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菊蛍が登場して後、ロマたちには不安があった。
菊蛍はあまりに強大な存在すぎる。誰にもその力の全容が見えない。彼はロマの目を有し、神出鬼没なほど都合よく都合の良い時に現れ、様々な有力者との太いパイプを持ち、皇族の資金凍結するほどのテクニックがある。
このような人物の後釜には誰もなれないのではないか?
幸いにして彼はまだ若い。若すぎることもない。大事なければ向こう百年は活躍してくれる。
しかし、彼に何かあったときは? 彼を中心にまとまっているロマ、ロマを迫害する権力者との折衝は、誰が行う?
そのような折、流星のように現れたのが「クロネちゃん」であり「ロマ王子ウィッカ王」だった。
はじめこそスキャンダルの多く口下手だった彼だが、求心力があり、菊蛍の冒し難い美貌と違い、志摩王子に似た親しみやすい整った容姿を持ち、菊蛍にはない良心を持つ。
ウィッカーとしても強く、ハイドウィッカーとのタッグ、また彼の死後あざやかにマイクロチップを取り戻し、それを自分のものとした手腕、無敗の宙戦、それらは皇帝の乱心に怯えた人々の心を掴んだ。
待ち望んだ菊蛍に劣らない、いやそれ以上に成長するかもしれない王の誕生だった。
しかし、注目を浴びれば浴びるほどに彼に敵意を持つ者も現れる。
「申し訳ございません、デオルカン皇子。あの場で留めなければおそらくブリンカーの堪忍袋の緒が切れておりました」
「よくやった。また猫もよく貴様らを私兵にしてくれた。流石に体を張って止めた貴様らを殺すのは忍びない……犯す必要はあったのか?」
「どうせ死ぬなら役得にと、あのときは」
「貴様らな。俺にではなく菊蛍に殺されるぞ」
殺しを好むデオルカンだが、彼にとて殺したくない相手はいる。そうでなくば、ただの狂人だ。彼はあくまで人の本能としての殺し、戦いを好む。
「なんと言っていた」
志摩へ来てからというもの、妻と蜜月を楽しむシヴァロマがやってきて尋ねた。もっとも、自分も人のことを言えたものではないが。
「俺の部下が止めた。アグナータは……二重スパイになってしまったのか否か。あれなりに役目を果たしたのか。今はもうわからん」
「あれは真面目すぎた。性格的に合うだろうと皇軍警察に置いたのは間違いであった」
「ヴィーヴィーに絆されたかもしらんな。いかにもアイツ好みの王女だ。これはあの女の始めた戦争だからな……」
シヴァロマとてある程度は目をそらし、目を瞑り、なかったことにする。そうでなければ身も心も持たない。
この宇宙はあまりに残酷だ。
***
一瞬で理解した。記憶消去されてら。
しかも、
「知り合いかい」
「いいや。俺は此処に来るまで監獄にいたのだぞ。こんな可愛いのと知り合うチャンスなどない」
「いや、俺たちとしてはアンタが囚人兵だったことにも驚きだが」
俺だけじゃなくて全部忘れてる。出所した直後ってことは最古参の鷹鶴さえ。ロマ支援活動のことさえ忘れてる。当然、自分がロマの王と呼ばれていたことも把握してないだろう。
「ブリンカー! 俺たちを殺しに来たか!!」
「いや、俺はブリンカーじゃなくて機械感応」
「じゃあどうやって現れた! どう見てもブリンクだった!」
「まあそれはブリンクだけども」
「ブリンカーじゃないか!」
や、ややこしい。どうしたら……蛍にすがるような目を向ける。蛍は眉を顰める。
「うそつきの目ではないが、世の中には自分の嘘を真実だと信じ込んでしまう者もいるからな」
「可哀想だが、生かしておくわけにはいかないな」
「ま、待てよ!」
エレックガンをつきつけられてホールドアップ。
「警報を鳴らすぞ!」
「へえ。仮想次元のないこの星でどうやって」
え、仮想次元ないの……限定仮想次元あるけども。ここでやるのはよくないな。
手を上げたまま目を閉じる。
「よく分からんが、隠れてるんだな?」
「情報を得ようとしても……」
「申し訳ないが、俺の目と耳はアイン・Bにジャックされてる」
「やっぱり敵……」
「ちょっと待て」
一人が制止して処刑を免れた。
「アイン・Bってのはオートンの野郎のあっちの宇宙での呼称だ。それにこいつ、警報を鳴らすなんてこの星の人間が絶対に言わないようなことを言った。おまけに丸腰だ。
お前、どこから来た。何者だ」
「俺はロマ王子ウィッカ王。黒音だ……クロネの名のほうが通ってる」
「ロマ王子だと!? 適当な嘘をつきやがって」
「待て。本当なら殺したら後がない。我々の王となられる方だ」
「それと可愛いので個人的に殺したくない」
蛍、記憶なくても所詮は蛍。
「ロマ王子ウィッカ王は類を見ない機械感応だ。ブリンク能力を持ってるなんて聞いたことがねえ」
「個人では出来ない。超AIコリドンの手を借りて此処まできた。
ウィッカーはいないのか。いたら俺の意識体の大きさを感知でき……る奴も少ないんだっけ。厄介だな」
「何か証明できる方法はないのか」
「この星全体の警報装置を鳴らすとか」
「やれるもんなら―――」
言ったな? 後悔すんなよ。
自身の聴覚を遮断して限定仮想次元を展開。意識体にひっかかる全ての警報装置とリンクして一斉共鳴。
蛍たちが耳を塞いでのたうちまわった。そういやこういうの、病人に優しくないんだっけ……赤ちゃんもガン泣き。確か音を大きく拾ってしまう病気もあったし。
警報をすぐに止めた。
「わかった、わかった。こんなのがいるなら敵地に差し向けるような真似はしないだろうしな」
「なんで?」
「宇宙に二人いたらおかしいレベルだって言ってんだよ!」
そうなんだ……なんかショックだ。能力自体は底辺ヘボなのになあ。
「それで……あんたたちがどういう集団かは知らないけど、こっちはあんたたちを受け入れる準備がある。ガリア星系を乗っ取り、移民を受け入れさせている」
「そんなのは無理だ。必ず反発する。我々と彼らは違いすぎるんだ。
我々の目的は言ってしまえばこの星の支配にある。現在はあちらとこちらを往来できるブリンカーどもが幅をきかせ、我々に何の決定権もない状況だ。
あろうことかオートンどもはあんたがたロマの国に戦争を仕掛けた! 許せない行為だ」
うーん、利害は一致してると思うけど……問題は手を組んでも手を貸せないことにある。遠すぎて援軍を送れないんだ。
「―――まあ、あんたたちを受け入れる気でいるのは覚えておいてくれ」
「ありがたい」
「それとは別に、あんたを勧誘しにきたんだけど」
「俺か」
目を見開く蛍にするっと近づいて真下から目を合わせる。知ってるよ、あんた俺の顔が好みなんだろ。笑みこぼれて俺の頬に触れてくる。
「残念だが、俺はこうでも情に厚いことを信条としていてな。彼らの戦いを見届ける」
「……そう」
「だが、終わった暁には改めて―――ああ」
蛍は俺の手をとった。せつなそうな視線を指輪に向けている。
「そうか、お前はロマ王の……」
いやこれあんたがくれたやつ。
ふっと溜息ついて蛍から離れた。
「それじゃあ、俺はやることがある。できれば案内してほしいけど」
「なんだ?」
「アイン・Bを殺す」
あいつ殺す。今度は記憶消去だと? フィルターじゃなかったら二度と戻らないんだぞ。蛍をなんだと思ってんだ。お前の玩具じゃねーんだよ!
また一からやり直しか。いや、今度はゼロからやり直しだ。鷹鶴だってオオタチの爺ちゃんだってがっかりするだろう。
ハイドなんて生きてもないから存在すら認識されないままなんだぞ。あんなに蛍が好きだったのに。
「それならば俺のもとにいればよい。あれは定期的に俺を連れ戻すためにやってくる」
俺の頬を愛しげに撫でながら蛍が言う。
「な……クロネといったか。俺には名がないのだ。お前がつけてはくれまいか」
「えっと」
菊蛍、と言おうと思ったけど、それってあのガッデム薩摩王がつけた名前なんだよな。だったら。
「蛍。あんたは蛍だよ」
「そうか、良い名である」
蛍はにっこりした。
「ここで厄介になる間は俺もあんたたちの活動を手伝うよ。この状況下なら役立つと思う」
「頼もしい限りだな」
「待てよ、そいつを信用しすぎじゃねえのか? 本当に敵じゃねえのか!?」
「さきほどの技を見たであろ。何よりかわゆい」
「こいつもう追放しよう」
「強いし、リーダーが気に入ってるから無理だ」
「……蛍。あんた体使ってたらしこんだんじゃねえだろな」
「うん? それがどうかしたか」
そうか、俺のこと忘れてるからハニトラ解禁か。この場合、逃げ延びるためによかったのかもしれないけど……
なんか、やだなあ。蛍の胸にぽすんと頭を乗せる。
「はあ、なんとかわゆいことか。ねこ、ねこ」
「アンタ、そんなの構ってリーダーの不興を買っても知らねえぞ」
「入ってしまえば、こちらのものである。俺を要らぬと言うならば、この子と一緒にロマの星へ行く」
「なんて奴だ……」
ほんとになんて奴だよ。まあ、蛍視点、義理で活動に付き合ってる状態だもんな。
「ひとまずリーダーに紹介する。さっきの警報は彼も聞いていただろう。話は早いはずだ」
というわけでコンテナをずらした場所から現れたダクトみたいな暗くて狭い通路を張って辿り、何度か曲がって偽装扉から部屋に出た。
そこも似たような、倉庫を改造したような部屋で、……窓も扉もないから倉庫ですらないかもしれないな。要するにはアジト。
「おお、べっぴん。帰ったか」
髭もじゃ男が破顔する。そして、見慣れない顔した俺に目を留めた。
「おかしいな。べっぴんと同じでイイモノ食って育った顔してる。なにより可愛い……かわいいな?」
「であろ?」
蛍が同意する。
「この訴えるような大きな猫目。きゅっと引き締めた唇。小作りな顔立ち。少女のように可憐だがちゃんと男の子の顔をしておる。凛々しく利発なのに幼さを引きずっているのがまたよい。何よりこのストイックな清潔感よ。もう俺はこの子がかわゆくてかわゆくて……ロマ王を殺して奪いたいほどである」
「物騒だなお前」
ほんとだよ。あとロマ王はあんたです。
蛍と初めて会ったとき、ヤルようになったのは一ヶ月くらい経った後だった。なのにこの蛍ときたら、もうべたべたと……あの頃は忙しくてくっついてられなかったのか? 会って菓子類渡すとそそくさ去ってくだけだったが。
「それにだ、その指輪。星の子の指輪を渡すなど、独占欲が強く束縛が過ぎる。死さえも自身の自由にしたいとは」
や、それは俺が無茶しすぎるから勝手に死ぬなって意味だったと思うよ。なんで自分がやったことに自分でぷんすこしてんだ可愛いな。
蛍は艶っぽく微笑んで俺の顎に触れる。
「そんな束縛のきつい者はやめて俺にせんか? 大事にしてやるぞ」
知ってる、イヤっていうほど大事にされる。
「おい。俺を紹介するんじゃなかったか」
「おおそうだ。ベッカード、この子はクロネ。ロマ王子ウィッカ王だそうな」
「ハァア!」
ベッカードさんが格闘家みたいになっちゃった。
「こんなとこで何してんだアンタ! さっさと星に帰れ!!」
「やー、えーと、そのぅ」
だってここにロマ王いんだもん、とは言えず。にこにこしながら俺を抱えてご機嫌なんだもん。こいつ連れ帰らないと……
「できればこいつ、蛍も連れ帰りたい」
「そりゃ困る、そいつは仕事だけは出来る。それと、あっちのテクもな」
なんて髭もじゃベッカードがヤらしい笑みを浮かべる。むー! 蛍は俺んだぞ!
「妬いてくれるのか?」
ほっぺたつんつんしながら蛍が嬉しそう。お前、ふざけんなよ。くそ。
「俺は最悪、意識だけで帰れる。とにかくアイン・Bを殺して蛍を連れ帰るのが俺の目的だ」
「へえ! オートンをね。よくわかるよ、俺もあいつのことは殺してやりたい」
とりあえず部屋を用意された。
「ここが一番いい部屋なんだが、ウィッカ王に相応しくはないよな。すまねえ」
「いや、十分……ていうか」
辺りを見回しながら、胸が騒ぐ。男の子心がくすぐられる。
なんだこの部屋は! ジャンクの寄せ集めで作った渋い鈍色やの家具。風呂が室内にあって、沸いてる。これも薄いブリキのバケツのようだが、外側に触れても熱くないんで流石にブリキじゃないだろう。
「鍛えていないハリコンである」
あ、そうか。ハリコン合金だもんな、普通は。へー、純ハリコンってこんな質感なのか。あれだ、志摩旗艦のボロ船に似てる。つぎはぎ。ひゃーたまんねー。ベッドも色々ジャンクパーツから組み合わせててさ、スチームパンク風。んあー、浪漫!!
人類って昔、蒸気なんかで乗り物動かしてたんだぜ。凄い。現代なら逆に思いつかない。はーかっこいー。
「お気に召したようで良かったぜ。蛍って名前になったのか、お前。彼の世話を頼んだぜ、蛍」
「頼まれた」
割にあっさりした関係だな。
「というわけで俺がお前の世話係である。何でも申し付けておくれ。とはいえ、俺も新参者だがな」
だろうな。
俺は思考を巡らせる。最近まで囚人兵だったと言い張る蛍。記憶を消された上でこうなってるのか、それともただのフィルターなのか。
じいと見つめてたら、蛍は唇を妖艶に綻ばせて俺と距離を詰めてきた。ち、近っ……
「そう見つめられては勘違いしそうになるぞ。俺はお前に気があると言ったであろ」
「ひぅっ……」
熱っぽい声で耳元で囁かれて身が震える。
蛍は少し意地悪そうな顔をした。
「ほう。かなり仕込まれているな。やはりロマ王か?」
「ん、や……っ」
「おもしろくないなあ。どんな男だ」
鏡見ろよ。
腰を抱かれて指を絡められ、額をつけられる。こいつ……ほんとに俺に恋人がいてもこんなことすんのか? なんかちょっと、う、嬉しいじゃんか。
それに、俺ってずっと「蛍のお気に入り」として扱われてきたから、こんなふうに蛍が落とすつもりで口説くなんてなかった……
「クロネ……唇に触れてよいか?」
吐息がかかる位置でかすれるような声で言われ、思わず目を閉じた。
「ん…ふ、ぅんん」
唇はそっと触れて来たけど、あんまり遠慮はなく舌が差し込まれてくる。これっていわゆる初デートで舌入れてくる男ってやつなんじゃないか。しかも蛍視点では不倫設定だし。最悪だな。最悪だなこいつ。
「ちょっと、服の下に触るなよ」
「ん? だが、もうこんなになっている」
「ひっ、や……ん」
軍服に手を差し込まれてファイバースーツごしに股をするりと撫であげられた。股の間に手を差し込んで、繊維を指ですりすり擦ってくるの。もう。もうばか。蛍のばか! こんなにされたらもう俺は拒めないのに。
「はっ…ん、ん……あ、あぁ」
じゅるじゅる音立てながらディープキス。尻揉みしだかれて前を擦られる。その手付きの巧みなこと。心ならずも何人もの男に抱かれてきたけど、こんな奴ほかにいなかった。初めて知った男がこれなんだよ。離れられる訳がない。
「ふふ。本当に可愛い顔をする。なあ、クロネ。答えておくれ。ロマの王はどんな男だ?」
「ん……」
キスの合間に息をしながら蛍を見る。
「……とびきり綺麗で」
「ふむ」
「過保護で、モンペで、残酷なくらい優しくて、ちょっと意地悪なやつ」
「ふむ。なるほど俺のようだな」
あんただからな。つか全部自覚あんだな。
「俺のような男ならば、俺にしておけ? その男よりも可愛がってやるし、いいおもいもさせてやれる……経済的には劣るかもしれんがな」
出所したてじゃそうなるだろね。
「クロネ、クロネ……かわゆいかわゆい。ねこ、ねこ」
「ん、あ……ああ、んっ」
ちゅっちゅリップ音をさせながら軽く股をなで上げられて、勃ちあがったモノの先端に指が這う。その爪がぴりぴりと繊維を裂いて、尿道口に割り入ってきた。
「う! うあ!! やめっ」
「よかろ?」
「あぅううう」
爪で入り口の穴をぐちゅぐちゅぐりぐり。神経集中した箇所にじんじんする悦さが……
「やぁ、だ…って……はぅっ」
潮ふかされた。う……うしろ欲しいよぉ。
耐えられなくて強請るように足を絡めたんだけど、
「まだ、俺のものではないからな」
すげなく身を離された。いけずかよ!
「さて、どうロマ王を倒すか……」
こいつ……俺に本当に恋人がいても倒す気しかねえのか。蛍が二人いると殺し合うんだな。
ぞっとした一幕だった。
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