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宇宙というのは時折信じられない現象や物品が発見される。
かつて、ウィッカーがその一つだった。原理不明の魔法使いのような存在。が、実際は現実に干渉する仮想次元を利用した行為で、分かりやすく言うならリモコン操作のようなものに過ぎない。
実像を伴う技術も、それはホロによる視覚効果なのだ。
ウィッカー能力は解明されつつある、一般化した事例だが、そうでない、訳の分からないものは未だ多くあった。
そうしたものは「スプーキー」と呼ばれ、皇室研究所で保管・研究されている。現在の所長は末の皇子アスルイス・アーダーヴェイン・エル・ブリタニア。ブリタニアの姫を母に持つ、ブリタニア系の皇子である。
皇族の中でも特に知能指数が高いが、その高い知能をすべて興味の対象に注ぎ、他には一切回さない。
「ろーまーあー、頼まれてたアンカー事象の件、なんとなくうっすらぼんやり分かってきましたよぉ」
白衣の袖をふりふりしながら手を振る弟皇子に、皇宮で遭遇したシヴァロマ。
この宮には殆ど人がいない。ほぼがシステムによって賄われている。セキュリティクリアランス最上位である皇帝陛下の居城である以上、心変わりする可能性のある人間を置くほうがよほど危険なのだ。
よって、陛下の許可さえあれば、皇族は割と自由に宮を移動できる。なかなか来ない双子の弟に苛ついて、行儀悪く右往左往していたとしても、咎める者すらいない。アスルイスがへらへらふよふよ皇族らしからぬ態度でいたとしてもだ。
皇宮での出来事は、すべて皇族内での秘め事だ。
「うっすらぼんやりであるか」
「うっすらぼんやりですねえ。だって私はウィッカーじゃないし、理論的に分かったって感覚的には絶対に理解できないですからあ」
「で、どのようなものか」
「まず、名称はアンカーというより、ターゲットポイントと呼んだほうが的確」
アスルイスは虚空に人間のシルエットを映し出した。
「ブリンカーに限らず、ウィッカーは意識体内で「ココ」って狙いを定めるよね。意識体を遠くに飛ばす際は、経由に便利な場所を感覚で覚えておくんだって。それがアンカーと言えばアンカーかな?
ブリンカーの行動から察するに、彼は宇宙船などの隔絶された空間の中には入れない」
「一度、俺の船に入られたことがある……」
「それは皇星から出る前に入られたと思うなぁ。
ブリンク能力者の殆どは、その場で点滅するように動くか、多少の移動しか出来ない。
これは、ボールを投げる時に腕力の関係で飛ばないようなもの。言ってみるとブリンカーはすっごく腕力があって遠投できるウィッカーと推定される。さらにコントロールがいい。狙っても狙ったところにボールを飛ばせないことだってあるからね。
ブリンカーは経由地点を記憶してるんだと思う。皇星なら中央ステーションかな? そこに侵入さえすれば、皇居にもブリンク移動できる」
「一度、ヤマト宮に侵入された形跡がある」
「ということは、今はそこも。ステーションは幸い、人が多いしカメラも多い。ヤマト宮に侵入されたときは、猫ちゃんが視覚ジャックしてたから、侵入ポイントさえ見張れば大丈夫」
「ヤマト宮にはどうやって入ったのか……」
「彼は猫ちゃんと接触したろ。その時に細工をしたと思うよ。でなければあの視覚テロの最中に猫ちゃんを助けに行けないよね」
つまり、ブリンカーは「人」と「位置」をアンカーにしている。人を使う場合は、制限がありそうだ。でなければもっと自在に動いているはず。
「問題点は志摩の厳重なリモートルームに侵入したこと。
ヤマト宮からの救出直後に、君の船に潜入して猫ちゃんの能力を使ってプロパガンダを行ったこと。
おかしいよね。猫ちゃんの能力を熟知して、的確なアイテムを持って利用し、見つけにくい場所にいた彼を探し当てて連れ出した」
アスルイスの設問にシヴァロマは考え込んだ。
猫―――つまり黒音の能力が発覚したのはウィッカプールで誘拐された際だ。
しかし、それだけで理解出来るなら、志摩も猫の育成にこれほど手間取っていないだろう。
シヴァロマの妻である志摩王子を育成したカサヌイは、間違いなく宇宙規模でハイレベルな教師だ。その彼ですら未だに頭を悩ませていると妻から聞いた。
「……もし困ったカサヌイが相談するならば、志摩のウィッカーラボの研究員か」
「それ。たぶんブリンカーの協力者です。猫ちゃんが志摩に預けられて薩摩に拉致されるまで、だいたい半年。準備する時間が十分にあるよね。研究員なら侵入の手助けすら出来るかもしれない」
「すぐにエージェントを手配する」
「もう一つ。薩摩に猫を攫ってアジャラを誘導したのも、ヤマト宮に連れ帰るであろうことを予測して連れ出したのもブリンカー。アジャラを尋問しないと。
わからないのは解放軍の目的かな? つまらない挑発ばかりして、君とデオルカンの信用を下げる行為ばかり。不信任案が出てるんだっけ」
「不信任と言っても、よほどのことがなくば……」
その時、皇宮にけたたましいアラートが鳴り響いた。それだけでなく、緊急事態に備え、皇宮のセキュリティレベルが最大規模で動き出す。
「なんだ!?」
シヴァロマは驚愕した。なぜなら、自分が、アスルイスが此処にるからだ。皇宮になにか事件が起きたにしても、最大セキュリティが展開される前に、シヴァロマとアスルイスに通達があるはずなのだ。なぜ、作動した?
『緊急事態発生。陛下の生命反応の消滅が確認されました。皇星における全セキュシティシステムはただちに緊急体制に入ります』
「へ……い、かが?」
「先手を打たれたにしても、タイミング良すぎるね」
呆然とするシヴァロマよりも、アスルイスのほうが冷静だった。
「シヴァロマ、時間がないから僕の考えを言うよ。
解放軍の海賊行為の狙いはこれだ。君が皇居にいるタイミングで陛下を弑し、君とデオルカンを不信任に追いやることだ。
皇宙軍と皇軍警察には僕とアジャラが配置される。次の皇帝はクラライアだ。
敵の最終目的は未だ不明だが、大喪の礼にはロマの王と猫が来るぞ。ブリンカーが彼らに何らかの接触を図る可能性がある。注意してくれ。
それと、シヴァロマ―――僕は敵じゃない。信じてくれ」
セキュリティシステムに包囲され、ボットの手によって拘束される二人の皇子は、それぞれ連行されていった。
***
このたび、ロマの国が本格始動しました。
名前はアダムアイル・ロマ王国。アダムアイルってのはアダムアイル系文化人類種族の名称。テラニーとかヒューマンは人類を指す言葉だけど、アダムアイル文化に属している人類っていう意味だ。
アダムアイル、つまりヤマト星系やらガリア星系などで育まれた、テラ由来の文化のこと。アダムアイル言語を使用する際もアダムアイル・ヒューマンに分類される。
あくまで名称だから政治的な意味はない……のが表向きで、ロマ王国は宇宙政府と二人三脚で経営されていく予定。
その建国セレモニーで、蛍の「ファミリア」であり、ロマ王国初のファミリアでもある俺は軍服にマントで参列してた。完全にバンカラさん状態。おかしいな、デオルカン皇子とかが似た格好しても学生には見えないのに。
蛍は綺麗だったよ……
ヤマト伝統文化の担い手として有名だった蛍に何を着せるべきか、サノたちデザイナーの苦悩は尋常なものじゃなかった。蛍は着物を着て生活するよう躾けられ、和装での動作が最も美しい。だけど、ロマ王国の統率者となる蛍にヤマトの民族衣装は着せられない。
だからヤマトともコンロンともつかないデザインのマントのような羽織に、スマートなファイバースーツという衣装になった。
なんと言っても目立つのが菊花をあしらった巨大なボンネット。王冠代わりだってさ。これがめちゃくちゃ格好いい。ボンネットってデザインによってはかっこいいものなんだ。赤ちゃんとかお嬢さんとかが被るもんだと思ってたよ。
メディアに晒されながらのセレモニーが終わって一息つくと、志摩王子から『おめでとう!』と祝電が入った。
『晴れてロマの後継か。そうなるとは思ってたが、改めておめでとう』
『それさ。何の説明も受けてないし、そうだと公言された訳じゃないんだけど』
どうしてそうなったか分からない。第一、みんな納得できるもんなのか。
『だって、菊蛍も鷹鶴もそのつもりでお前を育ててるだろ。お前と付き合いのあるネームドは少なからずお前をそういう目で見て優遇してるんだよ』
『志摩王子も?』
『俺も割と初期からそうな。婿どのだってそうだろ。もちろん、お前自身を好ましく思ったからだ。
そういえばその関係で、お前の実父がお前の籍を欲しがってる。志摩姓持ちのロマの後継になるからな』
俺の実家?
なんだって今更……こういうことになったからか。いくつかある志摩の分家はどこも微妙だという話は聞いてる。志摩王子の右腕であるクラミツ王子なんか、身売り同然で当主一家に差し出されたらしい。
『お前の母親に親権寄越せって騒ぎ立てたみたいでな』
『はあ!?』
『発覚次第、法的措置を取った。もうお前の実父が母親に干渉することはできないし、菊蛍が颯爽とモンペを発動して分家が震え上がった』
『また一体なにを……それより、俺の実父って結局誰なんだ』
『言ってなかったか。クラミツの親父だよ。お前はクラミツの兄貴』
うそだと言ってくれ。
クラミツ王子って言ったら、志摩王子の右腕で、志摩宙軍のエース、皇族並の美貌を兼ね揃えたスーパーでハイパーな王子様だぞ。
ナナセ姫は「いいひとなんですけどもー」と歯牙にもかけてなかったが。ウィッカー王家である志摩にとってウィッカーじゃないってのはマイナス要素らしいからなあ。
それはともかく、あんな超絶美形の完璧超人が弟。申し訳なさすぎて吐きそう。
それを言ったら志摩王子は笑った。
『クラミツはお前が思うほど超人でもなんでもないポンコツだよ。ああ見えて抜けてる。海賊が艦隊組んで襲ってきたら浮足立って危うく全滅の憂き目に遭ってさあ』
それはクラミツ王子じゃなくても浮足立つと思うが……
『クラミツは俺の腹心で親友で兄弟だ。菊蛍と鷹鶴みたいなもん。共謀者ではあるが、俺と同じ目線ではいてくれない。どう足掻いても家臣だしな』
どれほど気安くても、そこらへんは線引きしなきゃいけないんだろう。
『俺はさ、お前に会えた時嬉しかったんだよな。
最初はヘンな奴だと思ったよ。強くなるにはどうしたらいいですかって。蛍守りたいって』
『そ、その節はどうも……』
『そこがお前のイイところ。そのノリでドン・オクトにもグイグイ行ったろ。人見知りのくせに、ヘンに根性据わってるんだよな。
クラミツとお前を比較する気はない。得意分野が違いすぎるしな。
俺もじきに成人してヤマト王になる。お互い立場は変わるけど、変わらない友情を願うよ』
感動してまうやろが……!
志摩王子にこんなふうに言って貰えるなんて幸せ者だな。もう少しで志摩王になるのか。感慨深い。
盛り上がってるとこだったが、蛍が帰ってきたので出迎える。重ったるいボンネットは脱いでいたものの、げんなりした様子だったので、羽織を背から外してやった。
「すまんな。しかし、ふふ。そうして貰えると、家族になった実感がわく」
「俺は介護の気分」
「それも家族には違いない。嬉しい嬉しい」
くっ、可愛いなこのジジイ。
「いま、志摩王子と話してた。本気で俺を後継にする気か?」
「逆に問うが、今のロマに俺の後継に相応しい年齢で皆が納得する若者が他にいると思うのか?」
そんなん知らんわ。けど、中心人物は母艦に集められた裏メンバーたちだったのかな? そうなると候補に上がるのは……
「クヴァドくんは?」
「皆が納得すると言ったであろ。クヴァドがふさわしくないとは言わんが、キョトンとされるわ。だが、第二後継者には指名しておこう。俺とおまえの二人が同時に死ぬ可能性もなくはない。お前に何かあれば俺も無事では済まんしな」
クヴァドくんの責任が思ったより重大になった。どういうことだ。鷹鶴がなんとかしてくれるか……? なぜか鷹鶴が候補から外れてるのも不思議だが。
「後日、正式な立太子の儀礼を執り行う予定だったが、それができなくなった。公にされていないが皇帝陛下が崩御された」
かなりの大事件じゃないか。そりゃ葬儀のほうが先になる。
「先代とは違い、ロマに理解を示し我々を導いてくださった偉大な皇帝であられた。本当に惜しい方を亡くした―――
皇位はクラライア皇女が継がれる」
「あれ? 双子皇子はアスルイス殿下がって……」
「双子皇子が解任された。この時期に亡き陛下の穴を埋められるのがクラライア皇女しかおらん」
解任、だと。
慌てて志摩王子につなぐ。
『へぁー! 聞いてないけど!!』
いかん、嫁の志摩王子にまでオフレコとは。
「志摩王子知らないみたいだけど」
「これこれ、お前もロマの後継になった身なのだから、宇宙政府側の人間にあまり情報を垂れ流すでない。シヴァロマ皇子は現在取り調べで勾留中、俺は独自の情報網から調べたのだ。先に口止めすべきだったな」
だから俺なんかをホイホイ後継にすべきじゃないと思うんだが。何の教育も受けてないぞ。
『ど、ど、どういうことだ!』
ややこしいので蛍に目配せし、志摩王子と蛍を繋ぐ。
『不確かな情報ゆえ、不明確な点は許されよ。皇帝陛下は弑逆され、双子皇子とアスルイス皇子が勾留中である。志摩王子にも連絡できん状態であろう』
『………ロマの目ってのは皇星にもあるのか? クロにも継がせる気なら扱いには気をつけろよ』
『心得ておる。遅れたが、王になる身ゆえ、そちらに対して慇懃な態度はとれなくなる』
『わかってるよ。俺も王になるんだぞ、そっちの都合くらい弁えてる。それにしても婿どのが……何があったんだ』
『そこまでは不明である。障りなければ皇子からの連絡があるはずだ。心静かに待たれよ』
『くそっ、こんなときに……ああ、建国おめでとう。ヤマト王になったら正式に祝意を贈らせて頂く』
当主ですらない志摩王子から贈られるのと、ヤマト王から贈られるのでは意味が違ってくるから、その配慮みたいだ。
志摩王子との通信が途切れると、それを待ってたのか鷹鶴から部屋に直通のトーキーが入った。
『お休みのとこ悪いんだけどさ。ファミリアについて興味がある、もしくはクロートの立ち位置がよくわかんないって質問が殺到してんの。暫定でいいからお前にとってのクロートってのを教えてくれよ』
「クロネが俺の何であるか? ……天使だな」
恐るべきことは、蛍がそれを真顔で言い切ったことだ。
「正確には『幸運襲来・親方空から天使が棚ボタ』である」
『言いたいことは分かるけど続柄・天使って説明しにくいぜ』
「たとえば咲也をファミリアに加えるならば?」
『……天使、としか言いようがねえな』
駄目だこいつら。
『逆にクロートにとって蛍は?』
「天使の顔した魔王」
『うーん、言いえて妙なるかな! でも続柄の話だぜ!』
「親子だろ。そもそも俺は名称のない家族と言ったはずだ。だから続柄はなくて、名前・年齢・セックスありなしで登録させればいい。
セックスなしの契約でセックスしたら有責離別、未成年を引き取ってセックスしても有責離別でいいだろ。成人してセックスを視野に入れるなら登録変更ってことで」
『ナイス、クロート。君ってやっぱり頼りになる。蛍、そろそろロマの目をクロートに弄らせておけよ』
「言われずとも、そのつもりであった」
ロマの目?
そういやさっき、志摩王子も言ってたな。というか、前にもたぶん聞いたことがある。電脳ワーカーが持ってるカメラのことだと思ってた。
「ロマの目とは文字通りの目である。カメラも見るが、それだけでは行き届かぬものだ。特に内部事情などというものはな」
蛍に手招かれ、データリンクルームに入る。虚空に浮かぶモニタをひとつひとつ改めて眺め、確かに視点が動いているものが多いことに気づく。
悪いと思ってここは覗き見たり、ハッキングしたりしなかったんだよな。一度だけやったけど、あのときは暴走状態でよく覚えていない。
「強制移民や違法ロマ取引などで救出したロマの中や、私生児を奪われた親族には、生きる目的を失い働くことが難しい者がいる。身体的に労働が可能な者はロマの目として宇宙に放つ。
彼らにとってロマの為の目として生きることは自我を保つ最後の手段である。これからもそういった者は絶えないであろう」
いつか志摩王子が言ってた「何万か何十万かいる蛍の信奉者」ってのはこれのことか!
ハニトラ的なものを想像してたが、もっとガチのやつだった。生きる理由そのものを蛍の目になることに命賭けちゃってる連中なんだ。
でも、気持ちはわかるなあ。それにしか縋るものがないなら、自分のようなロマの為になれるなら、蛍の為になれるなら。
何かが違っていれば、俺もロマの目になっていたかもしれない。
「ロマの目はAIが情報統制しており、此方に連絡することが出来ない。ロマの目との通信は、ロマの目を工作員として告発する行為に等しい。
ゆえに我々はロマの目を覗き見ること、一方的に指令を与えることで宇宙の様々な地域の事柄に干渉する。
このたびの皇帝陛下暗殺も、皇星で活動するロマの目から得た情報だ。彼らは連絡手段を持たないため、こちらに伝えたいことがある時はその情報を書き留めたり、事件を眺めたりする。指示したわけではなく、自然とそうなるのだな」
それしか手段がないなら、まあそうなるよな。
なるほど、通信もしないなら告発なんて出来っこないし、ばれないんだ。眼球に細工をしてあるのか? 生体機器なら、それ用の検査をしなければ判明しない場合もある。
なんとなく、初対面で蛍が俺の角膜を褒めたことを思い出した。蛍はそうやってロマの角膜を見てきたのかもしれない。
「基本的には俺が。交代で鷹鶴が。ロマの目を見張り、時に指示を出す。場合によっては自ら赴いていた。
これからお前もロマの目を操作する側の人間になる。俺よりも上手く使うだろう。ただし、見る目は養わなくてはならん。
いずれ継がせようとは思っていたが、お前は家出もするし、なかなかな」
「……もしかして、戦闘もウィッカーもやめていいってのは」
「うん。これを継がせようと思っていた」
あっちゃーだな。でも、せっかくのウィッカー能力を不意にする理由にはならねえよ。ロマの目をうまく使う才能はあっても、有効活用する才能のほうは怪しいところだ。
データリンクは、AIが情報分別してくれる精度の高い情報収集システムだ。こいつを俺の機械感応、ツクモシステムと連動させたらちょっとおもしろいことになるだろう。
「問題はお前が夢中になるあまり倒れたり、能力暴走に陥るであろうことだ。俺でさえ抜けられずに泥沼になることがある。
帰って来られたからいいようなものの、また時間を跳躍されてはたまったものではない」
そうそうあってたまるかよ、あんなこと。
そういや、時間跳躍の件で双子皇子と話そうと思ってたのに。事が事だから、カサヌイに話していいものかも悩むしさ。宇宙政府の機密とかだったら困る。
なんにせよ、シヴァロマ皇子が弑逆に関係してるはずがない。ブリンカーが跳んできて皇帝を殺したんだろ。皇子はそれに巻き込まれただけだ。
けど、ブリンクって超AIが絡んでるんだっけ。人を見限って宇宙を移ったAIが、暗殺に加担するようなことすんのかな。
その晩、おかしな夢を見た。
ひどく淫猥で醜悪で、マニアック。夢の内容は忘れたが、不快だったことを覚えてる。夢精にしては最悪だった。
どうせなら蛍の夢を見たかったもんだ。
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