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「黒音さんがフリーになられたとか。似たヤマト系の少年をご用意しましたので、ぜひお連れください」
と言って寄越された三人の少年。確かに顔の系統は似ていて可愛らしいが、一人はどう見てもヤマトではなくオリエントの出身だ。雰囲気がバサラに似ている。
「蛍さん、僕なんでもしますよ」
「蛍さぁん」
媚びてくる黒音似の少年二人をどうしたものか。目が遠くなる。なんだと思われているのだろう。一番問題なのは、黒音が恋しいあまり、それなりにグッとくる事だろうか。黒音はこんなふうに甘えてはこない、最中でなければ。
だが、菊蛍の興味はバサラ似の少年にあった。
あからさまに人種が違うのに、無口で俯くばかりの少年は、黒音に一番似ていた。
***
『小僧ぅ、菊蛍がお前似の少年侍らせてるよぉ。ざっまぁー!』
『てことは、あんたも相手にされてないんじゃん』
『うるせー、ちくしょう、わかってるわよぉ!』
ちょいちょいクレオディスから船の様子を聞かされてる。こいつなりの配慮なんだろうな。とは思うが、うっぜぇことに変わりはない。
俺に似た子供を三人押し付けられたことは蛍から聞いている。かなり困惑していた。だろうよ。
ただ、そのうちの一人がコミュ障で、心の壁が厚く、人と関わろうとしないんだそうで、とても気にかけていた。あんた、そういうのにホント弱いな。
『安心しろ、仕事でもさせとけば嫌でも人と関わる』
『黙々と与えられた仕事をしてはいるよ。だが、何か抱えているようで、それが心配だ。お前によく似ておるから、どうも放っておけん』
その少年、名前はアエロくん。なんとも退廃的な空気を纏う、危うげな少年だ。
『まだ本当に子供じゃねえか。手は出すなよ』
『お前は俺を何だと思っているのだ』
やたら親切な助平親父だよ。
まー、船のことは船で解決してくれ。とにかくこっちも忙しい。
ドン・オクトは丸顔のハゲオヤジだった。ウィッカプールに居を構えるだけあって迫力がある。オオタチ爺さんほどじゃないが。
「何を手土産にすればいいか分からなかったんで、ヤマトのお菓子作って来ました。団子です」
「ダンゴ……?」
「酒とはあんまり合わないと思うんで、ヤマト茶淹れます。毒味とかします?」
「ハハハ」
厳しい顔のおっさんが、急に破顔した。たぶん、俺が腕いっぱいに持参した茶筒とか急須とか薬缶とかダンゴの包みが滑稽だったんだろう。ちなみにちゃんとボディチェック済。
蛍に教わった茶の淹れ方を実践。志摩でもちょっと教わってた。ウィッカプールで手に入るのはまがい物ばっかりだったんで心配だったんだが、それなりにいい香りはする。
「ふうん、この丸い……なんだ? 何で出来てるんだ。コメか?」
「もち米です。普通のコメとはちょっと違う」
「なかなか旨い。有難うよ、こんな星にいると、こういうモンを口にする機会はなかなかねえもんでな」
なかなか小粋なおっさんだった。後でドン・オクトの部下に聞いたところによると、これでなかなか癇癪持ちで近寄りがたく、なれなれしい俺にひやひやしたそうだ。
「今度、ソーシャルファンドワーキングシステムってのを低所得者に提供しようと思ってる。こういうのってシノギに影響する?」
「いや。若いのにも仕事が回るんなら文句ねえよ。こっちも細かい依頼を出しやすくなる。最近は情勢が悪くて下っ端も無茶をする。ファミリーを食わせるのもひと苦労だ。出資がいるなら言ってくれ」
「とりあえず一軒目を出して様子を見るが、ウィッカプールに斡旋所を増やしたい。低所得者のロマはマイクロチップ入ってないみたいだし、仮想次元に接続もできないんだろ」
「ふうん。担がれてのぼせた小僧だと思ってたが、案外としっかりしてやがる。よければ一曲聞かせてくれ、お前さんのファンなんだ」
もちろん、そのつもりで三味線は用意した。ドン・オクトのために一曲披露して「それじゃあ失礼つかまつって」なんて任侠の真似をしてみる。
「肝が据わってんな、小僧」
「怖い人と会う機会が多い人生で」
「先が楽しみだよ。またな」
散らかした荷物は全部置いてった。ヤマト茶の宣伝になれば、志摩のためにもなる。
それからも目が回るほど慌ただしく、ライブなんて前日にリハーサルで下見に行っただけ。最低限のライトと音響だけある地味な空間。観客ぽかんとしてた。
『えーと、家出してフリーになっちゃいました。前みたいな派手な演出は出来ません。その代わり、リクエスト受け付けます。オークション形式で……言っても余興なんで小銭程度で入札してください』
アレンジは俺の得意とするところ。どう足掻いても三味線と合わない曲ってのもあるけどな。
これが、想像以上に盛り上がった。余興だって言ってんのにえらい大金積む客が出てきて、申し訳なくなってしまう。
『二百万デジット。これで落札とさせて貰います。こんな巻き上げるつもりなかったんだけどな……』
笑わせるつもりじゃなかったのに、なぜか会場がどっと沸いた。面白いこと言ったか、俺。
ステージに上がってきたのは、適齢期のお嬢さん。白いワンピースと赤い唇の下のホクロが印象的。
「お会い出来て嬉しいわ。クロネは演奏中と全然違うのね」
「ちがう?」
「とってもカワイイ。演奏中とは別人よ」
そうなんか。自分じゃ分からん。頬にキスされたんで、俺も返した。指笛が客席から響く。
何度かリクエストオークションやったけど、金持ちの人ばっかになっちゃうんで、さっきから一生懸命に参加してた男の子を呼び出した。
「あの、おれ! おこづかい全部……!」
「いらない。君の熱意だけ貰う」
「おれ! すごいファンで!! クロネかっこいいです! 学校のみんなクロネを悪く言うけど、すごく!」
「ありがと」
じんとするな、こういうの。男の子の赤毛をくしゃくしゃ撫でた。
いい気分になったんで、最後の演奏の音はやけに優しい音になった。荒っぽい音が多い俺にしては、珍しい。男の子が頼んだのもフォークだったしな。ステージ上で聞いて貰ってたら、男の子泣き出した。なあ、そんなに感動されるほど大した人間じゃないんだが……思い込みって怖いな。
「けっこう堂に入ってるんじゃねえよ、え? 特にほっぺにチューなんてやるタイプだとは思わなかった」
「慣れだ」
ステージ袖でにやにやして見てたハイドとすれ違いざま、そんなやりとりしてた。呼んでもねえのにずっと脇に立ってたコイツがちら見えしてた気持ち分かるか? 何度べっこう撥投げつけようか思ったか知れない。
『おつかれさん、クロート! 頼むから帰ってきて! 蛍が限界!!』
鷹鶴から連絡が入ったんで、後始末を全部ハイドに任せてホテルに戻った。コートぶん投げてベッドに倒れる。俺も限界。つっかれた。
意識を人形に移すと、そこには酷い光景が広がっていた。世界は横回転してて、寝室に酒瓶が転がってる。後ろから抱えてるのは蛍と思うが。
「なにしてんだ、あんた」
「クロネェ……」
恨みがましい声で呼ばれ、ふて寝してた蛍に組み伏せられる。
「なんだ、サプライズオークションリクエスト企画とは。なんだそれは。俺も参加したかった!」
「……聞きたいなら何でも弾いてやるよ、タダで」
「ちーがーうー、ライブの会場でその場の空気を楽しみたかったのだ!」
酔ってんなあ。こんな蛍、見たことねえや。
こうやって少しずつ違う顔見せられるの、たまんない。心を許してきてくれる感じ。今まで結構かっこつけてたんだな。
「本当は全て投げ捨ててお前と共に行きたい。なぜ俺がロマの指導者なのだ。そんなつもりは全くなかった……」
こんな、人にはとても聞かせられない愚痴も。酔ってるとはいえ、俺に本音を言うこと自体、珍しい。追い詰められてんな。
「ごめん、蛍。あんたに全部押し付けてんだな」
「お前の謝ることではないが」
「俺はいま、ウィッカプールの低所得者の支援をしてる。あんたのしてきたことを、俺も継ぎたいと思ったから。でも、だからってウィッカプール自体を任されたら、ものすごく困るだろうな」
そう、支援をしていたからって、蛍には何の責任もない。それなのに否応なくロマの運命を負わされた。鷹鶴がいるのが救いだけど……
「あんたの側にいても、何の役にも立てない。外に出たほうがよっぽど役に立てる」
「利害としてはそうだが、俺はお前が外で誰かに口説かれてはいまいかと気が気ではない」
「は? 俺を?」
ねえよ。何言ってんだ。あんたじゃあるまいし。この歩く誘蛾灯が。
「若くて可愛くて有能でウィッカーで人気のクロネちゃんであろうが!」
「俺、今まで口説かれたこと一度もない。誰でもいい奴とか、俺を誰かに重ねてるやつばっかだ」
「チョーカーも失くしてしまったし、そう、チョーカーだ。贈りそびれた」
「あれはアジャラ皇子が……」
「スペアが十ほどある。ハイド宛に送付するゆえ、着用すること」
それは十匹猫を飼うつもりだったのか、俺に全部つけるつもりだったのか。
「大体な。モンペが怖くて誰も近寄ってこねえよ」
「俺の努力の賜物である」
酒でふにゃけた笑顔をして、口づけてくる。酒くっさ。どんだけ呑んだんだ。
「んっ……ふ」
あ、キスが雑。いつもの繊細さが全く無い。酔ってるからか……
触れる指も少し荒っぽい。首筋噛まれた。人形だから痛みはないけど、噛まれてじんとした快楽が広がるように走るの、変な感じ。
蛍の酔った表情がいつもより艶っぽい。耳に髪をかける仕草とか。でも、欲情してんのに疲れてるせいかなすがままだ。久々にマグロ。蛍は楽しそうだけど。
「余計なことをせず集中して感じ入る時のお前の顔が一番かわゆい」
とのことで。
「んっ…はぁ、う、うん……」
ずるりと肉棒が押し入る。痺れるほどナカがきもちい。
「ごめ、ほたる…なんか疲れてて腰ふる気力ない……」
「人形を扱うのにも気力がいるのだろ。いいから俺にさせておけ。出来れば甘えてくれ」
「は?」
「お前は俺を甘やかそうとするが、俺は甘えられたい性質である。預かった子猫らが甘えたでな、可愛いと言えば可愛い」
「だから言ったろ、俺より若くて可愛いのが現れれば飽きるって……」
「お前の顔をして甘えられればどうしたって悪い気はしない。お前に甘えられたいのだ」
甘える……たって。
最中に、訳わかんなくなって抱きついたり強請ったりすることはある。慣れた。けど、改めて甘えろと言われると抵抗がある、というより恥ずかしい。小さいこどもじゃないんだぞ、俺だってな。
「そんなに拗ねた顔をせず、そういうプレイだとでも思っておくれ」
「……セーブ」
「ん?」
「セーブ、してんだよ……あんたに甘えてると、俺はだめになる。だから独立したんじゃないか。それでも、離れててもあんたは甘やかしてくるし。むかつく反面、ほっとしてる自分もいる。ぜんぜん一人前じゃない」
「一人前の者なんかいるものか。もし皆が一人前であれば、俺は指導者になどならずに済む」
ああ、そうな。あんたレベルになると、みんな迷子の子羊か。だってロマは一人じゃ生きてけない。よすがが必要なんだ、それが蛍。
「だが、おそらく、だからだろうな。皆、俺を頼るが……お前は俺に頼ろうとしないから、甘やかしたくなるのだろうな。アエロもそうだ」
「アエロくんについては、俺がちょっと様子見……っ!? あう」
「はは、自分で名を出しておいてなんだが、お前が褥で他の男の名を口にするのは腹が立つ」
男……って子供だろ!? 俺は会ったこともない! しかもあんたの寝所用に送り込まれた子供! そんで何の嫉妬してんだ。
「あぅ、んぁっ……はぅう」
「クロネ。俺は甘えられることで甘えたいだけなのだ」
「はっ……」
「ねこ、ねこ」
久々に聞いた、そのフレーズ。頬やこめかみにキスしながら子守歌みたいに、言う。あやすように腰を使ってずぶずぶのぬるい心地よさをくれる。
だから俺は、蛍に擦り着いた。猫みたいにすりすりと。
「お前が俺の手から少しずつ離れていくのを感じる。それは喜ばしいが、どうしようもなく寂しい」
行為が終わってから蛍の腕の中で、寝物語のように聞かされた。
まずいな。ちょっとケアしとかないと、蛍が壊れる。
ひとまず人形に寝たら、翌朝になってデータリンクルームで起きた。
「ふあ?」
「ん、なんだ。まだ戻っていなかったのか。それならもっと朝寝を楽しめばよかった」
「………」
蛍からよく見える部屋の角に安置されてた俺は、立ち上がって蛍の膝に乗り上がった。
「これ、作業ができん」
「甘えろって言ったろ」
「こらこら……」
叱りながら嬉しそーな顔してんなよ。仕方ないおっさんだな。抱きついて擦りついてキスをした。んー、幸せの感じ。本格的に甘えたの気分になってきた。
最近は大人の男になろうと背伸びしてたんで安心する。けっきょく、まだガキなんだろうか。
「なんだなんだ、サービス過多であるな。かわゆいかわゆい」
蛍の機嫌もいい。
しかし、いつまでも仕事の邪魔は出来ないんで。
「アエロくんに会ってくる。出来れば俺に似た二人の子供にも。あんたのこと頼めそうなら頼んでくる」
「あまりけしかけんでくれよ? アエロ以外は油断すると跨ってこようとする」
どんな環境で育った子らなのか、ぞっとするな。俺と似てるんだろ。
で、実際呼び出してみたら、一人はきつい目の生意気そうなガキ。一人は大きい目の可愛い顔したガキ。一人はオリエント系でヤマト人ですらない。
「なーんだ、クロネって大したことないじゃん。これならおれでもイケるじゃん?」
猫目のガキがイヒヒと笑う。ん、素直でよろしい。
「はわ、はわわ……」
でか目はひたすらあわあわしてた。天然か。
「………」
お前言葉通じてんの、アエロくん。バサラさんもそうだが、オリエント系ってみんなそうなの。皇帝陛下もオリエント系だけど、言葉通じそうにない雰囲気はないのに。
「蛍に関する仕事を説明したい。が、とりあえずお前らの育った環境を教えてくれ」
「はあ? プライバシー侵害だし」
「ロマでも売春は違法。特にお前らは未成年だ」
「あっは。あんたボンボンなんだねえ」
「ごく一般的な母子家庭の出身だ。俺たちにはお前らを保護する必要がある。体だけじゃなく、ここも」
猫目の胸元を拳でとんとんノックした。
「なんだそれ。エゴじゃん」
「蛍は赤んぼの頃から性的虐待を受けていた。お前らの存在が蛍の傷を抉る」
「ああ、蛍さん基準ね」
「プラス。ロマの保護だ。ロマだからという理由で性的虐待を行う者を制裁する。蛍の願ったことだ。お前たちは、蛍が救いきれなかった子供だ。だから次の世代である俺には守る義務がある」
「あんた、何様?」
「俺だけじゃない、お前らもやるんだ。蛍が俺たちを守ったように、俺たちも次の世代を守るんだ。だからまずは、お前たちを救わなきゃならない」
「………」
猫目は反感たっぷりに顔を顰めた。
「あの、ぼくらは、べつに……」
「名前は」
「カナカです!」
「年は」
「15です……」
「お前らもか? 15にしちゃ小せぇな」
「うるさい、デブ! 筋肉はモテないんだよ!」
横から猫目が割り込んでくるんで、シャツを片手でまくった。
「ぎゃあ! 変態!!」
「小さい治療痕が多い。やけどか? 加熱式のタバコなんかめったにないこのご時世で」
「そういうプレイですー。蝋燭って悦いんだよ」
えろっぽく舌なめずりする猫目。俺は大きく溜め息ついた。
「お前、だめだ。失格」
「はあ!?」
「確実に蛍のトラウマ抉る。話聞いてなかったのか」
「ガキの頃から気持ちいいこと仕込まれるの何がおかしいのさ!」
あ、だめだ。こいつ分かんないんだ。
なんか泣きたくなって、俺は屈んで下から猫目を覗き込み、逃げないように両手首を掴んだ。
「離せよ!」
「あのな。お前のいた環境はおかしいの。誰も、お前をそういう目に合わせていい奴なんかいないんだ」
「感度がいいって、出来がいいっていつも褒められた! それの何がいけないの!?」
うへぁ。否定されて育って俺みたいに自信がないのも問題だが、褒められて育って自信満々なのも大問題。
「ハルナくん……僕はしってたよ。ほんとうはいけないことなんだよ」
もじもじしながらカナカが言う。聞いた猫目、ハルナは余計に逆上した。
「おれはおかしくない! おかしいのはお前らだ! おかしくない!!」
『鷹鶴。カウンセラーよこせ。こんなガキ引き取って放置とか、あんたバカか。蛍も蛍だ』
『ん? その手のコは結構いるよ。珍しくないない』
だめだわ。こいつら感覚狂ってんだ。俺のほうがロマの中では異端の世代なんだろうな。俺らの世代であっても、まともな環境で育つことの出来なかった奴らもいるみたいだし。眼の前にな。
ぶぼあー、と派手に泣き出したハルナを抱きしめたら、めっちゃ暴れられた。引っかかれるし殴られるし髪引っ張られる。人形だから痛くないけど……てか微妙に感じちゃうのが腹立たしい。このセンサー、オフにできんのかな?
「悪くないよ、お前は悪くない。悪いのは、お前の周りにいた大人たちだ」
培った価値観を否定されるって辛いことだ。まして今までやってたことが悪いことだったなんてさ。
海賊に育てられた子やテロリストの子供もこういう現象が起きる。受け入れがたいだろうな。生まれてから当たり前にやってたことが罪だとは。だから止められないんだ。
泣き止まないハルナを抱き上げて、ミチルさんのとこに行った。興奮しすぎてたんで鎮静剤まで打ってもらって、ようやく落ち着いて寝た。
「カウンセラーを呼んでくれ。まともな価値観のやつだ。できればNGOの、ロマじゃない奴を。無理なら手配するが」
「はー、クロネちゃん大人っぽくなったねえ。仕事しすぎて通路でぶっ倒れてたのが懐かしい」
大人っぽくとはなんだ、俺は大人だっつの。
「治療が終わるまで、こいつらは蛍に近づけるな」
「それは僕に言われてもねえー」
「……」
誰に言えばいいんだ。どこの所属って訳でもないだろうしな。この船にはまだ、子供なんて乗ってない。
『クヴァドくん……ちょっと、子供の面倒って見れる? 15だから俺らとそうトシ変わらんし手伝いくらいは出来ると思う』
『およ。どうしたの?』
『どっかのバカが蛍に寄越した子供が、売春専門で』
『よくあるって! 僕もけっこう小さい頃からセックス三昧だったよ?』
だめだこいつら早くなんとかしないと……全員まとめて倫理を勉強させないと。つーか違法だっての。
だ、誰を頼ればいいんだ。はっ、志摩王子!
『志摩王子、たすけてぇ!』
『どした?』
『ロマの貞操観が酷い。こいつらに倫理と道徳を叩き込まねばロマの国がソドムとゴモラ』
『よーし、特別講師にうちの婿どの貸しちゃうよ!』
宇宙最凶悪の規律の先生ですね……そうね、いけないことはいけないと骨の髄とイドまで教え込まねばね。
『ただシヴァロマ殿下、お忙しいでしょう』
『ちょっとした手間でソドムとゴモラを予防できるんなら安いもんだ』
『……そすね』
今までロマは、中型の宇宙船という狭い空間で分けられてきた。ロマが集団生活するなんて異例の事態なわけだ。ウィッカプールの分類は移民。
そうした俺の立ち回りに鷹鶴が「ごめん!」と通信入れてきた。
『独立したってのに、世話焼かせてごめんよ。助かるわ』
『べつに、蛍のためだ。あんたらが意外にポンコツで驚いたけど。俺はあくまで社会勉強でそっち離れてるだけで、関係断絶したわけじゃないし、今以上に蛍を煩わせないでほしい。困ったことがあったら言ってくれ』
『やだ、クロートが頼もしい……トゥンク。だから早く帰ってきてねぇええ』
俺を飼い殺そうとしてた輩の言うことじゃねえな。もっとも、ここにいたらいたで、やることはあったのかもしれない。今回でそう思った。
ところで。
カナカはハルナを心配して医務室に戻ったが、アエロは後ろをついてくる。
「どうした。俺に何か用か」
「………」
何を考えているか分からない目。暗い、底知れない闇を宿した目だ。でも、強い目をしてる。負けてたまるかって目。
ああそう。似てるんだ。俺と志摩王子の目に。
「なんて言ったらいいか分からない」
「うん?」
「俺を弟子にしろ……? 違う。お前みたいになりたい。どうしたらいいか教えろ」
えらい高圧的だった。言葉の使い方が分からないんだろう。熱意は伝わったんで、考え込んだ。
「お前の境遇を聞いていいか」
「私生児だった。父親に金で貸し出されていた。そういう事で。学校は中等部まで」
「15だもんな」
「……俺は18」
ほとんど俺と変わらねえのか!? それにしては小柄なんで驚いた。俺もそう体格のいいほうじゃない、年下の志摩王子のほうが少し背が高いくらいで。個人差があるとは言え、顔立ちもカナカたちと同年代に見えるほど幼いような。
「何か出来ることは?」
「……なにも。する暇もなかった」
んー、俺の手には余る。
「今は仮想次元でいくらでも学べる時代だ。学習プログラム組むから頑張れ。カウンセリングも受けろ。特に倫理と哲学は重点的に学べ。趣味を見つけたら打ち込め。仕事はしなくていい。話は通しておく。二年か……五年くらいはそうしろ。
もっとも、開拓惑星に着いたらそうもいかんかもしれんが」
「……どうして」
「ん?」
「どうしてこんなに違うんだ。なんで……」
アエロの表情が初めて変わった。悔しそうで、泣きそうで。ああ、俺もこんな顔をしてたのか。蛍が気にかける訳だ。
「俺だってまだ一人じゃ何も出来ない若造で、みんなに頼ってばっかだ。運よく有力者とコネが出来て、甘えてる。蛍のおまけだから、蛍に貸しをつくりたがって協力してくれる奴も多い。そんだけだ」
「どうして菊蛍はお前を選んだ? 俺と何が違うんだ」
「そんなの蛍に聞けよ……といっても接触禁止な。今度俺が来た時に話す機会作ってやる」
あー、仕事が増える。
ウィッカプールの低所得者の面倒、ロマの腐れた貞操観とその管理、ガキどもの指導。そんで蛍のケア。俺自身の生活費稼ぐ目処が立たねえ。
ウィッカプールで金を稼いで、中型の宇宙船買う気だったんだ。ツクモシップの。そこにデータリンクルーム置いて、クルー集めて、私掠船の活動に参加するつもりだった。
こんなんじゃいつになることやら。
どうやって集めるかな、クルー。
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