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あんなにこの子が可愛かったのに、飽きてきた。
そもそもどうして手元に置こうと考えたのだったか? 確か、強姦されかかったところを助け、体が辛そうだったので手を差し伸べた。成り行きからずるずると関係を続けて、それでどうした?
プロポーズもした気がする。証拠に指輪まで作っていた。この子の何がそんなによかったのだろうか? 確かに顔は好みだが、自分が入れ込むにはすこし稚すぎる。
この子より魅力的な愛人などいくらでもいたし、鷹鶴やクロネと話をしているほうが、ずっと楽しい。
大体、抱くのが面倒だ。菊蛍は実のところ、セックスなど好きではない。昔はそれなりに旺盛だったが、今は落ち着いてきた。どうしてこんなに尽くすように抱かねばならないのか? この子が不憫な子だからか。それなら、カナカやハルナは?
色々考えた末、前から鷹鶴とクロネに勧められていたとおり、アエロを志摩に修行へ出すことにした。
「帰ってきたら、また……」
「それはない」
期待をさせないように、きっぱりと言った。
「お前は俺のような先行きのない者など構わず、自身で未来を切り開きなさい」
「けど!」
「俺は、それが出来ない者に興味を抱けない」
あれほど愛したはずの子に投げる台詞にしては、冷たいものだった。自分でも驚いたほどに。しかし、それが本音だ。
志摩王子、クロネ、葛王子。それにニブルの双子皇子。未来を予感させる若者は素晴らしい!
アエロには才能がある。にも関わらず、ただ菊蛍の愛を強請るままだった。この子を手元に置いておくのは、この子のためにならない。
何より煩わしかった。
「俺は、もうお前を愛していない」
アエロの目から光が消えていく。そこへ、角からクロネ人形が現れた。
「おい、アエロを志摩に送るんだろ。連絡入れたら情勢が情勢だから皇軍警察が迎えに来てくれるってさ。問題ないと思うが、船のセキュリティチェックを俺が……どうした?」
「なんでもない。ふふふ」
「なんだよ?」
「いや、俺はお前が大好きだなあと思ったのだ」
「へんな蛍」
「ふふふ……」
アエロの見送りはしなかった。あれほど愛したはずなのに、開放感だけがある。
そんなことよりも、アエロを見送ったクロネが人形から離れてしまうときのほうがずっと寂しかった。
***
「アエロはどう、志摩王子」
「ん、真面目。うちの軍に放り込んでおいた。テレパスは珍しいが、そこまで特殊なウィッカーじゃない。お前のほうがよっぽど異例」
機械感応は珍しくないはずなんだがな。
「それよか、私掠船計画のほうは?」
「クルーの面接が難航してる。俺は普通の人材が欲しいだけなんだけど」
「はは。ウィッカプールで普通の人材。笑う」
やっぱ他所で探すべきなのか? かといって俺はロマだから、受け入れ先自体がほとんどなくてだな。滞在すると金かかるし。
「クロネちゃん、ファンです! 船の中で四六時中クロネちゃんとおんなじ空気吸えるなんて幸せです!」
「働いてやってもいいっつうかぁ……くちゃくちゃ」
「おかあさんとおとうさんがいなくなりました。やとってくだしゃい!」
最後のやつ一番あかん。面接切り上げて救貧院に駆け込んだら、絵に描いたようなDVおばさんの独裁政治で子供たちが傷だらけのガリガリ。錯乱しながら喚き散らしおばさん殴って追い出した。
とりあえず子供らにまともなメシ食わせようと炊き出し始めたら、近所の浮浪者が集まってきた。そいつらには仕事を紹介した。
『お客様の中に! 救貧院で清く正しく子供たちのお世話をしてくださるロマはいらっしゃいませんか! 優しくなくていい、傷つけないでくれれば!!』
切羽詰まって仮想次元でヘルプを出しまくったら、数日後にとある女性が大きなトランク持ってツッカツカ歩いてきた。
中年で、美しくはないが知性のある顔立ち。小柄だが手足はたくましく太い。
「連絡したアリアンナ・ブラウスよ。NGO医師団に所属してました。宜しく」
なんてこった。思ったよりまともな経歴の人が来た。
「物資も足りないけど、そんなことより星の子バイオームね。この星の人間はいままで何をしてきたのかしら?」
「碌なことはしてないかと」
「病人並べて。力余ってるのは手伝いなさい。さっさとするのよ」
あっという間に難民キャンプが出来た。ハイドとハッシュベルとドン・オクトにお願いして物資を分けて貰う。
「貸しだぜ、クロネェ!」
「だまりなさい、貴方達の星の住人よ。彼らを助けるのは当然のこと。クロネは部外者。理解?」
「お、おう……」
すごい。ハイドを黙らせた。
病人けが人子守に追われて一週間が経過。俺、何するためにこの星来たんだっけ?
不眠不休で働いてるにも関わらず、まったくバイタリティの衰えを見せないアリアンナ女史に、尋ねてみた。
「どうして来てくれる気になったんだ?」
彼女はルージュだけさした口元で微笑む。
「優しくなくていい、という言葉に痺れたの。わたし、このとおり優しくありません。でも傷つけない努力は出来るわ」
なんか知らんが素敵な人だ。
黙々とけが人の包帯を巻く彼女の後ろ姿に尊いものを感じてじんとしてたら、
「ここは請け負います。貴方にはすべきことがあるんじゃなくて? もう行ってよろしい」
うん、素敵な人だが、優しい人ではないな。NGOでも浮いてたに違いない。
で、振り出しに戻った。
途方に来れてると、とうとう鮫顔のほうから連絡が。
「お前よぉ、新しく面子揃えるんじゃなくてよぉ、既存の私掠船に参加すれば? 紹介するけど?」
「いいのか? ありがとう」
「まあ、なんだ……俺もウィッカプールスラム生まれでよ……ありがとよ」
デレた。鮫顔がデレた。ここんとこ驚きの連続だな。
鮫顔との通信が切れないうちに、鷹鶴からのコール。
「クロート、へるーぷ、へるーぷ! ふぉろーみー、ふぉろーみー!」
「ついてこい?」
「フォローしてミーを!!」
そんなバスケの切羽詰まった試合終盤にするパスを寄越せのジェスチャーと迫真の顔で言われても。
「どうせ蛍だろ。あんた、俺が来る前はどうしてたんだよ」
「体張ってたよ! データリンクルームにヒップアタックとかして。大抵、苛ついた蛍が出てきて尻踏まれる」
「何日休んでないんだ」
「アエロが出てった日から」
だいぶ経ってんじゃねえか。
前にミチルさんに怒られた通り、宇宙船の中ってのは多大なストレスを人間に与える。その中での過酷な作業なんか論外。
「蛍、入るぞ」
もうすっかり開け慣れたセキュリティを突破し、部屋に入る。
「前から思ってたが、もうすこしキリよく作業できないのか?」
「まあ、終わりのない作業でな。ここで俺が抜ければ……ということの連続である。鷹鶴は割り切って降りれられるが、俺は下手なようだ。
これをやればお前などはもっと大変だぞ、クロネ。クルー集めをする途中で救貧院の世話を始めるようではな」
んっ、大体言いたいことはわかった。俺もこの数週間、ほぼ救貧院がらみで駆け回ってた。
「それになぁ、ふふ」
「なに?」
「こうしていると、鷹鶴がお前を呼ぶだろ? それを楽しみにしている」
変な楽しみ覚えてんじゃねーよ。迷惑だ。う……嬉しくなんかないんだからね! ちゃんと身体のこと考えて休んでよね、ばかあ!
「さて、洗浄ポッドに入って一寝入りするか。一緒に風呂にでも入るか?」
「洗浄ポッド可の材質だけど、加熱厳禁だ」
「ああ、そうか、人形か……そういえばお前と風呂に入ったのは一度きりであるな。共に志摩を見た」
それは、覚えてんのか。ヤッたことは覚えてないみたいだが。そっちはアエロに置き換わってんのか?
蛍の記憶は、無理に「それは違う、これはこう」と指摘することを禁じられている。本人が何が正しいのか混乱してしまうからだ。場合によっては激しい拒絶反応を示すらしい。
蛍が出て行ってから、俺はベッドに倒れた。も、疲れた。ゴールしてもいいよね……
「クロネ? 眠ったのか。中身はまだ居るようだな。そのように中央に居られては、俺が寝られんよ。仕方のない子である」
夢うつつにそっと頬を撫でられた。
「んっ……」
センサーが反応して身体が敏感になったが、眠気でそれどころじゃない。重い、動かない。
転がすように動かされ、それにも反応した。もうしばらくご無沙汰だから。
「なんだこれは。セクサドールなのか? なぜこんなものを媒体に」
あんたがロマの記念に作ったんだろーが。
文句を言ってやりたかったが、どんどん意識が落ちていく。
「……ねこ、ねこ」
俺の頭を撫でながら、蛍が歌う。
安心はするが、どうにも寂しくて涙が出た。生身のほうに。人形は涙を流さない。
俺から迫るのは、いかん。迫られると蛍は拒否するのが面倒という理由で抱いてくれる。そんなのは嫌だ。アエロのことも、半分はそれだったんじゃないかと思う。
いやもう単なる臆病風だけど! 怖い。どうしても怖い。俺に置換されたアエロがあっさり切られた。それって俺もそういう扱いになることもあるってことか?
「クロネ? クロネ? こわい夢でも見ているのか」
そういう優しい声でアエロも抱いたのか。
今更になって嫉妬が噴き出す。夢の中で悪いイメージがぐちゃぐちゃになって交錯した。不安が募りすぎて、握られた手を握り返す。
「なんだ、どうした? 今日のクロネは可愛いな……可愛いな?」
最後に聞いた言葉は、なぜか困惑していた。
意識が浮上すると、まだ蛍の腕の中にいる。
「おはよう、クロネ。だいぶ甘えたであったな」
からかうように額をつけて言われると、気まずくなって身を引く。
「お前が朝まで残るとは珍しい」
「や、鮫……サノに用事あったから」
「私掠船の件か」
「うん。あー、そういえばさ」
「ん?」
「前に流出したフォトやムービーあったろ。あれ覚えてる?」
顔じっと見られて思い出したんだ。ああいう動かぬ証拠品は覚えてるんだろうかと。
蛍は上体を起こしながら、首を傾げている。
「アエロのフォトか。実は消去してしまった。あのときは夢中だったのだが、今になると急に気持ちがなくなってな」
ああ、あれ、蛍の目には俺がアエロに見えちゃってたのか。本当に強烈な暗示だな。そして消したのか……なんかショックだな。いや、あんなもん残ってないほうがいいか。
「あ……あんなに可愛がってプロポーズまでしたのに、そんなに突然気持ちが消えるもんなのか?」
「さあ、俺にもよく……しかし、こればかりは自分でもな。それに、あれは若い。年の離れた俺よりふさわしい者がいるだろう。薄情に見えるか」
「気持ちがなくなったんなら仕方ないだろ」
以外に言えることもなく。そして今現在、蛍の気持ちはすでに俺になく。
そそくさと蛍の部屋を抜けて、鮫顔に会いにいった。こっちも別のデータリンクルームにいる。これ、いいよなあ。俺も捌きたい情報増えて来たんで欲しい。ツクモシップには入ってるが、ステーションにあるからな。
「うす。私掠船の件、ありがと。受け入れてくれる人みつかった?」
「おん。ちょっと萌文化圏の集団だけど、お前もそれだろ? クロネちゃんの生着替え見られるって言ったら快諾よ」
それ、俺と同じ宇宙船で息したいって言った奴と同じレベルでは? いやいいや、スキルと戦力があればそれで。
「キャリアは長いんだよな?」
「俺様ナメてんのか? あ? いい加減なトコ紹介するほどボケてねえぇんだよ。あ?」
「確認しただけだ。ありがと、サノ」
「へ」
椅子の背もたれに手ついて、鮫顔の頬に軽くキスした。鮫顔の目が見開かれてく。
「はぁあああ!? 何してくれてん……マッ、ふざけん%#&#*%+*」
動揺しすぎだろ。ただの挨拶に。俺はカサヌイのおっさんにもされてたぞ。
「いいじゃん、俺とサノの仲じゃん」
「どぉゆう仲だ、ァア!? テメー性格変わってねえか!?」
志摩とウィッカプールで揉まれていつの間にか……? 単独行動だと誰も助けてくれないからな。そういう場所に自分を追い込みたかった。俺の判断は正しい。
もっとも、蛍に対して奥手なのは今も全く変わってない。三つ子の魂100まで。
そういや、今は100年以上余裕で生きるよな。100までいったら根本的な性質も変えられるんだろうか。
「で、俺は何処に向かえばいい?」
「物資届けにウィッカプールに到着する。明日だ。とっとと準備しやがれ」
明日か。ホテルに長期滞在したから礼も言いたいし、ハッシュベルやドン・オクト、アリアンナ女史に挨拶して……
荷物まとめていざステーション、と踏み出したらハイドが「なんで俺んとこ来ねぇんだ!」って文句つけてきた。
「なんでって、なんで?」
「かなり? かなーり融通したろ。友達やん!?」
「もうちょっとお前と俺が加害者と被害者で、俺に命救われたことを自覚すべきだよな」
「まだ怒ってんの?」
「怒っちゃないけど、蛍がいい顔しな……」
あ、そうか。蛍も覚えてないか。たぶん、アエロが誘拐された記憶にすり替わってんな。
「ま、いいや。お前、またどうせチャットーキーで絡んでくんだろ」
「ダチやけんね!」
「なんで方言……あ、迎えきたわ。ツクモシップをハンガーに入れないと」
今んとこ、操舵といえる操舵はできない。ほぼツクモシップのAIに頼りきり。同化しちゃえばあんまり関係ないし……戦闘となると操舵の腕でかなり変わるらしいが、航行するだけなら問題ない。
私掠船のハンガーから入って、ツクモシップを出る。たくましい腕が差し出された。
「どーも、船長のアルレキオスです」
オリエント系だ。五分刈りで白い歯。手を握ると更に包むように手を添えられ、すりすり撫でられる。
「いやー、我が船に潤いが! むさくるしいのしかおりませんで!」
「あー? オスいらないし。メスがほしいんだよメスが。メス成分足りねぇえ!」
メカニックなのか? ハンガーで喚いてるブルーカラー。俺の心の結界が張られる。蛍なら、こういうの相手にどう対応するのかな……志摩王子とか。俺は見なかったことにすることしか出来ない。
鮫顔にタイプは似てるけど、また違う感じ。困る。メスメスおっぱいおっぱい叫んでる。女性器名称も叫んでる。どうしよう……どうしよう。
「おいハマツ。クロネさんが困ってるだろ。中枢の幹部だぞ」
「しらねーし。○○○もオッパイもついてないなら関係ないし。あとオレは顔のいい男は嫌いなんだよ、ブスメスに騒がれそうな顔しやがって!」
ないよ、騒がれたこと。陰口叩かれたことならたくさんあるが。
「すみません、クロネさん。育ちが悪いもので……ああでも腕はいいので!」
「はい」
「幹部っても菊蛍のオス○○○だろォ? メスアナルがっばがばー」
「…………」
ハマツさんの音声サンプル採取して、ミュート。ん、世界がすっきり。
「お世話になります、あるぇ…あるれきあ…ある……」
「ははは、アルで結構ですよ!」
この人はいいひと。爽やかな笑顔だ、過剰なほどに。
クルーは俺を除いて五名の小型船だ。小型と言っても宇宙船なんでそこそこの規模。電脳ワーカーみたいにオフィス他データリンクルームなど幅をとる施設がないんで、こじんまりながら不自由はないイメージ。
ラウンジに集められて紹介を受けた。
「先ほどハンガーにいたのがハマツ。メカニックです」
「*******(ミュート中」
「操舵手のイツモ」
「よ、宜しくお願いします! お会いできて光栄ですっ!」
えらい真面目そうな人、というかバッカニアと思えないほど普通の人。普通の惑星に普通に歩いてそうな。
「戦闘員のハーダとハダス。こう見えて双子です、二卵性だから似てませんけど」
「クロネちゃん、腐男子ってほんと?」
「アニメムービーだと何が好き?」
コンロン星系の人だ。笑ったような目が印象的。
「アニメムービーはあんまり……ゲームが好きです」
「お、タイトルは?」
「レセラですかねー」
「渋いね!」
「*******!」
「戦闘経験もそれほどなく、海賊との対戦もウィッカーとしてサポートした一件のみの未熟者ですが、宜しくお願いします」
「最初はそんなもん。俺たちの仕事は、基本的には通報することだ。応援要請に駆けつけたり、現行犯を発見したら応援が来るまで持ちこたえる。もちろん倒す場合もあるが、この人数だからね」
「****」
「ひとまずこの船のセキュリティを確認したいんですが、大丈夫ですか?」
「*****!」
返答を待ったが、誰も返事してくれない。お互いに微妙な顔になる。
「あの?」
「え、ハマツが……」
ああ、ミュートしてたから。ミュートを切った。
「赤の他人に触られてたまるかっての、この○○○!!」
「………」
ミュートした。
「すいませんね、ハマツはメカニックなものですから」
「いや、無理を言いました。新入りですし。ただ、機械感応のウィッカーなので、緊急時はセキュリティに介入することもあることはご了承ください……よっぽどのことだと思いますが」
「****」
「心強いですよ! ハマツ、お前いい加減にしろ。すいません、こう見えてもイイヤツなんです。口が悪すぎるだけで……ミスをしたことがないし、気配り上手で、ギャップに驚くと思いますよ。こんな奴もいるなんて宇宙広いとびっくりしましたから」
「はは……」
じゃあこのままミュートしとけば無害だな。
「我々の一番の仕事は規則正しい生活をして体調を整え、有事に備えることです。ゆえに! 娯楽に割ける時間も多い!」
船長の目が輝き、拳を握る。
「まあそのぶん、アニメの一番いいシーンで出撃とか、帰ってきたらゲームオーバーとか、よくありますけどね!」
「ははは」
笑ったけど、俺、そこまでコアなオタクじゃないんで……たぶん仕事してるだろうな。誘われたらたまにはゲームくらいしよう。
ところで、俺の生着替えで即答した奴って誰だ。船長か?
「さて、どうしましょうか。教育係をつけます?」
「俺らでやるよ、船長。いこう、クロネちゃん。船案内した後、ゲームしよう」
双子に手招きされてラウンジを出る。後ろでまだハマツが何か言ってた。
「いやしかし、すごいねクロネちゃん。ハマツの悪口雑言をあそこまでキレイにスルー出来るとは」
「ああまで無視されたら堪えるだろうなー、ハマツ」
「えぇと、あの人はどういう人なんですかね」
「ブリタニアのスラム出身。意外なことにブリタニアのスラムの人間は親切なんだ……ただ物凄く口が悪い」
ハマツが口の悪さ以外に欠点がないなら、ほんと良さそうなところだな。ウィッカプールに暫く滞在したから余計にそう思う。
船内設備は、洗浄ポッド。バイオプリンター。調理マシンなし。椅子一脚入る程度のサンルーム。フィットネスルームは結構広かった。
そしてそれと同じ大きさのシアター。うおぉ……さすがオタクバッカニア。拘りを感じるぜ。
「ここは見たいアニメでよく争奪戦になるから……俺らけっこう殴り合いの喧嘩とかするけど、いつものことだから気にしないでね!」
「寝室はカプセル型。カプセル大丈夫?」
「このタイプは初めですね」
正方形の蓋を開けると、棺のように狭いベッド。ただ、寝心地は悪くない。
「ちょっと楽しそうだ」
「防音になってるからイビキも聞こえないよ。急病その他緊急時はこのボタン押してくれ」
「わかりま……ハダスさん?」
ハダスさんは双子の大柄なほう。イカツめだが結構イイ男。それが口をへんなふうに曲げて噛み、ぶるぶるしてる。
「あーだめ! クロネちゃん可愛いっ!」
「ばか! 怖がらせてどーすんだ!!」
「だってなんかいい匂いするよ? 下手な女軍人よりドキドキするんだけど!」
「あの……俺、あんまりそういうこと言われない環境で育ったんですが」
「うそっ!?」
「ロマに拾われてから急に言われるようになって。何でですか?」
「何でって……」
「格好いいと言われた経験ならあるけど」
「ああ、そりゃ学生時代の同年代の女の子でしょ。もう社会出たら年齢差かなりあること多いだろ? そしたら十代の子なんか可愛いもんで」
「ああ、そういう」
「それにしてもクロネちゃんは可愛いよ!? 菊蛍さんと並んだり、志摩王子と並んでるともう眼福。ああーっ、映像でしか見たことないクロネちゃんが立って喋ってる。なんか輪郭ほっそりしてるし、唇小さいし、猫目がもう可愛い」
「そ…そうですかね………?」
この人らに比べりゃ可愛いんだろうが。やっぱ分からん。
「それと、解放軍による被害状況と、この船が戦う頻度を教えて貰えますか」
「俺ら規模の私掠船だと、まあちょっと増えたな、くらいに体感する程度。もちろん皇宙軍や各王国軍は大量発生したハエの駆除並に忙しいよ。俺たちの仕事は、彼らの取りこぼしを叩いて、ロマを救助すること」
「こういう私掠船は宇宙政府の認可ですよね。儲けが目的のようには見えませんが、やっぱり菊蛍の……」
「うん、俺たちは裏電脳ワーカー。もちろん、海賊の品まきあげるためのバッカニアも多いよ。こっちとかち合うとややこしいんで、そうと分かったら静観する。手出しすると戦利品のことで揉めるから。けど、そうすると被害者の救出が遅れることがあってさ……生粋のバッカニアは被害者のことなんかどうでもいいから」
「それは手伝えると思います、ウィッカーなんで」
「あー、機械感応頼もしいわ。有り難い。本当に有り難い。指くわえて助けられなかった人たち、けっこういるんだよ……そうそう、船長にはとにかく、俺たちには敬語なくていいよ」
「はい……うん」
「かーわーいーいー」
なんなんだこのノリは。恥ずかしい……
「で、どうする? ゲームする? それともアニメ見る? レセラが好きならオススメのやつあるよ」
「すいません。ツクモシップのデータリンクで確認したいことが。いつもって訳じゃないんで、また」
「うん、残念。中枢の人だもんね、忙しいよね」
「ウィッカプールでも大活躍だったもんな。さすが菊蛍さんの秘蔵っ子」
別に蛍に何か教わったことはないけど、みんなの認識ってそんなか。
蛍……会いたいけど。
今は俺が会いに行く理由、蛍のオーバーワークを止めるくらいだ。あの船には俺の部屋ってないし。もう蛍と同じ部屋に居座る理由がない。あそこは、今の蛍にとっては蛍とアエロの部屋なんだ。
……いっそ仕事とゲームに打ち込んで忘れよう! うん!
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