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俄かに宇宙で人気を集めた「クロネちゃん」のファン層は主に若い世代で、今回の事件は大きな衝撃を彼らに与えた。
ウィッカプールのスピーカーから発せられた音声の記録、前後の関係、クラライア皇女の証言、医師の診断から、彼の被害届取り下げは「おかしい」と世論は動いていた。
「裁判での頑ななまでに毅然とした態度、同じ発言の繰り返し」
「ハイドウィッカー逮捕によるウィッカプール及び周辺宇宙での治安悪化」
「何らかの圧力をかけられて撤回したと見られる……」
見識者はこう発言し、それは賛同を得、知識層に広まっていったが、困ったことに「クロネちゃん」の支持層は若者で、特に学生などは深く考えもせず事実をそのまま受け取った。
クロネのファンはクロネと同じ淫売だ。
そういう、空いた口の塞がらないようないじめを子供は当然のようにやる。
ロマに関する情報規制が緩くなった矢先の事件だったため、仮想次元では再び未成年者のロマに関するメディア規制が厳しくなった。
その反面、その生き方に感銘を受けたアウトサイダーの支持者が増え、過激擁護派などが発生し、クロネ本人の預かり知らぬところで火種が仮想次元に燃え盛った。
***
「起きろ、クソオヤジ!」
志摩当主カサヌイ・シマを蹴飛ばして起こすのが俺の日課になった。
そりゃ最初こそは星ひとつの当主様に遠慮があった。元志摩宙軍の総督で、ツクモシップ操舵の名手。そして志摩神言の名手でもあるっていう、そりゃ凄い人で、今もその腕は衰えてない。俺はもじもじして敬語だった。
が、カサヌイはとにかく飲ん兵衛でだらしくなくて、志摩王子に迷惑ばっか掛けている。仕事しない。
「親父どの、呑んで寝て騒いでるだけなんだから、クロの指導をしてくれ。クロ、こう見えても親父どのは指導にかけても一流だから安心してくれ。ただし、怠け癖だけはどうにもならねえ」
カサヌイの破茶滅茶ぶりはこれだけに留まらない。
志摩の当主であった妻(志摩姫)を亡くして悲しみに暮れた彼は子供二人(数百名いる王族のうち二名とも継承権五位以上)連れてキャラバンみたいに宇宙を旅して回った。志摩王子もナナセハナ姫も、10歳近くまで自分たちをロマだと思って育ったって。
帰ったら帰ったで10歳の息子にいきなり全権投げ、宙軍総督も継がせた。
志摩王子が当主じゃないのは、単に未成年だからだ。
そりゃ志摩王子がしっかりする訳だよな。
カサヌイは俺のことを快く受け入れてくれた。
「息子が一人増えたようなもんだ!」
そう言って快活に笑い、俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。
好人物であるのは間違いない。商才もあるし人脈も広いようだ。息子も家臣も「仕方ない…」と言いながら、なんだかんだ慕っている。
カサヌイがいなくて志摩王子だけだったら、志摩はもっと荒れていたのは間違いない。いざとなったら戦えるカサヌイがいるから、志摩は安定しているんだ。
だから俺も、カサヌイのことは好きだけども、ほんっとにしょうもない親父なんだ。
飲みすぎたと言って起きない。
ふらっと出掛けて帰ってこない。大体、芸者さんの膝枕でデレデレしてるのを花街の茶屋で発見する。
俺の訓練がなんにも進まない!
カサヌイがどうしても駄目な日は、志摩宙軍の訓練に入れて貰うことになった。
それも日によって違うので、
「カサヌイ様が行方不明なのでそちら行きます」
「何とか叩き起こしたので、今日は休みます」
連絡入れなきゃならない。
ひと月たつ頃には、遠慮なんか少しもなくなった。
「ううーん、もうちょっとぉ」
「うるさい、起きろ、修練が進まないとその分、蛍のところに帰るのが遅くなる!」
「んー、蛍ちゃん? 蛍ちゃぁーん」
「ぎゃっ! 離せ!!」
布団の中に引きずり込まれた。力じゃぜんぜん敵わない。丸太みたいな毛だらけの腕しやがって。志摩王子は母親似でよかったよ。
「くさい! おやじ臭い! 加齢臭!」
「蛍ちゃんちゅっちゅ」
「やめろ、俺は蛍じゃない。ていうかこんな臭いで蛍に近づくな!」
「ん、なんだ。クロじゃねえか。猫ちゅっちゅ」
「ぎゃあ!」
髭いてぇよ。俺、父親いなかったから慣れない。
まだ寝ぼけるカサヌイを洗浄ポッドまで連れてって、放り込む。当主をここまで杜撰に扱われても、家臣も官吏も気にしない。たぶん、志摩王子にはもっと杜撰に扱われてるんだろう。
一度なんか、
「クロネさんがいらして、私たちの仕事が楽になりましたわ。助かりますわ」
なんて女官さんの言葉が聞こえてきたくらいだ。
「仕事してねえんだから、指導くらいちゃんとしろよ」
「あーん? それが教えて貰う立場の言葉かあ?」
「志摩王子に頼まれたんだろ! 俺がここにいればいるほど、志摩王子の負担になってんだよ」
「でも教えるのはオ・レ・で・すぅー! ぺろぺろー。教えてくださいお父ちゃまって言ってみな?」
「………」
この、クソ親父……!
軍隊で訓練できるのは貴重な体験だと思う。でも、訓練なら咲也さんとこだって出来るんだ。
でも電脳ワーカーにはウィッカーがいない。外で教わるしかないのに。
言いたいことをぐっと堪え、上目に睨む。
「お…教えてください、お、おとうちゃま……」
「はぁーん? 声がちっこくて聞こえねえなあー」
この、クソオヤジがぁ!
『教えてください、お父ちゃま!!』
志摩中のスピーカー使って言ってやった。ウィッカプール以来、久々にやったが、これは想像以上にギィーンと響くな。星いっこぶん、ご家庭や商店にある機材から乗用車、モビルギアまで、全てのスピーカーが喚くんだから、まあそうだな。
赤ちゃんいるおうちとかに迷惑かけてしまった。病人だっていたかもしれない。反省。
「お、おめぇ……軽々しくそんな力使うんじゃねえよ。とんでもねえ奴だな」
くわんくわんする頭を抱えながら、カサヌイが柱に寄り掛かる。二日酔いに効いたんだろう。
「もしかして他の機器も―――ん? あれ? 蛍ちゃん!? どうしたの急にぃ…えっ」
なんか知らんが、カサヌイに蛍から通信入ったらしい。一瞬でれっとしたカサヌイが、真顔になった。
「自分もまだお父ちゃまなんて呼んで貰ったことないのにって叱られちった」
うちのモンペが何かごめん。蛍、データリンク中で志摩の様子もちょうど見てたんだろうな。
それにしてもお父ちゃまって呼ばれたいのか、蛍……俺、ちょっとずつ蛍のこと分かんなくなってきたよ。
「まあ話戻すけどよ。タイムラグなしで惑星ひとつの全機器を操作できるんか」
「いや、今んとこ試したのスピーカーだけ。ほかは怖くて、指導なしでやるの怖かった」
「正しい判断だ。むやみに使うな。洒落になんねえ事故が起きる」
ですよな。
「スピーカーも、最初は時間かかった。スピーカーを探して繋がる感覚を覚えたら、あとはどこでもすぐ出来るようになった。たぶん、他の機器も感知する感覚を覚えれば使える。ただ、同時に複数使えるかまでは分かんない。
やっぱり俺は少しおかしいのか?」
「異例と言っていい。効果範囲や対象の幅はウィッカーや扱う力によって違う。
ウィッカー能力ってのは、そもそも、仮想次元と密接に関わってる。呪いや神言、魔法みたいな能力は、仮想次元由来なんだ。これは人々の信仰が現実に干渉してる」
「そんなことありえんのか。ファンタジーじゃねえか」
「仮想次元デバイスは、現実空間にグラフィックや音なんかで干渉してるだろ?
全ての現象は粒子とポテンシャルエネルギーによって引き起こされるってことだ。仮想次元経由で粒子を操作してんだ。どの能力も同じ原理だ。
なんで、まずウィッカー能力の何たるかを理解するために、神言の基礎を体感しろ」
神言ってよく知らねえが、呪いとか、結界とか……そういうんだよな。ぴんとこない。
「呪いって、別星系まで届くんだよな? ハイドウィッカーも遠くの宇宙空間にある宇宙船の制御できるって」
「うーん。そこからかあ。
呪いもハイドウィッカーのハッキングも、原理は一緒。仮想次元辿って対象に干渉してんの。だから距離は関係ない……仮想次元の及ぶ場所ならな。
仮想次元てのは、昔テラで普及してたインターネットってのと違って、空間コンピューティングによって構築されてるから、誰が見てなくても存在してる」
「インターネット?」
「昔はなあ、コンピュータ同士を繋いでネットワークを構築してたんだ。データを置いたサーバーが死ぬと、もうそこに繋がんねえの」
不便じゃん。最悪人死に出ねえか? 損害も大きそうだし。
「けど、仮想次元も無限に広がってる訳じゃねえ。インフラの整った惑星、衛星、宇宙船、宇宙を監視するソノ・ブイに展開されてる。
いわば、昔はコンピュータ同士で繋がってたが、今は仮想次元同士で繋がってるって感じだな。宇宙は時空がひん曲がってタイムラインが滅茶苦茶だが、仮想次元内では一定だ。
で、呪いやハッキングは仮想次元を経由しながら対象に届く。
効果範囲は意識体のでかさ。
つまりお前は、はるか遠くの惑星の全機器を操作できるってわけだ。
ただし、ハイドウィッカーと違って威力そのものは低く、妨害は受けやすい。それでも範囲が広いからな、お前の力は凶悪兵器になりうる」
実感わかねえなあ。
ふーん、みたいな顔してる俺に、カサヌイが「あー」と頭を掻いた。
「んじゃ、志摩にいる人間の脳みそに入ったマイクロチップを感知して、繋がってみろ。間違っても絶対に、何も操作するなよ!」
言われなくてもそんな怖ぇことしねえよ。マイクロチップの操作は、第一級人権侵害。それこそ監獄惑星送りで囚人兵落ちだ。
感知する感覚は分かる。子供の頃から普通にやってた。ただ、目視できるもんしか感知できないと思いこんでたってか、それ以上を試そうとも思わなかっただけだ。
目を閉じて、まずはカサヌイと繋がる。城にいる人々。繋がるほどに、繋がる速度が加速してく。
「できた」
「はやっ…速いな! バケモンか!! 一分経ってねえぞ」
「あとはもう何時でも繋がると思う。動いてる人間と繋がるって変な感じ」
「よし、切断しろ。そして、他人のマイクロチップには二度と接続するな。
いま、接続してる間に、少しでも操作を行ったら、志摩の人々がどうなったと思う。史上最悪のテロ行為だ。自分がそれだけ危ないってことを、まず自覚しろ」
はい。
なんだかしょんぼりした。俺って危ない存在なんだ。
俯いた俺の頭を、カサヌイが撫でる。
「包丁も毒も使い方次第。お前はその力で大勢の人間を救うことだって出来る。
ハイドウィッカーだってそうだ、あいつがもし善人で、人助けのために力を使ってたら、どれだけの人間の命が救われたと思う? 宇宙中から賞賛を受けられるだけの器を持ってた。それなのに、あいつは悪いこと、自分の欲望の為にしか力を使わなかった。
俺はお前たちが羨ましい、どうしようもなくて何万人も助けられなかった大災害だって経験してる。悔しくて、気が狂いそうだったよ。
お前は蛍に救われたんだろう。蛍に救われたように、誰かを助けられる奴になれ。
そして出来ればいつか、お前がロマの王になれ」
「ろまのおう?」
「さて、呪譜の準備すっか。タカラとナナセがちっこい頃にやってた子供用トレーニングプログラムだ。こいつで一ヶ月は遊べ」
ロマの王ってなんだ。
仮想次元で検索してみたけど、出てきたのはテラ時代の、ジプシーの起源になった民族の王の情報とかだった。
ロマはそれぞれ独立して競争関係にある。元締めがいるって話も聞いたことねえな。そもそも星系ごとにいるし、星に戸籍がないだけで各星系には属してる訳だし……
呪譜は、データサーフィンするのと似た感覚だった。別に特殊技能とかじゃなく、一般人もしてること。ただ、ここまであちこち経由して遠くまで接続するってのは、普通しないだろう。
目的があってニュースやショップを覗くんだからな。
中には「旅人」と呼ばれる、サーフィン自体を趣味にしてる奴もいるが、本人が気付いてないだけでハッキングの基礎をやってたんだなあ。
ただ、のんびりサーフィンする旅人と違い、経由する仮想空間を選んで、最短距離で対象までスピーディに辿り着かなきゃいけない。
これは機器感知よりずっと大変だった。戦闘訓練よりよっぽど疲れる。
疲れて休憩。仮想書籍読む。
ロマ若、鷹蛍に傾倒していた俺ですが、蛍と離れてから蛍恋しさに蛍黒に再度手を出しました。あんな噂が立ったのに、好意的に受け取ってくれる人も多かったみたいで……それが嬉しかった。
つか、俺が治安のために意地張ったの、思ったよりバレバレだったみたいで驚いた。俺を淫売呼ばわりする奴のほうが馬鹿扱いされてる。みんなホームズみたいだな。
それでも誹謗中傷は多いけど。
蛍黒は、好みとか解釈違いとか色々あると教わって、吟味してみると、好みの作家さんが見つかった。
特に蛍がカッコよくて、俺が乙女顔すぎない絵柄なのがいい。
蛍とは仮想次元で会ってる。今はアバターが発達してるから、触れ合う感覚で味わえるよ。遠隔セックスだって出来る。
でも、やっぱ全然違うんだよ。細かい表情の動き、俺に触れる蛍の指、蛍の感触も。だから遠隔セックスはしてない。蛍の存在が濁るような気がして。
もっぱらアナニーしてますね……あのイボ団子バイブで! 好きじゃないけど、あれが一番気持ちいから背に腹は変えられない。
ベッドの上で横に丸く寝て、腿の間から手を伸ばし、イボバイブ弄るのが好き。
「ん、ん……」
ぎゅっと眉を寄せてイボ団子が最奥をにゅぐにゅぐ掻き乱すのに感じ入る。
正直、バイブだとそこまでよくないが、蛍と繋がってる感覚を思い出すと、そこそこ燃える。
「あ、蛍…きもちい、もっと、そこ……」
返事はない、というか通信してないけど。アナニー中に蛍の声聞いたら、絶対会いたくなる。
「ふっ…! う、ぅ…あ、ひ…っ、クる…っあ、ん」
ぬるい絶頂に震える。でも、自己処理ならこれで十分。とっても草食生活。
それから暫く、基礎練と、戦闘訓練の日々が続いた。
とある日。
『クロート、まずい! やばいことになった』
社長から突然の通信。
「なんだ、船が危ないのか?」
『ちがう、お前だ、蛍もだが。お前の部屋どこだ』
「使用人さん用の建物の一室借りてる……」
『お前の部屋、盗撮されてる。それと、お前が置いてったデータプールの蛍とのにゃんにゃんが仮想次元に出回ってる』
にゃんにゃんって言い方……
いや、それどころじゃない。何? なんだって?
「会社に置いたデータプールは会社が保護してくれるって」
『そう。だから俺の失態。俺を訴えたら問答無用で勝てるくらい、俺の失態。でもそれどこじゃないだろ』
ほんとにそれどこじゃない。
調べたら、すぐ出てきた。猫耳つけて裸でじゃれあってるムービー、あちこちに拡散されてる。
それに、裸猫耳でぺたん座りして睨んでる例のフォトも……ってこれ、
「蛍が撮ったフォトも流出してる。これは俺のデータプールのやつじゃない」
『はあー!?』
鷹鶴社長、発狂。
自分が管理してる会社から、よりによって蛍のデータ流出。わあ、鷹鶴社長、この先キノコれるのかな?
「蛍は?」
『あいつ、巡業中。連絡ないのが逆に怖い。あー、あーっ!!』
リアルで悶絶してんだろうな……奇声が続く。
俺の部屋の盗撮ムービーは、アナニー。がっちり、局部映ってる。横寝して腿で挟むようにした手を伸ばし、イボ団子バイブ弄って「ほたる、ほたるぅ」って呻いてんの。やや下からのアングルで、尻がメイン。
『いま、全業務停止して削除中。警察にも届け出した』
「誰ならこんな事できるんですか。盗撮はとにかく、データプールは仮想次元に接続してないし、犯人は社員だろ」
『それが一番の大問題……』
クロネちゃんブームは最初に比べて下火になったけど、俺は志摩で月一でライブをやってる。
志摩に着いたとき、恐縮する俺に顎クイした志摩王子が、
「なに、お前が月に一度、志摩でライブやってくれりゃあ帳消しだ」
と言ったので、鷹鶴社長が「うちの子なんで! 興行費はうちが出すんで!」って叫んでた。じゃないと興行売上が志摩に全額入っちゃうから。
多少なりとも、俺目当てで志摩に来る観光客が増えたらしい。客層が前とちょっと違う。一般的に「変わり者」とされるパンクな人たちが多かった。
盗撮の件については、速やかに志摩駐屯の皇軍警察が処理してくれた。これは、俺をハイドウィッカーから守るという建前で、ヤマト王位奪取に動いてる志摩王子を守るためにシヴァロマ皇子が配置した。
「クロ、お前、なんか冷静だが、無事か」
普通にしてたら志摩王子に心配された。
「ん……なんか実感ない。あんまエゴサとかニュースとか見ないようにしてるし」
「カウセリングを受けたほうがいいんじゃないか?」
そうなのか? わからん。なんにも分からん。
「蛍は心当たりないの」
連絡入れてみたけど、こっちも意外に冷静で、
「ないなあ。かわいいクロネの艷姿を拡散するとは、太い輩がいたものである」
モンペがモンペしてないところが、逆に怖かった。俺の自意識過剰でなければ、たぶん水面下でえらいことになってる。犯人、強く生きろ。
なんとなく目星ついてたし。
たぶん皆からも疑われてたろう。
ホクロのおっさん、サイザキだった。カメラは金で雇った奴に業者として潜り込ませて、仕掛けたって。そいつも共犯で逮捕。
失態犯して工場惑星いきどころか、ムショ送りになるとは……
でも、ホクロのおっさん、俺にいっぺん言い寄ってきただけで、そのあとは接触もなかったのに、こんなことをしでかすとは。
もやもやしてサイザキについて調べたら、サイザキが匿名で出入りしてたトークルームでの会話を、誰かが暴いて明るみに出してた。
「売女が社内で大きな顔をして鬱陶しい(たぶん蛍のこと」
「狙ってた子を売女に取られた(俺?」
「入ってきた若造が割のいい仕事を減らす(たぶんショッピングモールの件」
俺の他にも地下アイドルの濡れ場盗撮、ムービー拡散を繰り返してたらしく、余罪が次々に出てきた。
おっさん、博士号とってるだけあって、ハイレベルな技術持ってた。電脳ワーカー社の誰よりも。警察出し抜くくらい。でも、小狡く稼ぐために、会社の仕事では手ぇ抜いてたんだ。あるいは自分の趣味の盗撮を隠すために。
そういう濡れ場盗撮ムービーが趣味とか、アイドル叩きが趣味の奴にとってサイザキはヒーローだったらしく、サイザキは賞賛の文書やボイスを収集してたって……すげえな、オイ。
このあたりになって、ハイドウィッカーから連絡きた。
「勇気あんな、サイザキってやつ」
お前には言われたくねえだろうよ。
「あのおっさんは、蛍のこと何も知らんから」
「蛍のやつ、オメーのイキ顔フォトばっか記録してるから、気にいってたんだろうな。それ不特定多数にばら撒かれて、怒り心頭なんじゃねえか。
拡散されたムービーやフォト、個人記録媒体に至るまで消去してやろうか」
「できんのか。すげーな」
「讃えろ。そして蛍にとりなしてくれ!」
なるほど。少しでも株を上げたかったのな。
「そんなことより」
「割と冷静な、お前」
「だって、今までさんざん卑猥なコラージュ出回ってた。今更だ」
「あー、そういう見方もあんのか……」
「今、能力の基礎練してる。遠くまで一瞬でサーフィンすんの。コツある?」
「感覚で辿ってねえか? 各種機関と惑星とソノブイの位置調べてからマイクロチップに最短距離測らせろ。そのーがラク」
おん。狡いことにかけては流石だな。
「ただ、ソノブイは増えたり減ったり移動したりする。衛星もずっとある訳じゃねえかんな。宇宙船なんか絶えず移動してっし、下手するとホーク・ホールに入って過去移動する」
「うー……難しい」
「必ずしも最短である必要はねーんだよ。目的地の近くを算出して、そっから感覚で辿りゃいい。そのために各星系にアンカーポイントを確保しろ。
こうやって親切に教えてやったことも蛍に言っておけよ!」
「はいはい」
通信切ってから、ばか正直に報告したら、
「お前は、どうして、そうやって、すぐに油断する?」
抑揚のない棒読み声で一節一節区切って叱られた。
「なぜ、自分に無体をした相手と、連絡をかわし、普通に会話して、借りを作り……」
「ハイドウィッカーとは合意って決着ついたじゃん」
「それは建前で、誘拐されて乱暴されたことは事実であろうが!」
きぃーん、と耳鳴りするほどの大音量。うー。耳痛い。
「何より、怖くないのか」
「怖くはない。あれは喧嘩で負けただけだ」
マウント取られてぶん殴られて喧嘩に負けた。イかされたのが蛍じゃなかったことに混乱もしたが、犯されたのはそんな認識だ。
蛍は通信ごしに深々溜め息ついた。
「データ抹消の件であの馬鹿者に借りが出来てしまった。まあ、俺の手にも余る件で諦めかけていたゆえ、これについては良しとしよう。
だが、今後一切の交流を禁ずる」
「なんで」
「俺に所有されていたいのだろう、クロネ?」
「う……」
低く甘い声で囁かれてぞくっときた。捨てられたくないし、大人しく言うこと聞いておくか。
「あのさ、蛍……サイザキのおっさん、お仕置きするなとは言わないけど、あんまり酷いのは」
「ん? あれはもう解体してしまったが」
遅かった! やっぱモンペしてた……てか解体って何? 何をしたんだよ。
「ハイドウィッカーと違い、生かしておく価値もないため、簡単に処理できたぞ。公表されないのは、刑務所内での変死だからな。警察も隠蔽したいのだ」
「ほ…蛍」
「はは、こんなのは悪いことの内にも入らん」
「蛍にとっての悪いことって、なに」
「……お前にしている事かな」
若いのを手篭めにして開発調教したこと、蛍ん中ではそんなに悪いことなんか。
「な、蛍。ロマの王って知ってる? カサヌイのおっさんが言ってた」
「そのようなものは、いないよ。統率者がいればいい、という意味で言ったのではないか」
「ふうん……」
「それより、おねむの声である。遠隔セックスは好まないようだが、添い寝はよかろ? 目を閉じて、仮想次元に身を委ねろ」
指示通りもそもそ布団に入り、横になって目を閉じる。
蛍とのプライベートルームにアバターで降り立った。蛍のアバターがベッドに腰掛けて微笑んでいる。
本人を写し取って作られるアバターなのに、やっぱり違和感がある。蛍のあの、匂い出るような雰囲気、輝きがない。
でも「おいで」と手を差し伸べる、その声は蛍自身のものだし、安心感はある。
「ねこ、ねこ、かわいいねこ。俺の、かわいいクロネ」
蛍のアバターに包まれる感覚に微睡みながら、俺は眠りについた。
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