんでか裸より恥ずかしい。
キスをしたまま和風のベッドに押し倒されて、手首をとられる。
かしゃん、と。
頭上で音がした。手首が何かで拘束されてる。
そういう趣向? とほけーっとしてた。
菊蛍は俺にとって恩人で、優しく抱いてくれる人で、温和で上品で。躾けってのも俺のために怒ってくれるってことだろうから。
首にパッケージポンプ押し当てられて、薬を打たれても、なんだろ、くらいにしか思わなかった。
「これが何か分かるか」
「媚薬?」
「……お前は本当に危ないな。一度気を許すと疑わない。これは、麻薬だ」
「へ」
「主に自白尋問や洗脳の際に使用される。朦朧として変性意識が働き、催眠にかかりやすくなるのだ」
説明を受けてる時点でクラクラし始めてたから、尋問、とか洗脳、とか催眠とか、強烈な単語だけが頭に残った。
蛍が棚から取り出したのは、見覚えのあるものだった。看守の持ってたスタンプだ。足を持ち上げられて、尻っぺたにポンと押される。
ここへ来てもまだ「あれ苦手なんだよな」としか思ってなかった。いや、もう薬のせいで正常じゃなかったのかもしれない。
それから指よりずっと細い注射器を尿道口に挿されて、きゅうっと押し子で中の薬品を注がれる。逆流してくる感覚に「ふぎぃ」とかよく分かんない声が出た。
「中に入ってるのは同じ、性感ナノマシンだ。次はここ」
つつと触れるか触れないかくらいの位置で乳首を撫でられる。こっちには吸盤みたいのを付けられた。中は硬めのゼリーっぽいぬめっとした感触がある。凹凸があるみたいで、舌みたいだ。
動き始めると中の凹凸ゼリーがぐちゃぐちゃ動き出してきゅうきゅう断続的に吸われる。なんだこれ、乳首どころか乳輪まで気持ちいい。
乳首は今までちょっと吸われたり舐められたりするくらいだったから、性器がじんじんするほどココが悦いと感じたのは初めてだった。
尿道口とアナルに侵入したナノマシンの玩具も悦とこぴりぴり刺激し始めて、息が上がってくる。
「……これから」
服を脱いだ蛍が、俺の足を担いだ。
「お前が何度気絶しても、何度も犯す。俺が疲れたら道具も使う。犯されている間と、絶頂の時に、別の音をお前の頭に流す。植え付ける。薬と絶え間ない快楽で、その音を聞いただけで絶頂するほどの条件付を与える」
「あ、ああ、待っ…こんな状態で挿れられたら……」
後ろのナノマシンだけで「病みつきになる」ほど凄いんだから、薬と乳首と尿道と同時に攻められら、どうなるか。どうなるんだ?
「あぐっ」
入り口を肉棒で拡げられただけで快感が走った。
同時に、ザワザワした独特の音楽が頭に流れ始める。俺のマイクロチップ経由で。ノイズっぽいが、確かに曲だった。形容しがたいが、ヒーリング系のソルフェジオ音楽に似てる気がする。
「んん……」
ぐうっと奥まで押し入って繋がり、酩酊したようなぐらぐらする意識の中で快楽に身を委ねた。
「あ…あーっ、あ、あう、あんぁ…あ、ああっああっ!」
蛍はなんか、俺がどうすれば悦くなるか知り尽くしてるみたいに動く。加えて前立腺やら精嚢やらに電気刺激。ぐねぐね舐めながら吸う乳首の玩具も気持ちよすぎる。
こんなにされたら、もうすぐクる……!
「うあっ、うああ…ひ、ん…くぅう、うえぇ」
クるっていうよりキテる。射精でもなくドライでもなく潮撒き散らしてイってる。なんも、考えられな…白、い、だ、め…
「ほたっ、イッてう、イッてるからぁ!! うご、うごかないでえ、あっあっ」
「まだ人の言葉が話せるか」
「んやぁーっ!!」
絶頂長い。ナカがビクンビクンしてる。奥突かれるの気持ちい、よすぎる。
ざわざわ音楽が、いつの間にか激しい風鳴り音楽に変わってた、が、その時の俺に留意する余裕があるはずもない。
蛍が射精すると、引き抜かれるけど、すぐにイボのついた団子みたいな玩具を嵌められる。これがそのイボイボで奥んとこを執拗に捏ねくり回すんだ。
「やだ、いやだ、これいやっ…蛍がいい!」
「俺も休まねば持たん」
「やだぁあああ!」
気持ちいいは気持ちいいけど、なんか生理的に駄目だった。でも、その日は蛍とイボ団子に交互に犯されまくった。
「あぇ、あぅああ…も、むり、あ、んぁ」
犬みたいに舌出して、たぶん潮どころか小便漏らした気もする。
音が、頭の中でずっと鳴ってる。その音しか聞こえなくなってきた。音と過ぎた快楽だけが意識を支配する。気絶も、多分何度もした。覚えてない。俺はどこで何してて、俺ってなんだっけ、も…わかんない。
「かはっ、かひゅ…ひ、ひゅー、ひゅー……」
声、枯れてきた。喉いたい。気持ちい。もう気持ちいのいや、辛い。ゆるして。やめて。こわい。きもちいよお…おなか、くるしい。ナカが、奥が、おなかが、乳首が、すごい気持ちよくて、じんじんして、びりびりして、あたま、おかし…く、な……
しぬ
腰振る力なんかとっくになくなって、抱えられた足が人形みたいにぶらんぶらん揺れてる。脱力しきったまま犯されて抉られて。何見てんだろ、ぼんぼり?
最後に見たの、たぶん、ぼんぼり。
次に目を覚ましたのは志摩じゃなくて船室だった。医務室。
(夢……?)
ざわつく音楽と、苛烈な快楽。ぼんぼり。なぜかぼんぼりが強烈に記憶に残ってる。
「無事?」
いつも半眼のミチル先生が覗き込んできた。
「蛍の奴も無茶するよねえ。喉と炎症は治して薬も抜いたけど。頭大丈夫? これ何本?」
「うたちゅ」
「ろれつ回ってないねえ」
「かあたんは?」
「………」
よく覚えてないが、数日ほど幼児退行したらしい。
迎えに来た蛍に抱っこされて、部屋で蛍にしがみつき、ひとさし指しゃぶってたのはちょっと覚えてる。
少しずつ意識が回復して、現状把握するのにどれくらいかかったのか。毎日ミチル先生に「これ何本?」とかテストを受けてた。
昨日の夜からはっきりし始めてたが、まだぼんやりしてたので、蛍に抱えられたまま朝を迎えて考える。
なんかすげーことされたな。
怖いと、最中は考えてたが、あそこまでされるともう放心。いっそ清々しい。出すもん出し切ったからか? 尻のナカはじくじくした焦れったさがあるけど。
蛍の寝顔、初めて見たかも。
やってること完全に犯罪者だったけど、顔だけで許せる恐ろしさ。これが黒子のおっさんだったら、今頃ぶっ殺してるかんな。顔に感謝しろよ。
輪郭とか、骨格とか、造形美の領域だ。綺麗な寝顔だな…くそ。
腹が立って唇にキスをした。思えば俺から何かアクション起こすの初めてだ。
今までのと違って、あれは強姦だった。躾けと言ったが、なんで俺が躾けられにゃならんのだ。腹立つ。いっそ寝込み襲ってやろうか?
とも思ったけど、腹んナカが疼いて仕方ないから、たぶん普通にヤっても満足できない……我慢できなくて蛍に跨っちまう気がする。そうしたら結局、こいつの良いようにされるよな。
ぶすくれて蛍の髪を弄ってたら、すぅっと瞼が押し上がった。
あ。久々に、息呑む感覚。思考の止まる美しさ。
「戻ったか?」
いつものような優しい笑顔。頬に指が触れるけど、なんか嬉しくない。
「いい顔だ」
「なにが」
「疑うことを覚えた」
なんだそりゃ。
しつけるって言われて花街に連れ込まれた時、俺はちょっと嬉しかったんだ。初めて蛍が俺に感情らしい感情を向けてくれた気がして。
その感情が何だったのか、人の機微に疎い俺にはわかんねえけど。
分かんないって、つまんないな。爺ちゃんの言う通りだ。俺が言い出したんだっけ。どっちでもいいけどさ。
蛍は乱れた髪を手ぐしで梳かしながら、身を起こす。
「お前は疑わんから怖い」
「警戒心の塊みたいな奴ってよく言われるけどな」
「移民船から此処へ連れられてきて、疑いもせず働いている」
「そりゃ……だって、助けてくれたし」
「我々があの移民船を奪取したのは、彼らを懐柔し傘下のロマ組織に送って労働力にするためだ」
蛍が俺の頬を包み、笑み深める。
「お前もその一人である」
いや、べつに。
不当な扱いは受けてないし、社長にはよくしてもらってる。ロマの俺には働く場所も居場所も必要なんだ。全部用意して貰って、騙されたとは思わねえよ。
でも、まあ。
やってることは移民船に拉致した連中と変わらないっちゃ変わらないのか。同じ穴の貉といえばそうなんだろうが。
「あんたは、必要以上に自分を悪く思いすぎなんじゃねえか」
「さあ。この程度は悪いこととも思っておらんが」
「だって……」
「本当に悪いことは、お前になど話せん」
きゅうと抱きしめられて温かさに息をついた。
ただ―――
蛍が俺の尾てい骨の上あたりをつっとなぞった時、耳の奥で風鳴り音楽が聞こえた。
「あっん」
ガクンと背が震えて目を見開いた。じわじわぞくぞくびりびり、腹の奥のイイトコが勝手に悦がってる。
音はすぐに止んだけど、恐恐と蛍を上目に見た。
「言ったろう、条件付をしたと」
「なんのために……」
「躾けだ、とも言ったはずである。お前が暴走しそうな時には、容赦なく使うぞ」
その条件付けって「ステイ」とかじゃ駄目だったのかよ。なんでイカすんだよ。
もしかして、風鳴り音楽鳴ってる相手、俺なんもなくてもイキっぱなしになるのか? 怖すぎるだろ、薬物調教。
「お前は痛みでは止まりそうにないからな」
猫の子のように髪を撫でられ、額に口づけされる。
出来れば強くなりなさい。強く、強くなりなさい。
爺ちゃんの言葉を思い出す。たぶん、これからの俺に必要なこと。
俺が弱いから蛍はあんなことしたんだ。弱い俺が酷い目にあったり、死んだりしないように。
あんた、俺を守ろうとするけども。
本当に守ってほしいのはあんたなんじゃねえのか。
俺を守ることで自分を守ろうとしてんじゃねえか。
俺の母さんがそうだったように。
守ってほしいなら守れるようになってやるよ。
甲斐性なしはモテねえからな。
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