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黒音がロマの記念祝いに精巧なセクサロイドを作って貰い、菊蛍の部屋に設置してもらったらしい。
これで、黒音は好きな時に菊蛍に会いに行けるようになった。いつも仏頂面でローテンションの黒音が無邪気な顔をしてあまりに喜ぶので、志摩王子も羨ましくなったほどだ。
意識体を遠くへ飛ばす際、肉体は全く無防備になる。
性質上、遠隔操作の多い志摩ウィッカーのために、肉体を保護する装置がある。これを一つ貸し出すのは特例中の特例であるが、志摩王子は何も言わずに「自由に使っていい」と許可を出した。
この肉体保存装置は、ヤマト王位継承権上位であり、ヤマト文化財である志摩一家を保護するためにある。当然、そのセキュリティと警備は厳重。
更に現在は皇軍警察による監視の目がある。
そして、ウィッカー能力の一切は通用しない。志摩の守護神、結界の名手ナナセハナ姫が常に城を保護しているからだ。
志摩は黒音にとって宇宙で最も安全な場所だった。だからこそモンペが安心して志摩に可愛い猫を預けた。
黒音も遠慮してか、それとも菊蛍側の都合か、利用回数は週に一度、不定期だった。その間は志摩側も警備も増やした。モンペが怖いので。怖すぎるので。
その厳戒態勢の最中、黒音の肉体が消えた。
『ロマ王の宝、貰い受けます』
時代錯誤どころか、創作の中にしかない筈の犯行声明だけを残して。
***
セクサロイド完成したってさ。
「人種、年齢、個人の肌質を考慮した完成度の高い人工皮膚。より生物らしい肉感的な肢体。人間工学に基づいた骨格。心を訴える瞳。柔らかく波打つ胸……」
とか色々あるけど、でもそんなの関係ねえ!
さっそく身体のほうはポイして意識体を認証登録したセクサドイドに移す。
おお……身体が二つあるような、変な感覚。寝ている俺の背中の接面の感覚と、人形が触れる外気の感覚が同時にある。
瞼をぱちっと開ける。優しい目をした蛍が覗き込んでいた。いきなりだと心臓に悪いな、あんたの顔。
「おはよう。気分はどうか」
『変なかんじ……』
声は合成音。そりゃあそうだけど。
蛍は人形を抱き上げ、膝の間に座らせた。ああ、ちゃんと変わらない感触、感覚だ。匂いがしないのは残念。
「やはり意識が入ると、違うな。完成品を届けられた時は、よく出来ているとは思ったがお前のように思えなかった。しかし、微細な表情を再現する人工筋肉があるらしく、お前が入った途端、本物に見えるようになった」
蛍が髪を撫でながら頬ずりして、キスをしてくれる。熱もちゃんと感じる! 蛍だ……! 嬉しくなって縋り付いた。
「カメラアイだから、もっと違う風に見えると思ってた」
「むしろ人の目より高性能である。細部まで見えるのでは?」
「うん。毛穴まで見える。蛍って毛穴まで綺麗だな?」
逆に驚いた。毛穴まで見えて綺麗って……どういうこと。
しかし見えすぎるのは脳にクるんで、ちょっと絞った。
離れていた間は仮想次元で沢山喋ったから、話すことはない。俺に足りなかったのはふれあいだけ。だからただ、蛍に触れて、蛍を確かめた。うんうん、着物の上からだと細く見えるのにがっちりした身体。好きだ。
「そういえば、俺も訓練始めたらもっと筋肉つくかと思ったのに、そうでもない。ぺらぺらって程じゃないけど」
「筋量というのは、遺伝的に、生まれた時から決まっている。一度、医療機関で調べて貰うとよい」
「そうか。蛍を姫抱っこ出来るくらいムキムキになってやりたかった」
「俺は、今のままのクロネがよい。抱き心地がよく、しなやかで」
蛍がいいならいいや。別にマッチョコンプレックスはねえし。
「ちょっと疑問なんだけどさ。あんたの愛人、細身の男が好みって人はいないの」
「……せっかくの逢瀬で他の男の話を」
「どうせ女も男もいるんだろ」
「そういう問題ではない。だが、まあ……好みに関わらず、俺のようなのもいいと思わせることは出来る。お前とてそうだろう、クロネ。同性趣味はなかったろう?」
ん。考えたこともありませんでしたね。でも今はズブズブだ。
デコをちゅ、ちゅとしながら蛍の手が尻を揉む。割れ目が引っ張られてアナルのセンサーが作動してる。
「あっ」
「会えばもっとがっついてくると思ったが、そうでもないな?」
割と頻繁にアナニーしてましたんで……すっかり草食が板についてしまった。手軽に処理できるって点では、自慰も悪くはない。
「うぅ…ん」
着物の合わせをはだけられ、乳首をぺろっとされてから前歯できゅっと噛まれた。
「はんっ……! な、なんかセンサー変だな」
「不具合が?」
「柔らかく触れられた時は俺の身体より鈍くて、きつめに触れられた時はセンサーが俺の身体より強く反応する」
「そのズレばかりは仕方ない。慣れろ」
だよなあ。個人の感覚なんて再現しようもないよな。
「ああ、しかし、中身が入るとこれほど変わる……はあ、可愛い。俺はな、クロネ。この人形が届いたら、色んな服を着せて可愛がろうと思ったのだ。だが、どんなに外見を似せても、抜け殻の人形は人形でしかなかった」
俺も、蛍人形、ちょっと欲しいよ。でも、同じようにきっと「やっぱり蛍じゃない」ってショック受けると思う。アバターに会った時に感じた。アバターは特に、細かい表情の動きを再現しないしな。
「―――クロネよ。もうよいか? お前を抱きたい。少し離れていた間に、ずいぶんと欲がなくなったな? 以前はいつも物欲しげであった」
押し倒されて、拗ねたような顔の蛍がのしかかってくる。だから俺は少し笑った。
「最初は、蛍の与えてくれる気持ちよさがほしかった。でも、今はただ、あんたの存在が欲しいだけ」
葛王子の気持ちが分かるなんて言ったけど、デオルカン皇子、本当に葛王子のことを愛してたらしい。きっと殿下にとって葛王子の顔も身体も性的には好みじゃない。でも皇子は葛王子を愛した。
葛王子と俺は違う。
快楽は自分でだって得られる。そんなお手軽なものより、望んで絶対に得られないもの。
蛍は決して俺のものにはならない。蛍自身が望んでも、なれないんだ。わかってる、そのくらい……
だから蛍とのセックスは、飢餓状態を誤魔化して延命するための措置なんだ。
「何か余計なことを考えている顔である」
気がついたら裸にむかれてたくらいだからな。確かに余計なこと考えすぎた。
「この人形のセンサーは、感触や快感はあるが痛みはないらしい。SMを考慮した場合はオプションで機能をつけるくらいでな」
「へえ……」
痛いの嫌いだし、俺にとっては都合がいい。
そう思ったけど蛍が満面の笑顔なもんだから、不安を覚える。何か企んでるときの顔だよ。
「痛みがない、ということは……」
「うわ」
俺の身体だったら絶対無理なほど足を広げて、膝を胸元まで押し上げられた。
露わになったアナルにいきなり先端を押し当て、一気に奥まで貫かれた。
「――――ッ!?」
衝撃。突き抜ける強い快感。
生身でこんなことされたら酷いことになるが、確かに痛みはなかった。けど、別の意味できつい!
「イったか?」
「ひぅ……ひぅ」
セクサロイドを使ったら生身のほうの下がえらいことになるんで、船外活動用のおむつ履いてきた。仮想次元で調べた時、そうしたほうがいいって情報があったんで。
「痛みがないので、普段はお前の身体に負荷や傷がつかんように動くが……」
「あっ!?」
ずる、と大きく引き抜かれて、ぞくぞくしたものが背筋に走る。人形のセンサーなんだか、生身の感覚なんだか、もうわからない。
引いたところから再びズンと突き上げ、激しいピストン。
ああ、うそだろ、ナカがもう全体気持ちいい。生身だったらやっぱ痛苦しさはあるんだよ。負担はある。でも、そういうのがない。負荷がソフトで快楽だけが与えられる。肉棒が通ったところをセンサーが快感を拾い上げてフィードバックしてくる。
なにこれ新感覚すぎるだろ……
「ひィあっあぎっ…ああ、あっんひぇあ」
普段の蛍なら絶対しないほど激しく腰を使ってズッコンバッコン。足を高く掲げられた無茶な姿勢のまま髪を振り乱して大騒ぎ。
ほんっと蛍って、痛みさえなければ無茶するよな! そういうとこだぞあんた!
「ふぅっ……逆に面白い機能もあってな。焦らしモードといって」
「ん、ん?」
激しい快感の大波が、鈍くなる。
鈍いっていうか、なんだ。敏感な性感帯を指先でつーっと触れられるような、もどかしい、痛いほど切ない感じ。
「あうぅ」
煽られて快感がほしくて、一生懸命腰を動かすけども、その痛切ない焦れったさが増すばかり。
「この状態から、センサーを通常に戻す」
「んんあッ!!?!?」
ズコ、と奥の一番大きくて強いセンサーを穿たれた。ガックンガクンしながらイッたけど、潮、出てる感触、する。当然、生身のほうだろう。
「ひ? ひぅ…? ??」
俺、潮噴くのあんま好きじゃない。一瞬何が起こったかわかんないくらいチカチカして、頭がまっ白くなる。パニックで疑問符いっぱい。はくはくアホみたいに口を動かすことしかできない。
けど、俺のイキ顔が好みらしい蛍は、よく俺を潮噴くまで追い詰める。混乱してヒクつく姿を眺めて悦に入るんだ。
「はあ、これもかわゆいが、本物はもっと可愛かろうな。そのうち、生身を隣に寝かせて、人形としよう。どちらの反応も見たい」
あんたは、快感を得るためにヤるんじゃないもんな。俺の反応見たくてヤるんだもんな。根気強くて執拗な性感帯開発にしてもそう。やっぱ立派な変態だと思うよ。
今まで蛍の年齢を明言してこなかったけど、85だって。俺、今19。法律的に何の問題もないけど、どうしたって犯罪の香りしかしねーよ。
「どうする、もうすこしするか?」
「いや……意識体飛ばしてセックスするって、思ったより気力もってかれる。それよりこのまま、寝よう。そしたら朝まで一緒にいられる」
俺の言葉に、蛍は一瞬、驚いた顔をした。変なことを言ったか? わがままだったか? 不安になったけど、蛍は受け入れてくれた。
俺を腕に抱き、髪を撫でながら「ねこ、ねこ」といつもの呪文を唱える。
起きてから気付いたんだけどさ。
当たり前だけど志摩にいる俺と、宇宙にいる蛍はタイムラインが違うんだ。俺は寝る前だったけど、蛍のほうはむしろ朝だったわけだ。
「本日は休養日だったゆえ、かまわんよ。疲れも溜まっていたしな」
ちゅ、ちゅ、と顔にキスをしながら、なだめるように言ってくれる。蛍、ずっと寝てる俺に寄り添ってくれてたみたいだ。少しは寝たけど、昼寝程度。俺はしっかり夜寝。
俺は起きたら修練があるんで、蛍とキスをして別れた。
遠隔操作ダイブ用ポッドで目を覚まして、暗い天井を見上げて溜め息つく。おむつの中……きもちわるい。長時間の船外活動や戦闘のための製品で、薄くて驚きの吸収率、不快感カットを謳ってるけど、どう足掻いても湿気るんだよ。
でも、蛍に久々に触れられた。幸せだ。今日から頑張れる。
修練のほうは、順調かは知らないが、着々と出来ることも知識も増えてる。もう志摩に来て半年以上経つんだな。
志摩の人たちは快活だ。俺についた悪い噂を気にしない。目抜き通りを歩くと、店の人たちから「クロネちゃん」と挨拶される。志摩宙軍の人たちも、城の人たちも、みんな親切だ。
きっとカサヌイのいい加減な豪快さや、志摩王子の懐の深さが育んだものなんだろう。志摩王子の死んだお母さん、志摩姫も明るくてナナセハナ姫そっくりのほんわか姫様だったって話。
そういえば志摩王子の妹君、ナナセハナ姫についてあんまり話さなかったが。
ナナセハナ姫は、あるとき俺を自室に引っ張り込んだ。廊下歩いてて、姫様の部屋の前を通ったら、突然扉が開いて拉致された。驚いたなんてもんじゃない。
「え? 姫……なんですか。年頃の姫様が男引っ張り込んじゃ駄目なんじゃ」
常識的に駄目だろう。志摩王子が同性政略結婚した以上、ナナセ姫は婿とって志摩の血を残さなきゃなんない。まあ、それが駄目でも分家から養子とるなり、いくらでも手段はあるだろうけど、それにしたってさ。
いつもふわふわ綿あめな姫様、思いつめた表情で俺の腕にしがみついてる。俺を部屋の中央まで連れてって、椅子に押し込めるように座らせ、俺の足元で正座した。
「男の人を魅了するにはどうしたらいいか、教えてくださいまし」
なんで? なんで俺に聞く?
というか、ヤマトで一番必要のない女の子だよね、ナナセ姫。誰に聞いたって可愛い姫様ナンバーワンだよ。全星系で上位ランクインするよ。
「有象無象のことはよろしいんですの!」
有象無象言っちゃったよ。さすが志摩族。ただフワフワしてるだけじゃないんだな……
俺より、蛍に聞けばいいと思うな……いや、なんか不道徳だな。85の世にも美しい男がローティーンの姫様に男誑かす技術教授する図。それ以上いけない。
「あにさまも、オトちゃんも、クロネさまも、わたくしの周りの方は素敵な殿方を射止めた方ばかり。わたくし、立つ瀬がありませんわ」
ぷんって頬を膨らませる顔、可愛すぎる。
「姫は大事にされて、お城からめったに出られないですしね」
「そうなんですの。出会いがありませんわ。あにさまもとうさまも、仮想次元にセーフティをつけますし」
こんな妹いたら、俺だって過保護になるよ。汚れてほしくないし、間違いがあってほしくもない。
ウィッカー能力は父親と兄を抜いて一番強いんだけどな。志摩の守護神の名は伊達じゃなく、まずどんな呪いやウィッカー攻撃があろうと遮断してしまう。
「いまはジェンダーフリーの時代でございましょ。わたくしだって軍に入って訓練を積んでも良いはずですわ」
「いや……いやあ………?」
「私、あにさまやとうさまのお人形ではありません」
そっかあ。いつもふわふわの姫も、こんな悩みを抱えてたのか。
でも相談する相手、間違ってると思う。俺くらいしかいなかったのか。みんな志摩王子の味方だもんな。
「そうわけですので、素敵な殿方を誘惑する魅力を身に着けたいんですの!」
ぷこぷこしながら主張するの、可愛すぎるな。なんだこの姫。思わず冷静になるほど可愛い。あざとくしてる訳じゃないみたいなんだが。
「言っておくけど、俺、蛍以外で碌な男寄ってきたことない。その蛍とも偶然出会って、偶然、蛍のツボに入っただけ。
志摩王子も、婚約は本当に偶然だったって言ってたな。他の兄弟がくだらない争奪戦するから、シヴァロマ殿下が保護の形で婚約申し出てくれた、お情けだったって」
「その偶然を! げっとする引きの良さが! 欲しいんですのっ」
「姫は恋をしたことないの」
「私の初恋はあにさまですわね……」
そんな気はしてたよ。
「逆に言えば、どんな人が好み?」
「クロネさまのような男性は好きです。あにさまに似てるので」
似てるか? いや、ヤマト男全員をグループ分けしたら大雑把には同じグループに入る系統ではあるか。
「義兄さま(シヴァロマ)のような方と仲良くできるかは、わかりません。菊蛍さまのような方に愛を囁かれましたら、すぐ日和ってしまいそうですけれど。あっ、他意はありません」
「いや、蛍に口説かれたらほぼ人類は悪い気しないと思う」
「クラライア皇女殿下のような御方は憧れですわ」
女もイケんのか。同性愛規制されてないと言っても、やっぱり異性がいいって人間のが多いから珍しい。特に女性は。
うーん。
姫様、ちょっと夢見すぎてるかもしれないなー。そりゃ、このくらいの年の女の子なら無理もない。
「えっと、蛍に欠点がないわけじゃないよ?」
「そうなんですの!」
「うん、いろいろ、あるよ。けっこうあるよ。まず第一にモンペじゃん」
「……ですわね」
「デオルカン殿下もそりゃあいい男だけど、葛王子は泣いて逃げてきたじゃないか」
「そうですわね……」
「シヴァロマ殿下なんて、潔癖症だから初夜に船外活動服着てきたらしいし」
「あー、ですわねー」
「つまり、そういう、突拍子のない欠点や付き合うデメリットトに驚かず、怯まず、めげない精神が必要なのかもしれない。
俺はいつも挫けそうになる」
「ええ。あんなにも愛されてますのに? あんなにまでも?」
「だって、そもそも俺、蛍の恋人じゃないし……」
「えっ、単純に告白されてないから気付いていないだけという、少女コミックにありがちな展開ではなく?」
「違う。蛍は意図的に言わない。蛍にはいっぱい愛人がいるから」
「んんまあー!」
不潔ですわ、と言わんばかりにほっぺをおさえる姫。かっわいいな。弾け出る可愛さ。
「デオルカン王子も、葛王子の身体が小さいからその、そういうことができなくて、どうでもいいから女の人抱いてたらしくて」
「ふけつですわ……」
「だからさあ、極端にいい男って、良さと同じくらい欠点があると思う。特にあの宇宙規模でハイレベルな男は」
だから、逆にそういう男に姫をやりたくないな、苦労させたり泣かせたりしたくないなって思う。俺でさえ思うんだから、志摩王子はもっと強く思うだろう。
「ほどほどって大事だと思う……たとえば、志摩王子の親友のクラミツ王子、顔は皇族クラスの超美形で、人柄がよくて、苦労性で、志摩宙軍のエースだし、いわゆるスーパーダーリンの素質あるんじゃないかな?」
「でもあにさまとクラミツさまを並べて選べと言われましたら、あにさまとりますわよ?」
わかる。けど女の子シビアだな! わかるけども! クラミツ王子ごめんなさい!
クラミツ王子は、さっき俺が言った通り超ハイスペックのスパダリなんだよ。ヤマト中の女の子の憧れだと思うよ。でも器のでかさはそりゃあの年でヤマト王狙う志摩王子だよな。
ていうか、ナナセ姫、危険だ。いけない。
ハイレベルな男見すぎて、目が肥えまくっちゃってる。これは姫のためにならんのでは。
そのことをげっそりしながら志摩王子に相談したところ、
「あーな」
苦い顔をした。
「妹を閉じ込めたことは、悪いと思ってる。でもな、外がどれだけナナセにとって危険か……意地悪で戦闘訓練を受けさせてない訳じゃないんだぞ。軽い護身術はやらせてるし。
単純に向いてないんだ。母親そっくりのドジ体質で、いろんな器官があまり強くない。虚弱ってほどじゃないが、無理をしないほうがいい体質だ。スポーツを軽くやるならいいが、戦闘訓練となると……」
「姫はやりたそうだったけど」
「なまじウィッカー能力が高いから、戦闘能力があるとなると戦闘があったら駆り出される。政略的にもナナセは戦えないって建前で志摩を守ってくれるほうがいいんだよ。可哀想だけどな」
そんな理由があるんじゃ、俺からはもう何も言えないな。
「それはとにかく、恋をしてみたいお年頃みたいだ」
「うう。それもなあ。ナナセには自由恋愛をさせてやりたい。俺だって政略だったけど、好きな人と結婚したんだ……
いっそクラミツあたりとくっついてくれればいいのにー」
クラミツ王子なら安心なのにな。当の本人ら、全くお互いに興味なさそうだけど。親友の妹って自分にとっても妹みたいにしか思えないの分かるし。
「蛍はどう思う?」
セクサドールに意識転移した日に、蛍に膝抱っこされながら聞いてみた。
「男を見る目があるのはよいことではないか? 母君もちゃんと良い男と結婚された」
「……いい男か? カサヌイ」
「今はああだが、俺たちの世代にとって志摩宙軍のカサヌイ総督は伝説の英雄である。俺たちのやっている移民船に拉致されたロマの若者の救出も、元はといえばカサヌイ殿が始めたこと」
そうなんだ。そういえば最近も、不法ウィッカー研究施設に監禁されてた子供たちをツクモシップで単身乗り込んで開放したんだっけな。その助けた二千人の身元不明の子供たち、全員志摩王子が面倒見たけど。里親探して、里親足りなかったぶんは志摩宙軍で引き取って。
「そんな時代から止まないのか、あの悪習。懲りないな、政府。捕まらないのか? ロマだから?」
「意思確認をとった、と偽装してしまえば警察は動けん。
あれはな、一隻ではないのだ。毎年、全星系の惑星から出る私生児であるから、かなりの数になる。全てを救出することは出来ない」
俺は本当に運がよかったと。
政治のこと、宇宙の事情、色々あるんもんだと、頭からぷすぷす煙出して考えてたら、蛍に押し倒された。
「志摩に行ってから社会勉強が増え、こうして会うと睦言よりも講義のほうが多くなったな。よい傾向である」
「なんか、ごめん」
「よい。お前の成長が、俺の何よりの楽しみだ」
「なんでそんなに、俺なんか……ん?」
蛍に触れられてるのとは別に、変な感覚がする。浮いてる、ような……なんだろう?
「誰かが俺の身体を動かしてる」
「志摩に何かあったか?」
この時点では、俺も、蛍も、志摩の人が何かあって俺を動かしたんだろう、くらいにしか思わなかった。それくらい志摩のリモートルームは厳重に守られてたんだ。志摩王子や姫だって使うところだからな。
『志摩王子、俺の身体が動いてるみたいだけど、確認できる?』
寝てたら迷惑だろうとメールを送った。んだけど、
『ない! お前の身体がない!!』
数分後に返事がきた。
「蛍、俺の身体ないって」
「なに?」
蛍も驚いた顔してた。あそこに侵入して人一人運び出すなんて、無理だ。説明すんのもややこしい何重ものセキュリティ、誰がいなくても細工をされないよう人的な監視もついて、複雑なシステムが構築されてる。酸素供給は装置で行い、窓もない。壁はハルコン合金製。
扉も、壁も、破壊された後がない。それなのに、俺の身体だけがきれいさっぱり消えちまったんだ。
ろまおーのたから、もらいうけます。
怪盗ものムービーの浪漫なメッセージカードを残して、手品のように俺の身体が消えた。
「蛍、ロマ王って誰」
電脳ワーカー社は慌てて志摩へ向かった。俺はセクサドールに入ったまま、蛍たちと一緒に志摩に来てる。
蛍はカードを見つめて無言だった。
「こんな怪盗さんがいるなんざ聞いたことないぜ?」
同行した鷹鶴社長がぼやく。
「皇軍警察はどうしてるんですかね、志摩王子」
「大混乱だ。どう洗っても痕跡が出ない。監視カメラには、特定の時刻に黒い人影が映っている。
おそらく、ブリンカーの特殊工作員だ。それも長距離移動できるほどの……ここまでくるとテレポーターだな」
ブリンカーって、時間の断裂に身体をねじ込んでこの世から姿を消すウィッカー。力の強弱で入ってられる時間が変わる。それにしたって普通はほんの一瞬。
一般的なブリンカーは爆発なんかをやり過ごすために能力を使用する。機械感応と違って、めったにいない。志摩宙軍に引き取られた少年兵の中には一人いたけど、とてもじゃないが大の男抱えて長距離移動出来るレベルじゃないらしい。
「クロートくん、自分の身体がどこにあるかわかるかい」
「今は、どこかに寝かされてる。ずっと移動してる感覚はあった。どこへかは、わからない。目を開けるなら意識体をあっちに戻さないと」
戻したら最後、意識もあっちに囚われる可能性もある。だからセクサドールに入ってるしかない。
「妙だ。全く理解できん」
志摩王子が額を押さえてる。
「あの部屋にはナナセの結界が厳重に張ってあった。更に、この城から連れ出せたとしても、出る時は宇宙船だろ。皇軍警察にも発着陸が分からんなんて、おそらく宇宙史上なかった事態だ。
そこまでの人物が存在したことも驚愕だが、そんな奴がクロを攫ってったのも……」
「おそらく俺の知人である」
それまで黙ってた蛍が鎮痛な面持ちで呟く。
「宇宙発のブリンカー能力者。いや、ブリンカーとは彼の呼び名であった。薩摩の能力開発施設にいた男で、薩摩の特殊部隊に人知れず属していた。あの男の仕業としか思えん」
「ウィッカー能力研究って志摩が一番なんだよな?」
「志摩は全ての研究結果を発表している。そうすることで人々の信仰、思い込みを仮想次元によって高めているのだ。
ウィッカーそのものの脳を弄って能力を強めようとする薩摩とは体系が違う」
うえっ。そういうことしてる星、ありそうだとは思ってたが、現ヤマト王がやってんのか。
「クロネの居場所は薩摩である。だが、その証拠は一切見つからんだろうな。明日にも薩摩より何らかの交渉が入るはずである」
蛍の予言どおり、翌日になって志摩に……というか志摩王子に通達があった。
「オトツバメ・クズの身柄を要求する」
要約するとこう。葛王子のほうが目当てだったのか。俺を人質に……
「いや、こりゃクロでもオトでも良いって意味だな。とりあえず引き伸ばす」
数日後にはホーク・ホールを利用して、葛王子とデオルカン皇子がやってきた。
「猫を取り返す為にオトツバメを差し出すなら、俺は薩摩につくと思え。シヴァロマと戦争できんなら、それはそれで面白そうだからな」
思考が流石のウォーモンガー。迎賓室のソファにふんぞりかえってヤマトコーヒー呑んでる。その隣に葛王子が、わけわかってなさそうにちょこんと座ってた。
「どうして俺が要求される? なんでクロネ、攫われた?」
「お前が半日で皇星のニブル宮ぶっ壊す化物だからだ。猫も変わったウィッカーらしいが」
「ヤマト王は、今までオトのこと無視してたのに?」
「皇軍警察の試験で能力が明らかになって、欲しくなったんだろうよ」
葛王子の頭をくしゃくしゃ撫でながら、デオルカン皇子が葛王子にもわかりやすく説明してる。
「ヤマト王嫌い。困ってる、たすけてって何度も言ったのに、オトを無視した。なのに、どうして今更? 志摩王子がヤマト王になるほうがいい」
「タカラ・シマがヤマト王になれば、好き勝手できなくなる奴が大勢いる。チンケな悪事しかせん、クズどもがな」
「そんなのオトがやっつける!」
「それはそれで面白ぇな。タカラ・シマ、薩摩潰すか?」
「あくまで薩摩上層部とそれに連なる一部が暴走しているだけです。薩摩だけを潰しても仕方がない。無関係な人間が死ぬだけだ」
万引きした玩具を取り上げられそうになった奴がゴネてる状態で戦争なんか起こすほど、ヤマト王って地位には価値がない。ただの外交官だしな。忙しいだけの貧乏くじとさえ言われてる。
でも、今行われてる悪行三昧を規制するなら、ヤマト王をとるしかない。志摩王子の目的はこれだ。言ってしまうと、彼や志摩の反映には全くメリットのない、むしろデメリットしかないことだった。
「あの…俺を捨て置けば、万事解決するのでは」
「お前のモンペがそれを許すとでも」
いや。だって、薩摩に葛王子渡すのはまずいだろ。デオルカン皇子込みで薩摩についちゃうんだぞ。
ちらと蛍を見上げる。蛍はずっと無言だ。何の表情もない。能面みたいって、こういう顔のことだろう。
俺に見られて蛍は弱々しく微笑んだ。
「俺が薩摩に行けば良いのだろう。それで解決する」
何でそうなる?
ぽかんとする俺をよそに、志摩王子は「もー!」とソファに突っ伏してクッションを叩き出した。
「クロネを捨てればロマが薩摩に、オトを差し出せばデオルカン殿下が薩摩に。俺にどうしろっちゅうんだ!!」
「ヤマト王、諦めればいーんじゃねえか?」
カサヌイのおっさんがお軽く言う。
「俺からすっと、なんでおめーがそこまでヤマト王に拘るのか分かんねえ。ヤマト政府とか面倒くさくね?」
「上の世代の尻拭いをいつまで下の世代にやらせる気だ? 俺は、俺の世代のケツは自分で拭く!!
ロマの不当な扱い、行方不明のウィッカーの子供たち。海賊にヤマトマフィア。官僚の横領と悪行三昧。全部とは言わんが、宇宙を掃除する。
俺がやらなかったら、誰がやってくれるんだ? 誰もやらないんだろう。今まで誰もしなかったんだからな!!」
そうだよな。
こんな人、きっとこれからもヤマト王位に近い立場で産まれることはない。
バースコントロール上、私生児が邪魔だってのは分かるよ。でも、なんで勝手にこの世に誕生させられた俺たちが割食ってんだ。物のように扱われるんだ。産んだやつ、種つけた奴はお咎めなしで。
俺はどうなったっていい。
志摩王子はヤマト王になるべきだ。
「ヤマト王って誰がどういうふうに決めんの」
「ほぼ多数決。各惑星の当主が票入れて、四大王家が認めれば即位する。伊勢は志摩と手を組んでて、出雲が日和ってるとこ。論調査では圧倒的にうちに傾いてる。だから薩摩は焦ってんだ」
「じゃあ、薩摩がこんなことしても、伊勢と出雲が認めなければ……」
「俺が辞退すれば意味がない。
薩摩には薩摩出身の皇妃がいて、それがアジャラ皇子の母君。だから薩摩には問答無用でアジャラ皇子がつく」
アジャラ皇子って、昔は志摩王子のこと猫かわいがりしてて、仲の良さで有名だった。結婚もアジャラ皇子とするんだろうって言われてたのに、志摩王子はシヴァロマ皇子と結婚して、アジャラ皇子は独身表明。その後、あんなに仲睦まじかった志摩皇子とアジャラ皇子は一切絡まなくなった。
何があったんだろうな。
「で、クロネが薩摩に握られてると、ロマが薩摩につく」
「なんで?」
「お前のモンペに聞けよ。蛍菊が薩摩につくと厄介だ、各要人が利害のために志摩と敵対する。こうなる予感はしてたけどな……」
「蛍」
俺は沈黙したままの蛍に縋り付いた。
「俺のことは、いいよ。志摩王子に味方してあげてくれ。それで丸く収まるだろ」
「……クロート。君が囚えられたまま菊蛍が志摩について、志摩王子がヤマト王になったらどうなると思う」
「どうって」
黙る蛍のかわりに鷹鶴社長に聞かれて、首を傾げる。開放してくれる……とは思わないけど。
「殺されるのか?」
「殺されるだろうね。それも見せしめに惨たらしく拷問してからな」
「………」
それでいい、と言い切る度胸はなかった。怯んだ。自分の身体が何処ともしれない場所にあって、誰に何をされるか分からない状況で、何をされて殺されても平気なんて、強がれない……情けない。
「オトがクロネと交換になったらどうなる?」
「アジャラ皇子・デオルカン皇子・オトの三大将軍が揃った薩摩とクソゲー戦争。こっちが動かせるのは志摩宙軍と婿殿の私軍のみ。勝てる訳ないし、どこの勢力も志摩についちゃくれない」
……やっぱり俺を諦めるのが一番いいんじゃないか。
誰もそう言わないけど、だってそうだろ。戦争になったらもっと人が死ぬ。俺一人で済むならそうすべきだろ。
「クロネ」
思いつめる俺を、蛍の袖が包み込んだ。
「どう議論しても結果は変わらん。あの厳重な警備の最中クロネを奪われたのだから、皇軍警察の手にも負えまい。
俺が行くしかないのだ。鷹鶴、お前はせめて志摩王子についてやれ」
「でも、蛍!」
「心配するな」
淡く微笑み、髪を撫でる蛍。なんでそんな、覚悟を決めたような顔をするんだよ。
「里帰りするだけだ。大したことはない」
それって……
絶句してる間に、志摩王子が「あうあー」と奇声を上げる。
「最終的にそうなるにしても、時間は稼ぐ。クロが誘拐されたことも、意識が人形に入ってることも公表する。メディアにばんばん出まくる! そうしたら悪者は奴らだ」
「え、俺、メディア……」
「うるさい! 俺も一緒に出てやる。場合によっては菊蛍と出てもいい。
とりあえず、コミックフェスティバル出るぞ!!」
なんだってそんなことに……?
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