アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
43
-
「このような形でしか事を成せなかったのか」
敬愛する王の叱責に言葉もない。
彼を救うはずが彼に救いを求める形となった。だが、力及ばなかった……あまりに大きな渦に呑み込まれ、もう身動きもとれない。おそらくは誰であっても。
これを歴史と呼ぶのか運命の波とでも呼ぶべきなのか。
「ですが、約束はひとつだけ果たせたように思います。私の力ではこれが限度なのかもしれません」
「約束……俺を救う、というか」
「はい。猫はお気に召しましたでしょう」
「クロネがなんだ?」
「あれは、貴方の無意識の願望が顕れたような存在でしたでしょう。あれらは貴方のお気に召しますよう受精卵をデザインさせた子らです。中でも黒音さんは想像以上の完成度でした」
「は――――」
なぜか、菊蛍が力を失った。肩から力が抜け、目から光が消えていく。
告げるべきではなかったかもしれない。ただ、彼へのプレゼントを喜んで貰いたかっただけだったのだ。
***
えらいことになった。
ちょっと整理。俺も訳が分からない。
まずだな、ことの始まりは俺の能力を利用して解放軍とやらが出回り始めたこと。
これには志摩のウィッカーラボに敵側のエージェントが潜んでいたということが分かってる。が、その存在は不明。カサヌイは俺のことを誰にも相談なんかしてない、能力が能力だけにカサヌイだけの極秘機密として扱っていたようだ。そういうところはあのおっさん、ちゃんとしてんだよな。
で、解放軍が暴れて何が目的かと思えば、ニブル双子皇子への不信感を煽るため。
この後、皇居にシヴァロマ皇子がいるときに皇帝暗殺が為され、双子皇子が解任される。
同時に皇帝の葬儀で要人が出払ってる、主に俺がいない隙を狙ってハイドが暗殺される。
思い出せないが、ハイドと俺はなにかの研究をしていたらしい。その研究が敵側にとって不利になるものだったからハイドが殺され、俺の記憶が消されたと。
なんで俺が殺されなかったのかは不明。
そしてクラライア皇帝が突如として人類へ宣戦布告。
ハイドの犯人探しに俺がロマの星を出、ヤマトへ向かい、志摩に釘付けにしといて皇軍とは別の、しかし明らかに繋がりのある謎の集団がロマの星を占拠。
そこらの海賊なら相手にならんが、ステルス艦隊組んで来られちゃ全面降伏しかできない。
本来なら皇軍や志摩、双子皇子や葛王子、更には艦隊にも陸戦にも強い俺が守るはずなんだが、その全てがヤマトの守護に集結してた。
皇軍がロマを放置していたこともあり、ここでまさかの侵略だった。
「この所属不明の艦隊ってのは何処から沸いて出てきたんです」
「実は以前、俺とタカラ・シマがとある惑星で起こったテロ事件を鎮圧した際、謎の軍用モビルギアが出現したことがあった。あれもクラライアの仕業だったのではないかと考えている」
艦隊の出処はクラライア皇帝。皇軍総帥という立場とはいえ、よくも宇宙政府の目を欺いてそんなもん造れたもんだな。
あまりに周到であまりに狡猾。こっちはいつも後手後手だ。蛍や双子皇子でさえ振り回されっぱなしというんだから、俺なんかもう話に追いつくだけで精一杯。
「蛍たちは無事なのか……?」
ロマの惑星の仮想次元は圏外になっている。おかげでセキュリティも人形もジャックできない。戦時下で占領されるとよくあること。戦争自体が滅多にないけどな。
ハイドの目ではロマの惑星は届かない。ロマの目はあのデータリンクルームからじゃないと監視できないし……
「相手海賊なんだろ。鷹鶴はとにかく蛍が何かされてたらどうしよう」
「その場合はうまくやるだろうさ、囚人兵を掌握した男だ」
志摩王が軽く笑い飛ばす。そういう問題じゃないんだよ! 俺がイヤなんだよ! やっと愛人関係精算してくれたってのに。
それに、また蛍がロマのために犠牲になると思うと……蛍はセックスなんか好きじゃないんだ。俺とシてくれるのは、俺の反応見てあやして遊んでくれてるだけ。
「……ちょっと荒業になるけど、行けなくもない、かな」
「なんだ?」
「カサヌイのおっさんは覚えてると思うけど、暴走状態になって意識だけブリンクしたことある。あれで様子見にいける。それにやろうと思えば…あ、あ?」
眼の前が白く点滅した。クラミツが倒れかけた俺を支えてくれた。少ししたら収まったけど、ふっと彼の顔を見たら何故か蛍の顔と重なって―――
助けを求めているのに笑い転げる蛍
「あ、う、うう。ううう。ううううう」
「クロ、どうした! 医者はまだか!?」
その後どうなったのか、会議室にいたはずなのに医務室で仰向けになってた。目ぇ開けたまま。瞬きすらしてなかったらしく、眼球乾燥予防のゴーグルをかけられていた。
「俺……」
傍らに付き添ってくれていたクラミツを不安に見上げると、彼はその綺麗な顔で微苦笑した。
「大丈夫です、何がトリガーになっているかは把握して、此方で原因究明及び研究しているので。心配せず過ごしてください」
「うん。迷惑かけてごめん」
「タカラの世話焼くことに比べれば何でもないので。頼ってください、兄さんの為になれるのは嬉しい」
いい子すぎるし出来る子すぎる……弟尊いな。
「少し進展がありました。占領した勢力はロマ解放軍です。目的は不明ですが、ロマ王子である貴方と俺は受け入れると」
「……受け入れるって」
おそらく敵は既に機器類に何らかの細工を施してる。じゃなけりゃ酸素の供給で一網打尽に出来るから。
思えばおかしかったんだ。ブリタニアから貰った母艦、タイミング良すぎた。それにカメラには俺たちの知らない細工がしてあった……
となるとブリタニア王か、ブリタニアの製造所が敵側ってことだよな。ゲームクリエイターはロマだけど、少なくとも蛍に処分を受けた二人も敵。
「その声明を受けたのは?」
「タカ……志摩王です」
「それはおかしい。なんで俺やお前に言わないんだ。彼らには関係ないとだ。連絡手段は一切ないか」
「ありません」
「わかった……クラミツ、来てくれるか? 俺は軍の指揮経験がない」
「というと」
「ウィッカプールで義勇軍を募る。それとロマ・バッカニアに連絡をとる」
かなり寄せ集めの軍勢になるが、それでも戦えないよりずっとマシだ。
「志摩王、志摩の守りを離れる上にクラミツを連れてっちゃうことになるけど」
「いいよいいよ、クラミツはお前の弟だし、今はロマのロイヤルファミリアってやつだろ。こっちは葛王子も双子皇子もいる。安心して行って来い」
志摩王の寛大な処置に感謝。
まずツクモシップと接続してデータリンクを開始。
『お久しぶりです、船長』
『クロネ様! よしてください、敬語なんか。それよりロマの国はどうなってしまってるんで。サノさんとも連絡がつきません。下手に動かないほうがいいと待機してましたが……』
『それで正解。他のロマ・バッカニアに連絡は?』
『情報網があります。そちらにデータ送信しますね』
『もうひとつ。ロマ・バッカニアはロマの星を奪還するために戦えるのか』
『もちろんです! だって我々の帰るべき場所でしょう。この仕事を天職だと思っていますが、いつまでも宇宙に漂流していられませんよ』
「それは他のロマ・バッカニアも?」
『当然です。この事態で静観する奴がいるなら、そいつは敵と見做して結構ですよ』
うん。頼もしい限り。問題はウィッカプールのほうなんだが。
「ハッシュベルさん、ウィッカプールで義勇軍を募ったらどのくらい集まりますか」
『海賊や極貧生活に嫌気が差している連中はいくらでも名誉のために戦いますよ。彼らはいつでもそういうヒロイズムを求めていましたから。それより物資のほうが問題かと。アテはありますか?』
それなんだ。ウィッカプールは物資を恵んでもらう立場にあるし、宇宙を漂流するロマ・バッカニアに物資なんかあるわけない。志摩からこれ以上搾取するわけにもいかねーし。
考えても考えてもアイデアをひねくり出せなかったんで、最後の手段、オオタチ爺ちゃんに助けを求めた。
「爺ちゃん久しぶり。たすけて」
『おうおう、滅多に連絡もよこさねぇで。たまにゃあ遊びにおいで……今ァそれどこじゃねえやな。蛍は無事かい』
「たぶん、そうだと思いたい。無血開城だったみたいだから。
蛍と星を解放するために軍勢集めてんだけど、物資の捻出が出来なくて困ってる。ウィッカプールから何らかの報酬は渡す、なんならカジノやスデゴロ闘技場の権利をあげてもいい」
『スデゴロ闘技場? そんな粋なモンあったけかいね』
「俺が作った。ハイドの物騒な殺人闘技場をスデゴロに変えたらこれが大繁盛」
『ははは、お前さんは良い統治者だ。あの可愛いだけだった子猫がこんなに成長しちまって、爺ちゃんは涙ァ出そうだよ』
へへ、爺ちゃんに褒められちゃった。
『カジノの権利とステゴロ闘技場の権利の件、了解した。物資については心配すんな。あらゆる手でかき集めたる』
「あ、あんまあくどいことはしないでね……」
『なに、チビ助が心配すんな。ヤマトマフィアは義理と人情で成立しとんのよ』
猫から子猫、チビ助になった。これは果たして評価上がってんのか……?
「凄いですね。あっという間に戦争の算段がついていく。菊蛍の再来と呼ばれるだけはある」
後部座席でサポートしてもらってたクラミツに言われて首をかしげる。
「再来? なんで」
「知らないんですか、有名ですよ。クロネの活躍は、まるで菊蛍が出現した時と同じだって。
芸人から出発して様々な有力者とコネクションを作り、信奉者を増やしてると……」
「しんぽーしゃ? ウィッカプールのアホどもだけだろ」
「ヤマトマフィアを動かすことがどんなに凄いことか! あの爺さんにはタカラだって手を焼いてるので」
「気のいい爺ちゃんだよ?」
「まさか! 気難しい爺さんで。ヘソ曲げるとテコでも動かねえ」
「俺、初対面んときアポなしで蛍と一緒のとこ押しかけてって、そのあと二人であんみつ食いに行ったよ。爺ちゃんは優しいよ」
「………とんでもない兄を持った気がする」
ええー、いやそんなことない、百歩譲って俺に対して甘いとしても、それは蛍のお気に入りだったからと思うんだよな。有力者とのコネだって蛍ありきの話で、更に言えばクロネ自体が鷹鶴のプロデュースだ。
ゼロから積み上げた蛍たちとは全然違うよ。
ともあれ着々と戦の準備が整っていった。ロマ・バッカニアから有志を募って使者を立て「こういう軍勢がいくから首洗って待ってろよクソどもが! ロマ王子ウィッカの王より」というメッセージを敵に伝えた。殆ど原文。
蛍たちを人質に立て籠もるのは間違いない。が、蛍たちが黙ってしおらしく人質になってる訳もない。相手方にブリンカーがいるのが厄介だが……
とりあえず最優先したのは、全員のロマ王軍とウィッカ王軍の軍帽揃えること。その両方を意味する俺の特殊軍帽を制作すること。サノがいねえからデザインに苦労した。
兵の服装は滅茶苦茶だが、とりあえず軍帽だけは統一。流石にただの烏合の衆じゃなあ。
「個々人の能力はそこそこ高いのですが、全体の練度は低いです。どうにか半年……いや数ヶ月で連携できるように」
「あ、それは問題ない。全艦隊俺が動かすから、それに合わせてもらうだけでいい。指揮はクラミツにとってもらうことになるけど……」
「有事においては反則気味の能力で」
俺もいつ使うんだよこんなん、と思ってたが。葛王子と同じく使い所がないならそのほうがいいような能力だ。生まれる時代が違ってたら、幼い頃から軍部に利用されてとっくに虐殺王だったんだろう。
俺はとにかくコネコがそんな憂き目に遭うのは冗談じゃない。
そうは言っても宇宙規模ならたかだか惑星一個分の範囲なんだよな。それより外側や別働隊の訓練を重点的に行った。ちなみに、場所は惑星葛。
『全艦隊y15を移動! 右翼遅い、ケツを深く割るぞ!!』
教官は宇宙が誇るウォーモンガー皇子。どうすんだよこの皇宙軍仕込みの教練。
『苦しいか貴様ら! 貴様らの脳は解放を求めて充填している! 戦争は楽しいぞ、人殺しは楽しいぞ! 人間とは他者を殺して成り上がる生物なのだ! 現代社会でそれが許されないから抑圧されているだけだ。
だが! 戦争では殺しが合法化される。喜べウジ虫ども、殺しが出来るぞ! 殺せるぞ!!
訓練で得た知識と技術と鬱屈で憎い敵を蹴散らす様をイメージしろ! 脳内で殺せ、実際にも殺せ、殺せ、殺せ、殺せ殺せ!!』
どうすんだよこのウォーハッピー。ヒャッハー状態だよ。
異様な盛り上がりを見せる全艦隊と他所に、俺とクラミツは冷静だった。というか異様な光景に冷静にならざるをえなかった。
「実際どうだ? 使い物になりそうか」
「皇宙軍仕込みなのでどうなるか……このテンションを維持しないと士気が下がるかもしれません。が、俺の取り柄はこの声です。こいつで叱咤激励するとけっこう兵が盛り上がってくれるので」
何しろイイ声してるからな。声って偉大だよ。蛍の美しさを引き立ててるのも、あのよく響く澄んだ声も多分にある。
顔の美醜って上限あると思う。蛍が顔だけでクラミツや皇族の上を行くわけじゃないんだ。とにかく所作、雰囲気、視線や表情の動かし方、服飾センス、美声なんかが作用してる。
ちなみに、この有事に際して葛王子をワンマンアーミーに仕立てた元囚人兵シノノメたちが帰ってきた。
「シノノメー!」
「王子! 大きくなりましたね」
「なんで帰ってこないの! ばかー! うあぁああん!」
シノノメは想像に反して知的そうな男だった。なんでも娘を強姦殺人した男を、頭に血が昇って殺してしまったそうで、情状酌量として蛍と同じ「出られる」監獄に収容されたそうな。
他の面子もそんな感じ。
「ロマ王子様がた。我々は出身こそロマではありませんが、今の立場はロマと同じ。何より菊蛍には大層世話になりました。
我々を如何様にもお使いください」
いや、葛王子の育て親にも等しいあんたらを如何様にもは使えねーよ。
とはいえ熟練の囚人兵が入ってくれたのは助かる。作戦の幅が増えるってもんだ。
「まず基本として兵站を潰したい。要するにブリンカーがいる中での仮想次元復旧作業だ。過酷なスニーキングミッションになると思うが、これが出来れば一気にカタがつく。
出来るか?」
「やってみせましょう。尤も、時間は必要です。すぐにでも出立します」
えっ……やれと言ってなんだけど、侵入する算段つくの。すげーな元囚人兵。蛍も王なんかじゃなけりゃ、その能力をフルに発揮できるんだろうに勿体無い。
と、ここでもう一度敵からの使者が立った。さすがにこっちまで来なかったが、哨戒中のロマ・バッカニアを通してメッセージが届けられた。
「ウィッカの王におかれましてはいっそうご清祥のこととお慶び申し上げます。我が軍にウィッカ王との交戦の意はなく、ロマ王もお望みになりません。つきましてはウィッカ王の人形にて会談を致したく存じます」
これって要するに「人質いますんで勘弁してください、戦いたくないですイヤです、ちょっと話そうぜ、な?」って意味だよな?
人形の使用を認めるってんなら行くしかない。蛍の無事を確かめたいしな。
ツクモシップを目隠し状態にして意識を飛ばす。此処なら何かあってもツクモシステムが俺を起こしてくれる。
目覚めた先に蛍の憂い顔があった。人形抱いてたみたい。
「蛍?」
「クロネ!」
ぐえっ、やめろ、よせ! この人形はいかなる刺激も快楽変換するんだから締めるな!
場所はよく見慣れた母艦の自室。蛍も外傷はない……そんなもん、医療機器でどうにでもなるが。
「無事だったか、蛍」
「お前こそ……敵艦隊と交戦したと聞いたが」
「いつの話だよ。それこそ無欠勝利。艦隊戦では無敵の能力だからな」
「ふふ……」
憔悴した様子だったが、笑った顔が見れた。
「何があった?」
「当然ながら惑星の周囲にはステルス感知の衛星装置があった。しかし、ブリンカーがそれを切ったようである。その隙に現れた艦隊に囲まれ、否応なく降伏だ」
それに加え、徹底して仮想次元展開妨害が仕掛けられている。人形内部だけに独自仮想次元を展開してこっちに移ってる。
俺が独自仮想次元を構築できることは、ハイドのマイクロチップで知ったんだろう。おそらくはコピーされてるんだろうな……この仮想次元を限定する高度な技術に関しても、ハイドの影響を感じる。
「何もされてないよな? ヘンなことされたり」
「ない。敵の幹部が俺の知人で、それに……奴らは俺に敬意があるらしい。中にはロマの目もいたよ」
「なんだそれ。二重スパイってやつ」
「そうとも言えん。ロマの目として俺に尽くしながら、地下組織として活動することは二律違反にならんのだ。詳しくはブリンカーから話を……」
会話の途中でトーキーが鳴った。失礼します、と慇懃で静かな声音が響き、扉が開く。
それはヤマト宮で俺を救ってくれた男だった。
「何が会談だ、このクソ野郎」
「落ち着いてください。これでは会話になりません」
「会話をする気がないと言ってる。
俺はな、ロマの後継になったのも、ウィッカの王になったのも、これだけ苦労してるのも、ぜんぶ蛍のためだ。その蛍を俺から奪ったんだから、交渉の余地なんか一つもない」
「……やれ、出来が良すぎるのも問題ですな」
「ッ、クロネ!」
蛍がなぜ焦ったのか、分からなかった。
急に本体の耳の奥にざわめきが響き、人形のセンサーが働いた。
「ひぅ…?」
強い快感の突き上げで一瞬、意識を本体に戻しかけた。それをぐっと堪えるも、人形の操作がおぼつかない。倒れそうになったのを蛍が抱きとめてくれた。
「そうなってまでコントロールを失いませんか。本当に本当によく出来た人形ですね」
「……蛍の特注したやつだからな」
「その体のことではありません。あなた自身のことです」
蛍の腕の中にいる俺を冷たいアレイレンズが見下ろしている。人形の体は絶頂の余韻でガクガク震えてた。もちろん本体も。
「あなたは私が、蛍様のお気に召すようにデザインした子供の一人。あなたと蛍様が出会うよう采配したのも私です。
おわかりでしょう、この意味が……あなたの目も、耳も、嗅覚さえも、筒抜けなのですよ」
おん。
てことはアエロたちもその一環か? まあいいや、蛍とこういう仲になったのが偶然なのは、アエロやハルナたちを見ていても一目瞭然。
「すまない、クロネ。俺はお前になんと詫ていいか……」
蛍のほうがショックを受けてるようだ。ヘンな蛍。
「そうだとしても、蛍を選んだのは俺の意志だ。ありがとうよ、蛍の好みに作ってくれて」
好みだ、と蛍に言われてもよく分からなかったが、蛍の好みに合わせて作られたのは単純に誇りに思う。
「俺を通して蛍を盗み見てたわけだ、この変態野郎。聴覚や嗅覚もって、もしかして触覚もか? 蛍に抱かれる夢でも見たか!」
「………」
「俺の目を通して見てたなら、俺が蛍のためにどういう戦い方をするか知ってんだろ? 今度は戦争屋の軍脳皇子に訓練された宇宙のあらくれどもと一緒の大喧嘩だ。暇してるヤマトマフィアの下っ端も来るってよ。
盗撮盗聴されてようが構うもんか。シノノメたちを差し向けたのは俺だが、その後の動向は知らねえからな。せいぜい囚人兵の影に怯えろよ」
「全く舌の回る……あの吃りで口下手だった子供が」
「いつまでもガキの訳ねえだろが。失せろよ、気が利かねえな。これから蛍との逢瀬なんだ、邪魔すんな」
色っぽく見えるよう笑って蛍の首に腕を回してみせる。蛍、こんな時に嬉しそうにふにゃんふにゃん笑うな。あんたほんっとに俺が絡むと駄目な!
ブリンカーが一礼して去っていった。
なんだ、あの野郎。もっと紳士で知的な奴だと思ってたのに、サイコパスのゲスかよ。がっかりだ。いざとなったら本当に蛍になにかしでかしかねない。今日はとにかく、これ以上見せつけるのはよくなさそうだ。
それにしても、あれこれの謎が解けた。俺とカサヌイ、俺とハイドしか知らないようなことを、あいつらは知ってた。こういうことだったんだ。てことはハルナやカナカ、アエロたちの五感もジャックされてんのか。冗談じゃねえな。
なんでもいい。あいつらを殺したら意味のなくなるものだ。殺す。絶対殺す。
デオルカン皇子による訓練が、俺の脳も冒しているらしい。
「クロネ……」
険しくしてた顔を撫でられ、蛍を見上げた。
「本当に成長した。俺の助けなく一惑星の王にして混合軍の将か。なんとも全く、とんでもない子を拾った。天晴である」
嬉しそうに人形に頬ずりする蛍。ほ、ほっぺたからの快感でびくびくするって斬新な体験だな。
蛍はいつになく興奮した様子で目元を染め、熱烈にキスしてきた。
「ちゅ、ちゅ」
「ふ……っ、な、なんだよ。がっつくなよ」
「すっかり惚れ直してしまった。ああ、こんな時だが、俺は幸せだ。お前を気に入ったのは奴の謀かもしれんが、俺はハルナやアエロには全く惹かれない。お前だからだ、クロネ。愛している。愛している……」
「は、ぅ…んんぅ」
熱に浮かされたように口づけし、人形の肌をまさぐる蛍の姿をブリンカーに見せたくなくて目を閉じた。録画はしてあるからあいつぶっ殺してから見る!
あ、いやでも。目を閉じると指の感触が。舌が胸を舐める感触が。より鋭敏に感じられて……っく。
「おお、もう達したか。うんうん、若い、元気である」
「やっさわるな!」
イったばっかなのにまだ本体が精子を出してるトコを握られて背がのけぞった。
「はあ、かわゆい。ねこ、ねこ」
「んん……んーっ!」
覆いかぶさって頬に口づけられながら尻の割れ目を撫でられる。何かをつけてぬめった手指がアナルの上下をさするようにぬめりけを擦り込んでく。
今までも見られてた訳だが、今も聞いてるかもしれないと思うと、ヘンな声出すのは躊躇……
「ひぁああんっ」
とか言ってらんなかった。目ぇ閉じてるもんだから俺が予期しない時に、人形だからって蛍が一気に貫いてきた。
「クロネよ、先程からなぜ目を……見られているのがイヤなのか?」
「うっ、うるさ…あっ、ほっとけ」
「ああもう、本当に繊細でかわゆい……かわゆいなあお前は」
「あっあぅっ! ああっ、ああっ」
人形に入ってる時の蛍の腰使いはいつも乱暴だ。乱暴にしても痛くないからって……
同時に、セルフ目隠しプレイをしているせいだろう。
蛍は俺の身を回転させて後ろから抱き上げた。
「それ、これなら目を開けても大丈夫だ」
カーセックスのときにやったけど背面座位苦手……なんか子供のオシッコポーズみたいじゃない? これ。
しかもこの体勢、深く刺さる。
「はぁ……ッ、うんっあんぁ、あァ…ッ!」
揺すられたり突き上げられたり飽きのこない調子で翻弄され、二度目の絶頂は潮だった。生身のオムツの中が大変なことに。こうなるとは思ってたけども!
これ以上はいかん。意識がトぶ。
蛍の胸に手をついて離れ、ずるりと抜ける感覚にぞわりとしながら震える溜息ついてなんとか落ち着く。
「助けに来るから」
「ん……」
蛍の反応は鈍かった。心配そうなのが表情から分かる。
俺はまだ、信頼に値しないのか?
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
43 / 53