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「なんじゃ、そりゃ」
クレオディスを散々な目に遭わせてくれた天晴な小僧を見舞いに来たところ、菊蛍に抱かれて指をしゃぶっていた。妙に無垢な目をしているのが気にかかる。
「仕置きをすると、よくこうなる」
「幼児退行してんのかい? どんだけきついお仕置きしたのよ。曲がりなりにもあんたの為に頑張ったんじゃねえの、そいつ」
「頑張ってくれたのは良いが、最後の自爆は宜しくない。あれを肯定する気はないぞ」
ウィッカプールを中心として、黒音とクレオディスの決闘は大きく宇宙を賑わせた。葛王子と共に観戦していたデオルカン皇子などは大きく喜び、多額の見舞金を黒音に振り込む始末。
そのロックにも程がある捨て身の戦いぶりは、ウィッカプールの荒くれ者からの称賛を欲しいままにしたが、助長する気はない。
「なぜこの子を煽った? 先に仕掛けたのはクロネだが、お前が嘘をつかなければよかっただけの話。将たる者のやることか。というより大人げない」
「だぁって面白くねえからよ。あんただって、後から出てきた奴にそのチビ猫とられたら、悪戯じゃ済まねえだろ」
「チッ」
これだから嫌だった。鷹鶴が強引にこの男を連れてきたのだ。
「言い訳させて貰うと、ちょっと胸貸してやるだけのつもりだった。じゃなかったらそんなシロウト秒殺しとる。それが思いがけず健闘しやがるから、こっちのメンツもあるし、腕一本で許してやろーと思ったらアレだ。ガキの一途さを舐めすぎた」
「クロネだからな」
「別にそいつに限ったことじゃねえさ、怖いもんなしガキなんざ。そのガキを特別視するのはやめろ。そいつの為にもならねえ」
「ほたぅ。ねむ」
舌足らずに菊蛍を呼んで服の皺を握る黒音に微笑み、とんとんと背を叩く。
クレオディスが絞るように溜め息ついて頭を掻いた。
「見たくなかったなあ、あんたのそんな姿」
***
蛍の手酷いお仕置きに、また幼児退行してたらしい。
新組織成立直後にクレオディスとやらかしたもんで、クルーに避けられるようになった。まあ、いつものことか。構わず接してくれるのはクヴァドだけ。その彼も忙しい。
「クロートくーん、流石に今回は俺もちょっとプンプンだなー? ただの喧嘩ならとにかく、船全体を巻き込んでくれたからねー?」
鷹鶴社長にも怒られた。ほっぺた左右に引っ張って。完全にガキ扱いだな。俺は色んな処分を覚悟してたのに。
おまけに、戦闘があっても全く呼んで貰えない。というか訓練に加えても貰えない。
「もう護身術程度の訓練終わったし。よく考えたら別にクロートを戦わせる理由ないし。大人しくウィッカー能力の講義受けてね」
「嫌ならやめてもよいぞ。ウィッカーになぞならんでよい」
俺を飼い殺す気か!
『まったく、通信じゃ教えるのも捗らねえよ』
「おっさんがこっち来れば? どうせ役に立ってないんだろ」
『こんな情勢の最中に未成年の子供らほってけるほど薄情じゃねえの。先立たれた妻に怒られる』
このおっさんはほんと、志摩姫のことだけは真剣なんだよな。
『いっそ操舵のほうやるか?』
「ツクモシップ弄るのは、開拓惑星に着くまで禁止されてる」
『はへえ、蛍ちゃんも過保護だねえ』
おっさんですらそう思うのか。まあこいつは放任主義だしな。
理論講義だけ受けて、サンルームに向かったらカリブの海賊が黒ビキニ一丁でトロピカルジュース飲んで寛いでた。サンルームはビーチじゃねえだろ。
「この前はドーモすいませんでした」
何一つ悪いと思わんけど言いがかりだったのは確かなんで、口先では謝っておいた。
「でも今後も嘘ついたり合意なく蛍に迫ったら、お前の部屋の重力や酸素を極端に上げたり下げたりしてやるから覚悟しろ」
「合意がありゃあいいのかい?」
「いいよ。合意さえあれば俺の口出しすることじゃない」
「ふーん……」
カリブはサングラスを外し、髭の口元をにやっとさせた。
「戦闘出たいだろ」
「蛍が許してくれない」
「そらアブネーもん、お前みたいの。俺もお前みたいな部下は御免だね」
「なるほど」
根本的な事実に気付いた。この船にいると、この男の部下として戦闘に出るんだ。蛍の愛人のこの男の。
俺はその日、家出を決行した。
といっても別に蛍を捨てる気はない。ツクモシップで飛び出して(もちろん出たことは偽装)自動航行モードにしてコクピットで目を瞑る。
そして意識体を飛ばした、人形に。
そういえば人形、どこにあるんだ。確認するのを忘れた。部屋にはなかったが、蛍が持ってきてないことはないはずなんだよな。倉庫にでも放り込まれてんのか?
視界に広がるのは数多の情報パネル。
「……クロネ?」
隔絶されたデータリンクルーム。仕事中の蛍とばっちり目が合う。
「なっ、なんで人形がここに?」
「仕事中の無聊を慰めたく……」
「うわっなんだ、和風ゴシック!?」
「それより、なぜ人形に入った。鷹鶴、クロネのツクモシップを確認しろ」
人形に入っただけで瞬時に家出がばれた。
「クロート!? 君、いい加減にしろよ。次から次へと面倒を起こしてくれるな。いま忙しいのは分かってるだろう」
……申し訳ない気持ちはなくもなかったが。
ぐっと罪悪感を棚に上げた。
「だったら構わない。追放処分にでもなんでもしてくれ」
「クロート?」
「あんたにとっちゃ俺なんか、蛍を宥める為の玩具なんだろう。でも、飼い殺される謂れはないし、あの男の下につく気もない。俺はフリーになる。ウィッカプールでも葛王子のところでも、行く宛はあるからな」
「クロネ……」
蛍が俺の人形を抱き寄せた。
「すまん、そこまで思いつめていたとは……何しろお前ときたら、この忙しい時に問題ばかり起こすゆえ、少しの間だけでも大人しくしていてほしかった。せめて開拓惑星に着くまでは」
「それは申し訳なかったけど。でもそれだけじゃない」
「ん?」
「一番気に入らないのは、あの男の下につくことだ。それはロマの国が出来たって同じなんだろ」
「そりゃ、まあ……」
「だから俺は離れる。少なくともあの男を実力で叩き出すくらい強くなるまで」
「待って、早まらないでくれクロート! 気に入らないならクレオディスくらい追い出したっていい。蛍の機嫌とれる奴がいないの困るんだよー!!」
よっぽど切実なんだろうな。本音出過ぎだ鷹鶴。
「それと、自分の目で情勢を体感したい。ウィッカプールで稼いだ後、暫く滞在して、その後は私掠船の活動に合流する。
別に蛍と離れるなんて言ってない、定期的に人形には入る。それでいいだろ」
「よくあるか。カジノに入っただけで誘拐されるような子供であろうが!」
「蛍、過保護も大概にしてくれ。俺は成人したロマの男で、自分の行動は自分で決められる。その組織から離れる決意をした今は尚更だ。もうあんたたちの指示は聞かない。聞く必要がない。
でも、あんたたちのことは好きだから、報告は怠らないし、蛍のために人形も使う。拉致されたら今度こそ無視していい。こういう選択をした以上、野垂れ死ぬことも覚悟の上だ。まだ何か言うことはあるか」
「クロネ……」
蛍が涙を流す。蛍の泣き顔はきれいだ。胸が締め付けられる。
「ただ無茶な戦い方をしてほしくないだけだ。あんな生き方をしていては、すぐに死ぬ。どうして分かってくれない?」
「一人じゃやんない、あんなこと。医療ポッドが側にあるの分かっててやったんだ」
「嘘をつけ! ここで散らすと決めればすぐに決行するだろう。今が良い例だ。俺の大切な者であると分かれば、どれだけの者に狙われるか。そうでなくとも前例のないウィッカーなのだぞ」
「そーな。クロートが独立したいなら止める術はない。でも、君は何処かの軍部にでも捕まれば出て来れないぞ」
「……その時はカサヌイか葛王子にでもSOS出すわ」
「出せないこともあろうが!! 死にたくても死ねないこともあるのだぞ。この宇宙はお前が思うほど甘くはない!!」
「それを知る為に行くんだよ」
守られて生きてきたの、分かってる。
菊蛍と鷹鶴がいなければ私生児の俺は酷い差別を受けて育ったんだろう。二人がいなければ今頃セックスジャンキーの性奴隷だった。ハイドにも殺されてたかもしれない。アジャラに飼われたままだったかもしれない。
思い返すととホントに一人で生きてけるのかちょっと不安になってきた。俺の人生、危機一髪の連続だな。
蛍の腕の中で、幸福に、安全に生きてきた。
これからはそれじゃ駄目だ。今だと思った。
「蛍。俺、少なくともオオタチの爺ちゃん以上に良い男になるまで、あんたと一緒になる気ないから」
「クロートくん、それハードル高すぎ」
「あと、俺に愛想尽かして他に好きな奴と一緒になりたくても、オオタチの爺ちゃん以上にいい男かいい女じゃないと許さない。そいつ殺しに行く」
「なんで基準がオオタチの爺さんなの!?」
俺の知る限り、一番イイ男なんで。
「まあ、どうせ俺の動向もモニタリングする気なんだろ。それは好きにしてくれ」
「……ならば、プロテクトを解いてくれんか。これではお前の様子が見れんよ」
捕まえる気じゃないだろうな、とちょっと疑いながらも、偽装を解いた。データリンクルームのパネルに、目を閉じた俺のコクピットが映し出される。やっぱツクモシップに細工してあったか……
「移動中は暇だし、人形に入ってカサヌイの講義受ける。だからほぼ母艦にいることになるんじゃねえかな。
ツクモシップは俺の世話をほぼやってくれる。航行も、索敵も。まあ、問題はこの情勢下、ロマを受け入れてくれることがないことだが……」
「それに関しちゃほぼ問題ない。蛍のやつ、お前可愛さに反物質炉を積んだから」
マジかよ。せいぜいメタンガスエンジンだと思ってたわ。古いし。いつの間に改造したんだよ。
「や、反物質だと逆に高価すぎて買えない」
「そんくらい買ってやるわ!!」
「だから過保護やめろ!」
「過保護にもなる! お前が可愛いのだ! どうして分かってくれない!!」
両袖で顔を覆って、蛍がわーっと泣き出した。ここまで派手に泣かれたのも初めてで、流石に狼狽える。
「な、な、な…泣くなよ、蛍」
「泣きもするわ! 二度もプロポーズして断られた! おまけに俺から離れていく! そんなにクレオディスが嫌か、それなら俺が殺してやる!!」
「落ち着けよ。あいつ別に悪い奴じゃないだろ。俺が個人的に嫌ってだけだ」
ちょっと性格は悪いが、嫌な奴じゃない。それは分かってる。こんな関係で出会わなければ上司として尊敬もしたろう。でも、だからこそライバルなんだよ。そっちこそ聞き分けてくれ。俺にだって自信はないがプライドはある!
「黙って聞いてりゃさあ。男の門出くらい、黙って見送ってやんなさいよ」
誰かが回線に割り込んできた。この声はクレオディスか。
「蛍よ、あんたどうしちまったんだ。そんなにこのクソガキが可愛いか」
「貴様に関係ない」
「あら、冷たい。情熱的に口説いてくれたこともあったのに、全部ウソだったのね。知ってたけど。
そのガキは、いつまでもあんたの腕の中で大人しくしてるタマじゃねえよ。ふてぶてしく生き延びるか直ぐおっ死ぬかは知らねえが、引き止めるのは無理。諦めな」
「うるさい。うるさい、うるさい!」
「おい。そろそろ蛍が過呼吸起こすから、引っ込んでくれ」
「えっ、過呼吸起こすの? やぁん、慰めてあげたい」
「お前じゃ無理」
蛍を抱きしめてぽんぽん宥めながら、回線を切断。ただし、クローズドでカリブーに繋げる。
「部屋の酸素濃度には気をつけろよ」
それだけ告げて、切る。
『ハイド、ウィッカプールに単独で行く。鷹鶴の一派から独立することにした』
『マッジでぇ? おいでおいで、歓迎すんぜ。なあ、俺と組もうよクロネェ。俺な、お前のこと尊敬してる。ホント!』
なんだこいつウゼェ。
『ホーク・ホール使って来いよ。そしたら明日にも着く』
『や、使用料高いし……』
『誤魔化してやるって』
悪い友達にそそのかされてる気分。蛍ママが怒るのも無理ねえな。
「クロネ?」
蛍の声にはっとする。
人形に意識飛ばしながらツクモシップと感応してハイドと話してたら何処にいるのか分からなくなってた。危ないな。
「蛍、もう疲れたんだろ。そんなに泣いて……寝ろよ」
「慰めてくれねば嫌だ」
すんすん鼻鳴らして甘えかかられる。ので、膝の裏に手を入れて抱き上げてやった。
「あ、すげえ! 人形だからパワーあるな。蛍も楽々姫抱っこ出来る」
「悪くない」
ちょっと機嫌が直ったようでよかった。ただし猫耳和風ゴシックドレスの俺が蛍を姫抱きしてる姿は客観的に考えたくない。
ベッドに転がしたら枕抱えてまだすんすん言ってる。
これは、あれの出番か?
「蛍。これは記念日とか特別の日か、とっておきの日にとっておこうと思ってた一品だが……」
「なにか?」
「黒のロンググローブにボンテージコルセット。それにガーターベルトとニーハイストッキング」
「…………」
涙で濡れた目が、余計にきらきら輝き始めた。だめだこいつ、やっぱ顔面だけ上等すぎるただの助平親父だ。
「猫耳はつけて頂けるのか!」
「あんたの気分次第」
「これで懐柔されたと思うなよ!!」
正直、局部丸出しで男がやるには間抜けな格好に思えるんだが、蛍が好きだろうなと思って買っておいてよかった。全裸猫耳ぺたん座りの時点で好みは把握してたから。
言っても本当に着る訳じゃない。この和風ゴシックドレスだってテクスチャだ。どっかの有名デザイナーが制作したテクスチャをダウンロード購入して、差し替えるだけ。猫耳も追加購入。
「どやぁ」
「…………!!」
蹲って枕ばんばん叩いてる。なあ、俺どんだけあんたの好みなの? 顔なの、体なの。年とって劣化したら飽きられるんじゃないか不安になるの、そういうとこだよ。
「はあ……殺人的な可愛さである」
「今度はデータ流出させんなよ」
蛍が激写すんのはいいけど、このかっこ他人に見られるのアナニー見られるよりヤだから、正直。
「これが生身であればっ、生身であればもっとよかった!」
「今度帰ってきた時に期待してくれ」
「今すぐ帰って来い!!」
「……楽しみはとっておかないと損だろ」
ベッドに膝で乗り上げて蛍と額をつける。目を合わせ、唇を重ねた。すぐに引きずり込まれて押し倒される。
「この人形特有の感触とは縁が切れたと安堵したのに。また暫くこの無味無臭の肌なのか」
ぶちぶち文句言いながら蛍はコルセットの上の胸元に舌を這わす。俺も、この人形のセンサーフィードバック久しぶり。嫌いじゃないけど生がいい。ガーターベルトに指を差し入れて腰骨なんかをなぞる。蛍、あんた……えらい興奮して息も荒いし頬も赤いのに、無駄にキレイなのが……逆に冷静になるな。
「ん……なあ、この格好こそ、騎乗位向きじゃないか?」
いつぞや失敗した騎乗位。生身だからって理由で拒否された。なら、人形だったらいいんだろ。蛍はむうと唸って、大人しく横になるが、不服げだ。
「もしかして、騎乗位嫌い?」
「騎乗位に限らず、主導権を握られるのはあまり。というより仰向けでのし掛かられる行為が好きではない」
「嫌ならやめるけど」
「大変よい眺めである!!」
何か葛藤があるようだ。乗っかられるのが生理的に嫌なのと、騎乗位に映えるコスなのと。
人形の局部は軽く濡らすだけで滑りがよくなる。痛みもないから先走りだけでも問題ない。つっと指を這わせて蛍のものをあてがい、腰を落としていった。
「ふぅ…ん、ふぁ」
「………」
やめてくれよ、真顔で激写すんの。こっちはあんたを気持ちよくしようとしてんのに、違うことに夢中になるのは。いらっときて締め付けながらぐうっと腰を上げた。
「あっ、ひゃ……!? ああっん」
「これこれ、人形のセンサーは敏感なのだから、乱暴にしてはいかん」
「お…れがっ、幼児退行するほど乱暴するやつのっ、あふ、言うことかっ」
「それはそれ、これはこれ」
「しっ、したからっ…やぁ、って!!」
なんで大人しく騎乗位させてくんねえかなあ、この人は。蛍が寝てる時にちょっとやったの、すごくよかった。俺だって蛍にあれこれしてみたい、のにっ。
手首掴んでぐうっと引きながら、下から突き上げてくるんだ。体重で深く繋がる、奥の奥んとこの大きいセンサーを。
「俺がっするって、言ってる、のに……っ、ふっ、あっ」
「はあ……、かわゆい。このボンテージはオートクチュールで本物を作らせよう、レザーカービングで菊の花を入れてやる」
「んっ、あ、あぅ、ああっ!」
二人分の体重で激しく暴れるからベッドの軋みが凄い。ぎっしぎっし言ってる。
ぐっと腰を掴み、尻を押し付けるようにしながら、
「ふゅ……あぁう!?」
激しく奥を一突きにされた。あ、意識体……人形、崩れる。
う。生身の感覚が。戦闘機だから洗浄ポッドなんか勿論ついてない。次のステーションまでこのまんまだ。これは問題だな。
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